たいとる : 『脈絡もないがつまりはそういうことだ』
ながさ :短い×10-13
どんなおはなし :小ネタ集。 ヴィランばかりだよ。 『BLACKEST NIGHT』とか『BATMAN : R.I.P』とか『BATMAN&ROBIN』あたりから。



*突然ですが、ためにならないキャラクター紹介*

・ブラックハンド: BLACKEST NIGHTを引き起こした一人。 生前から死体好き。 ゾンビになってからも死体大好き。

・トーマス・エリオット: 幼馴染、兼、鬼畜。 基本的には優秀な外科医(元)。

・Dr.ハート: 色んな名前があるけれど基本的に変態。 間違ってもパパじゃない。

・レッドフード(二代目): 人生泥沼明るく生きよう。

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10.ならば教えよう
[BLACKEST NIGHT #5 コーストシティ ブラックハンド]






ヴヴゥヴヴウウヴゥゥ
ゥヴヴヴウゥンンン


黒蝿の、
鈍重の、
死肉に群がる羽ばたきの。
闇夜、全天の、腐爛。
黒雷轟かせ、死者達は還る。

「畢竟、その結晶するところは "死と愛" だと言えるだろう」

風に澱み、地に歪み、
万象の亡霊は黒い津波のように押し寄せる。
預言者は独り、敬虔の声。

「死は、あらゆる者に平等に約束された唯一の必定だ。
 この宇宙に存在する者は、聖人であれ独裁者であれ、
 産み落とされたその瞬間から、存在の消失する一点を目指してひた走る。
 だからこそ、死と抱擁するために宗教は生まれ、
 逝く者への哀憐の器として形を得た」

黒く爛れたその腕の、
愛しげに撫でる白い髑髏は、
盲、舌切り、請わるるままに歌いもしよう。

「無秩序に生滅流転する宇宙の、砂塵の一粒にも満たない己の儚さを、
 愚行を、蒙昧を、卑劣を。 哀れみ、許し、最後の鉄槌を振り下ろす。
 その無償の愛で、慈悲で、信仰は救いを与える。
 薄皮を剥げば、血と臓物が詰まっているだけの、
 末はただ腐り落ちるだけの肉塊に過ぎないと、悟らせる。
 その正しさに、私は涙する」

忘れじの面影は
闇路越え、在りし日の黄昏から
慕わしや、その指と、声と、眼差しと

「何故ならば、"死"こそ、始まりだったからだ。
 暗黒の、無限の、完全なる虚無。 始まりには "死" だけが存在した。
 しかしある時、"異物"が混ざりこんだ。
 産声で静謐を穢し、傲慢な畜生腹共は次々と孕んでいった。
 至るところ混沌が蔓延り、あらゆる罪咎は解き放たれ、永遠の闘争が始まった」

幾度か、はや、覚束ず
懐かしきその足と、その手と、その顔とを
石以て打つ、肉を潰す、骨を砕く
幾度かは、はや

「だが、驕ってはいけない。 偉大なる静寂に背く異物は、この次元に属すものではない。
 虚しく抗う仮初の、波間に浮かんでは消える泡沫、その儚さこそ真理であると悟れ。
 始原の暗黒に侵入した異物は、"光"と名付けられた。
 そして、永劫、あるいは無にも等しい時間を、"夜"は待ち続け、今ここに還る。
 歓喜し抱擁せよ。 同胞達の懐かしい呼び声が聞こえるだろう」

然れども、忘れじの人は
幾度この手で打ち殺そうと
闇路越え、在りし日々のまま
懐かしき声で吾を呼びては腕を伸ばし
慕わしや、その

「生きとし生ける有象無象は、二度と明けぬ夜の底、夢幻のように消え失せる。
 数多の勝利を重ねた英雄すら、骸となれば彼の正義も塵となり、今や野晒しの骨を残すだけ。
 私もじきに、この道行の終わりと共に消え去る。
 ……ああ、だから私は今、確かに、」

暗夜の穢土を滔々流れる説教は、法悦の境。
黒く爛れたその腕の、
愛しげに撫でる白い髑髏に、
頬を寄せる。

「これが君達の言うところの "生きている" なのだろうね。
 無論、比喩だが」


そう締めくくると、ブラックハンドは彼に向き直った。

「さて、理解していただけたかな? ウォリー・ウェスト」
「いや、意味分かんねェし、キモい。」














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#5で、ブラックハンドが「フラッシュは僕の好みじゃないんだよネ☆」と言ってたので、やってみた。
と言いつつ、原書をきちんと読んでないのでノリで書いてますよ。 ごめんなさい。

