たいとる : 『本日はお日柄も良く、』
ながさ :ほどほど
だいたいどのあたり :ジェイソンがロビンだった頃で、
『本日は晴天なり。』の後のお話。
どんなおはなし :息子の言葉にパパは目の前が真っ暗になったそうですチキンもぐもぐ。
ちゅうい :ほどほどに腐女子向けだよ。 GL/蝙蝠
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と、いうわけで。
ジャスティスリーグは今日も地球の平和を守ったのである。
が、大団円その後。
リーグのメンバーはそれぞれの日常へと戻って行ったが、ハルはウォッチタワーに残っていた。
帰る家がないわけではない。
けれども、最後にあの部屋のドアを開けたのは、いつだろう。
キッチンでまず、レンジするだけのラザニアを発見。
ポテトとチキンも確保した。
ビールはないのでミネラルウォーター。
ささやかな晩餐(昼餐?)は、星々の輝きを眺めながら。
すると、誰かもキッチンに用があるのか、
漆黒の影に音はなく。
しかし、チキンをくわえたハルを目にすると、不機嫌な唸り声で、
「何故、貴様が、ここにいる」
バットマンは、今日も何故だか至極、機嫌が悪い。
通常、ジャスティスリーグが事件を解決すると、ジョンがその顛末を記録しておくのだが、
このダークナイトは何だかんだと理由をつけては、近頃ずっとゴッサムシティに引き籠り、
ウォッチタワーに顔も出さなかったので、今日は代わりに居残りなのだ。
「見りゃ分かるだろ、メシ食ってんだよ」
おまえも食う? と手に持ったチキンを振ってみせると、
極低音の無愛想で、何か聞き取れない言葉を吐き捨てた。
あとはもう、ハルなどそこにいないように、
その横にある、コーヒーマシーンをセットする。
マグカップは、I♥GOTHAM
以前ハルとオリーがナックルボールの研究をしていた時、
腕からすっぽ抜けた白球が、偶々そこにあったブルースのティーカップを壊してしまったので、
二人が代わりに買った。
オリーがそのことを伝えた時、ブルースが何と答えたのか、ハルは知らない。
ダークナイトは、熱いコーヒーが注がれるマグを、無表情に見下ろしている。
pin!
小さな音がした。
ラザニアを頬張りながらハルが視線を上げると、
バットマンは自分の通信機を覗いている。
「家から呼び出しか?」
確認、というよりは、
その一言でささくれ立つ友人が見たい。
機嫌の麗しくないダークナイトを、敢えてさらに苛立たせる。
あまり人の真似しない、ハルの特技の一つだ。
しかし。
常なら、刃の如く冷徹に切り捨てるか、一瞥もくれず闇色のケープを翻すはずが、
硬直したまま、身動ぎしない。
「ブルース?」
その瞬間、ゆらり
よろめいて、危うくマグを手から落としかけた。
「おい、大丈夫か」
バットマンは何も答えない。
弾みでこぼれたコーヒーが指を汚していたが、まるで、ハルの声が聞こえてないように。
通信機を、そっとカウンターに置き、マグをその隣に。
ハルから受け取ったティッシュで、緩慢に手を拭う。
そこに、残り時間10秒を切った爆弾を解除する、あの滑らかさは無い。
黒い怪物の仮面は、表情を鼻の辺りまで隠している。
ハルは、咀嚼していたものを飲み込むと、
さっと通信機を掠め取った。
あ。
声にもならないような、一拍遅れの吐息を。
ハルは聞き流し、画面を見る。
それはテキストメールだった。
『ジャスティスリーグの方がしばらくかかるんだろ?
