たいとる : 『悲劇の効能その他』
ながさ :短い×4
どんなお話 :昔と今と、途中にも何かあったよという話。
1はハルとブルース。 2は『FINAL NIGHT』のルーサー。 3,4は『INFINITE CRISIS』後のいつか、カイルとハルとブルース。
1.いつのまにか
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ハルはカウチに崩れている。
テレビの画面を流れる、モノクロームの映画。
ハルは、そちらを眺めているような。
まるで違うことを考えているような。
ただ、左手を
漫然と動かす。
ふと、気付いて
膝の上に視線を落とした。
「ねてる。」
猫でも撫でてる気になっていたが、
体長から言うと、サバナの木陰で昼寝する豹に近い。
ハルの腿を枕に、いつのまにか
ブルースは、眠っている。
前触れなくドアを蹴破るように現れた時から、
ブルースは、ずっと自分の“オモチャ”に夢中で。
手にしているタブレットの画面を覗いてみると、
整列するスペクトル、クロマトグラム。
繋がりの分からない画像に、長々した数式の流れ。
ハルが何を聞いても、ろくに口をきかない。
つまらない。
手から取り上げてやる真似をしたら、
びかりとする両眼がハルを睨んだ。
「邪魔を、するな」
その目を見た瞬間、ハルは知った。
今日のブルースがオモチャにしているのは、
どこかの万年居眠り会長が退屈すぎて泣いてしまうような、世界各地の経済動向でなく。
たとえば、
難攻不落の要塞を、誰も気付かないほど僅かな綻びから、
一撃で突き崩し跡形なく瓦解させ、奥底に潜んでいた物を引き摺り出すような、
徹底的に容赦ない、
“悪だくみ”だ。
陰謀、策略、どう言ってもいい。
他人のそれを暴いて叩き潰すのも得意だが、
自分が策動するのも、コイツは決して、嫌いじゃない。
目を見ればわかる。
闇夜に狩りをする獣は、
両眼に青い燐火を灯し、獲物を追う。
それと、唇。
これは、誰かにとって非常に有り難くないことを企んでいる途中、
ちょっと楽しくなってきた頃合いの、顔だ。
しかし、
他人の部屋に上がり込んでも、そんなことをしているあたり、
お利口さんのコイツがバカである証拠と、ハルは考える。
カウチの、片側と片側。
座っていた二人は、
しばらくすると。
ハルは、元のまま寛いでいた。
その膝を枕に、ブルースは寝そべっている。
オモチャに手を出されない限り、存外大人しい生き物のようで、
ハルが腕を伸ばしてその身体を引き寄せると、重力に逆らわず、
ことん、横になった。
ハルは、テレビに映る古い映画を眺めながら、
友人の頭を撫でたり。
耳の辺りをくすぐって嫌がられたり。
思索の世界に旅立った友人は、まだ地上に帰らないらしく。
オモチャをいじっていたかと思えば、
何もない虚空をじっと見ている。
時折、低く唸ったり、とても小さな声が、
何かをなぞり、静かに吐息をもらすだけ。
その黒髪を、指ですき
絡めて遊ぶハルは
飽きることもなく
いつまでも、ただ
荒野
乾いた寂しさが
画面の向こうを吹き渡る
ハルは、見るでもなく
見ないでもなく
透明な地平が
茫洋と広がる部屋で
猫といる時間
気がつくと、ブルースは眠っていた。
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この後五分もせずに目を覚まし、眠ってなんかないと主張する。
なんで猫かって、岩合さんの世界ネコ歩きを見てたからです。
2.悲劇が観客の心理に及ぼす作用、その効能について
FINAL NIGHT #4
今日も地球が危機ですが、レックス・ルーサーには他人事なのだ。
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流れる血は、川となって溢れる方が良い。
屍の山は高く聳え、斜陽に赤々と焦げるべきだ。
憎み合う主役は敵同士だけでなく、血を分けた肉親、親友、恋人。
怨嗟の糸に絡め取られ、手に手を取り、互いの心臓に刃を突き立てる。
裏切られ、惨たらしく蹂躙される信愛が、尊ければ尊いほど、
約束された破滅に、観客は怯え、
期待に胸を高鳴らす。
殺戮と復讐。
凌辱と毒薬。
臓腑を引き裂き合うに似た、魂と魂の、真摯な熱情で、
誰も彼もが先を争い冥府へとひた走る、その果ての。
絶唱のアリア。
屍の折り重なる舞台から、天上の神々へ
嘆きは、祈りのように清らかに。
悲劇は、見る者の心を揺さぶり、
仄暗い底に沈めた澱を、澄明な泡沫へと昇華させる。
その恍惚を、観客は知っている。
だからこそ、人は古来から、悲劇を愛してやまないのだ。
(あるいは飽満者の、渇望そのものへの代償として。)
そして、今。
どうだろう、この混沌は。
まったく胸が清々しくなるようだ。
間もなく、我々の太陽の核融合反応は、限界点を迎える。
エネルギー放射の減少は、その瞬間、恒星を形成する膨大な質量を内側へと反転させ、
収斂が生じさせる爆発は、その衝撃波によって、地球に壊滅的な打撃を与えるだろう。
にも拘らず。
地球を救うはずの、この小さな方舟の中は、
千年の憎悪が互いの喉笛を噛み千切ろうとするようだ。
“ヒーロー”とは、人々の希望となる存在。
彼等は強い。 彼等は正しい。 彼等は、揺らぐことがない。
蒙昧な愚民達は、そう信じているが。
詰まらない幻惑を捨て去り、己の目で世界を見るべきだ。
彼等が、諸君等と何ら変わるところのない、哀れで、愚かしい者達と知れるだろう。
見よ、舞台は氷に閉ざされたコキュートス。
呪われし異端者が永遠の孤独に苛まれる地獄こそ、
世界を幾度も救ってきた英雄達の、最終幕。
輝ける日々の栄光は
裏切りと不和に踏み躙られ
かつての友は憎悪の刃をまじえ合う。
これこそ、友情のあるべき姿ではないか。
嵐に揺れる方舟の中
私は、感動すら覚え、古人の正しさに思いを馳せる。
悲劇はまさに、観客の心を慰めるために、存在する。
(空虚な仲裁の言葉を吐くお前は、だから木偶だと言うのだ。)
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ルーサーは、いつだって自分が一番キラキラしてる。
木偶はスーパーマン、千年の憎悪は蝙蝠とおハルさん。
そして、古人であるアリストテレスは、きっとそんなこと言ってないよ。
ところでFINAL NIGHTって何? とか管理人の言い訳が見てみたい方はコチラ。
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