けれども、どこに埋まっているのか
月も星もない寒夜 頭を垂れて闇を這う 冒涜の墓荒らし。 暗く恐ろしい大地をあばき、せめて屍の 優しいその手の、腐肉の甘さ 噛み砕いて啜る髄の味 流れ落ちる赤黒い辛酸の一滴も残さず飲み干そうと 闇夜に這い蹲る墓荒らし。 けれど、 百の、千の、万の墓をあばいても、見つからない どこに埋めてしまったのか どこで殺してしまったのか 億の、兆の、数えあげることを忘れたほど、 探しても、探しても |
(彼の脳髄は既に奇怪な悪性細胞に取って代わられ、ありもしない幻影を追いかけている) (病んだ心の映し出す、幻想が、幻覚が、妄執が、彼の全てである) (それは彼も自覚している) |
最後にあばいたのは 狂人の墓。 墓碑に刻まれたのは 墓荒らしの名。 懐かしい人は、そこに。 その名前も、顔も声も 何もかも忘れてしまった 懐かしい人が、そこに。 銀の星が静かに瞬き 地平線から月が昇る。 砕かれた墓碑を残し 夜風は空を吹き渡る。 |
(自覚と幻覚が同じく虚像であることは、幸福である)
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