そんなに心配しなくても、こっちはちゃんとボコボコにした後で
キチガイ病院までエスコートしてやったよ。
まあ、少しぐらいはNWも手伝ったかもしれないけど』
ハルは首を傾げると、ラザニアの残りを口に運んだ。
『ボスが留守にしてたって、俺一人で充分やっていける。
たまには気晴らしでもしたら? -R- 』
その最後まで読み終え、ボトルの水を嚥下する。
が、分からない。
この文章のいったいどこに、ダークナイトを揺さぶる暗号が隠されているのだろう。
どうやら向うでも無事に事件が解決したようなのに。
「返せ」
考え込む間に手から奪い返される。
けれど、そこにも鋭さがなく。
「おまえ、どーしたんだ?」
何かが今、軋みを上げているのは、確かだった。
理性だか哲理だか、見えない部分の歯車が錆びついて、
なのに、気付かない振りをしている。
「貴様には、何一つ、関わりの無いことだ」
脅すように言い放つ、お得意の台詞を、
ハルが聞き入れたことは一度もない。
「死にそーなツラした奴が、俺に何だって?」
色の失せた唇が、引き結ばれる。
ハルは笑う。
不興を買うのは、得意なのだ。
バットマンの黒いグローブが、自分を隠す仮面を外す。
双眸が遮るものなくハルを射貫く。
沈黙の、藍色は
静けさとは真逆の、憤怒。
その瞳に煌めく、冷酷と暴虐の結晶を
ハルは黙って見返し、ブルースの次の言葉を待った。
しかし、いくら待っても答えはなかった。
血の気の失せた顔に、ほとんど殺意に近い衝動を湛え、ハルを睨んでいるくせに。
そのうち、ブルースの方が目を逸らした。
何か、堪えきれないように、眉を顰め、
一刹那、瞳が揺れた。
「待った。 おまえホント、おかしい」
身を翻そうとしたブルースの腕を、ハルは反射的に掴んだ。
おかしい。 普通ならこの時点で投げ飛ばされるか、えげつない捻られ方で手を外される。
掠れ声が何か罵った。 耳に入らなかった。
掴んだ手首をぐっと自分に引き寄せ、顔と顔とを突き合わせる。
それでもブルースは、ハルの目を見ようとしない。
頑なに、けれど、どこか不安そうに、
瞬きし、睫毛が影をふるわす瞳の。
渦のような、感情の流体。
「……ジェイソンが……」
今にも倒れそうなほど蒼白な顔で、
小さく唇を動かし、やっとそれだけ呟いた。
その強張った表情が、ハルが一人の名前を思い出すのに、時間を取らせた。
「おまえんとこのロビンが何だって?」
メールの終わりは R
「ジェイソンが、……お前を、知っていた」
「そりゃそうだろ」
「違う」
暗い溜め息と共に、ブルースは首を垂れてしまった。
余程口にしにくいのか、言葉が途切れる。
「……私が お前と、……」
ハルは、目の前にいる友人と、
掴んだままの腕と、唇までの距離を、暫く考える。
「あー。 そういう」
たまにだが、ハルとブルースは、セックスする。
どちらが先に言ったのかは忘れたし、今でも特に何かを言うことはないが、たまに。
それが今、そんなに、重大なこと なのだろうか。
「何故、あれは、気付いたんだろう……
いつから、知っていて、私に 黙っていた ? 」
これがたとえば、人妻を寝取ったなら問題だが。
ブルースが、馬鹿みたいにゴッサムのことしか頭にないのは、誰でも承知しているし、
宇宙を端から端まで飛び回るハルが、この引き籠り探偵と顔を合わせること自体、多くない。
なのに、現実として、ブルースは打ちのめされている。
もしも、宇宙の凍り付く最期の日が到来したとして、
バットマンは、やはり詰まらなそうに、世界を睥睨しているだろう。
ブルースの声が、震えている。
まるで、世界の終焉を告げる鐘が聞こえているように。
ハルは、そっと距離を縮めると、
俯いて動こうとしないブルースの、その頭を抱くように、ハグする。
一人で立っていられないほど沈み込んだ、
小さな、不安げな吐息を
胸元で聞く。
「で?」
もう、笑ってしまいそうだった。
「普段おっかないダディが仕事の合間に同僚と寝てたのを知って、
おまえのカワイー駒鳥ちゃんは何だって?」
固い拳が肋骨の下にめり込んだ。
「痛ェだろバカッ」
獰猛な唸り声が不服を申し立てる。
人間なんだから言語を使おう。
「……ジェイソンは、私を、責めなかった」
「じゃあいいだろ」
「良くない」
顔も上げないブルースが、やけにきっぱり言い切る。
「私は、あれの、養育者としての、責任がある。
……その思慮が、足りなかった」
ハルは黙って、その黒髪に唇を寄せる。
腕の中、静かに深く、溜め息。
「だから、ゴッサムを離れたくなかったんだ……。
特に、お前の現れそうな所には、絶対に立ち入りたくなかった。
それなのに、お前達は入れ替わり立ち替り、喧しいことを言ってくるし、
それ以上に煩わしい連中が、徒党を組んで下らない策謀をする」
鋼の自制心のどこか、ひび割れてしまったのか、
後から後から溢れさせる、これは愚痴というものだろう。
「ようやく事態が終結したと思えば、
何故か私が全てのデータ作業をすることになっている。
……私はただ、そうなった事情を、ケイブに伝えただけだ。
出来るだけ早く戻ると、言いたかっただけだ。
なのにどうして……あれは、誤解 するんだ……」
「誤解?」
少しだけ顔を上げたブルースが、じろりとハルを睨む。
その瞳の中で、俯いたままのブルースが、途方に暮れている。
「……私が……あれに隠れて、また不道徳なことをしていると、
勘違いしている」
不道徳の一言は、未だかつてない衝撃となってハルに突き刺さり、
腹筋をひくつかせたが、噴き出すことだけは、堪えた。
集中力。
それがなくてはグリーンランタンなどやってられない。
「おまえの考えすぎじゃねーの」
気晴らし。 ロビンのメールにそう書いてあった。
どういう意味だったのか、ハルは知らない。どちらでもいい。
けれど、ブルースは
「私は、あれにとって、良くない人間に なりたくないのに……」
消え入りそうな声で、呟いた。
ハルはただ、友人の温もりを感じながら、
その背中に回した腕で、落ち着くように、しっかりと抱いてやる。
鼓動と鼓動が重なる。
その錯覚に笑う。
「……ブルース」
つい最近、太陽系第一級危険生物として、登録申請しておいた。
ジョークだと誰も気付かなかったら、そのままオアのアーカイブに残るだろう。
洞窟に生息し、性格は極めて狂暴。 人殺し以外の大抵のことはやる。
「おまえそれ、手遅れ」
出来るだけ、優しく言ったつもりが
びくんと震えてしまった。
好き勝手なことばかり言うが、この友人は
心がとても、不器用で。
他人をまるで信用しないくせに、
その他人を、心の底から、大切に想う。
「おまえがまあ、ロクな人間じゃないことぐらい、みんな知ってる」
だから、こいつの傍にいる人間は
このクソ野郎のためなら、簡単に命を投げ出すだろう。
ブルースは、そんなことも知らない。
「だから、これぐらいは 不道徳って奴に、入らない」
本当は、こいつの望みどおりにならないことなんか、何もない。
声を上げて求めさえすれば、ずっと楽に、手に入るのに。
まるで迷子が、泣くのを我慢してるみたいな顔で、
人の脇腹を殴るのはやめろ。
「笑う な」
「無理言うな」
ついに唸る気力すら失った、見るも稀なグロッキー。
笑う以外、どうしろと。
偏屈で、他人の気持ちが欠片も分からない、クソ野郎が、
こんなに可愛い。
だからさっさと機嫌直して、顔上げろ。
そしたら、キスしよう。
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まあ、蝙蝠が機嫌を直す日などないよ。
二人が、ボクシングにおけるクリンチだなあと書いてる間ずっと思ってたわけですが。
ジェイソンには別にパパをいじめようとかそんな意図はなく、後ろめたいパパの被害妄想ですよ全部。
つか、ジェイソンは、パパの優先順位がロビン>その他愛人と知ってるので、よゆーです。
むしろ、パパがちょっとぐらい遊んだって気にしないよ? 俺って寛大だよね? 的な。
ジェイソンにとって最大の敵はむしろディックだ。
ブルース様は、ディックが離れたおかげで、一人って寂しいな、とか、もっとしっかりしなきゃ、とか考えたら良いです。
考えた挙句に意味わかんねーことになるがいいよ。
ちなみにI♥GOTHAMマグは本当に使ってるのを見たことあります。
ナックルボールってのは無回転であることにより、投げた人にも予測不能な球になるとかなんとか。
なんかついでにオマケ書いちゃったので、置いておきますね。→
良い子の中学生以下は閲覧禁止だよ。 あと、ひたすら可愛いって言ってるだけだよ。
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