えーと、原書を御覧になってない方を混乱させるために申しますと。
ブラックハンドさんがずっと大事に抱えてる頭蓋骨は、
ゴッサムシティのウェイン家の墓から盗ってきたもので、
特に歌ったりはしませんが、口から黒い輪状の物体を複数吐いては意中の人をゾンビにします。
嘘じゃないよ。
ちなみに、これがオリジナルの方だと、逆にゾンビ化解除の効能があるとかないとか……。
















11.来歴
[ゴッサムシティ 思い出の日々と二少年]






陰鬱だ、冬は。
窓の向こうが鈍鉄色に塗り込められ、家の中に閉じ込められる。
圧し掛かる仄暗い陰影に神経が憂鬱になる。
(といって統計を見てみれば、)
(この街の自殺率は他の地域と比べ、特に高いわけでもない。)
(不思議だ。)

「トミー」

魔女の館を走り出て、青空は高く。
雪白に立つ親友は、あどけなく、まばゆく。
だから、これは発想の違いかもしれない。
ウェイン家の坊やは、まさに幸福の王子だ。



きらきらの、雪の。
真っ白の戦場を、子犬のように駆け回る。
追いかけて、逃げて、舞い上げる雪片は輝く。
綿雲の描く空は、不思議な水色。
墓地は、二人だけの遊び場になる。

雪玉を掠める、
明るく澄んだ笑い声。
その足の下の、雪の下。
土は土に、灰は灰に、塵は塵に。
墓碑に刻まれた名前は、知らない誰か。
雪は、きらきら。

墓碑の裏、栗鼠のように回り込み。
急いで雪玉を作りながら。
白く浮かんでは漂う。
吐く息は途切れなく。
胸骨の奥、脈動する熱の塊。
雪原を駆り喉笛を噛み砕く狼の心臓。

駆け出す、雪を蹴散らし。
額を汗が流れる。
眼の奥に焼きつく、雪、光、青。
あの、綿にくるまれたような、白い翼の。
天使の像、大きな石の台座。
その、裏側。

それで上手く隠れたつもりか。

ふわふわの兎みたいに丸くなって、
見当違いの方を覗く黒髪が。
今初めて振り仰ぐ。
ふわり 開かれた両の瞳の、星の火煌く藍色の。


舞い上げる光は、虹の欠片。
追いかけて、逃げて、捕まえて。
この掌の中。
ほっそりした、柔らかな、喉を
白い雪に埋めて縊り殺したいような。

罪もない楽しさに、いつまでも二人、遊んでいた。











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『BATMAN: HUSH』の墓場で遊ぶ少年二人。
白兎のようだった少年は、その後立派な蝙蝠に成長し、
人面獣心の少年は、腕の良い鬼畜になったそうです。
めでたしめでたし。














12.暗室
[BATMAN:R.I.P Dr.ハート ゴッサムシティ]






見開いた両目の、真円に凍りついた藍色を。
縁どる睫毛の一本一本の優雅な整列は、
繊細にふるえ、時折大きく瞬こうとする。
ピンで刺し貫かれた揚羽蝶が、いじらしくも飛び立とうとするようで、
いくら眺めても見飽きるということがない。
その相貌を、黒い沈黙で包み隠す怪物の仮面も、ない。
磁器人形の張り詰めた蒼白は、どこか陰ある艶かしさ。
顎はふるえが止まらず、口の閉じ方を忘れたらしい。

「ブルース、悪い子だ」

その幼さを叱ると、開いたままの口腔から返事はなく、
紫に変わった舌が扇情的に身を捩った。


最初はメタンフェタミンの静脈注射から。
その後も処方は慎重に。
双眸の光が微塵に砕け散っていく様を眺めながら、
病める子を気遣うように優しく。
その、世界でも稀有な中枢神経の、芸術と言うに相応しい陰影を、
白痴の夢で塗り潰していく。
間違っても急性中毒死などさせない。
それでは、公正なゲームとはいえない。

祝福された運命の全てを一夜にして蹂躙された少年と。
ジャスティスリーグにも名を連ねる稀代のクライムファイター。
これは、実験でもある。
少年は絶望の末に、憤怒と憎悪の怪物を産み落とした。
だが、その夜闇の仮面すら奪い去られた時、
彼の虚ろには、何か残るだろうか。

「ブルース、可哀想に。 お前は何も悪くないのに」

最高の舞台を用意しよう。
招待客は、この世のあらゆるものを手にし尽くした人間達だ。
ありきたりの快楽にも凡庸な退廃にも既に倦み飽きた。
望むものは絢爛たる "真実の"醜悪。
高潔な精神が、見る影もなく堕落する様を欲している。

「お前の成し遂げようとすることは、いつも容易く覆される」

彼の無粋な友人達には遠慮してもらおう。
彼が庇護する大切な小鳥達には、別の余興を準備してある。
誰も彼の元には辿り着けない。 誰も彼を救えない。
何より、彼は自ら孤立した。
そうなることを、私は知っていた。

「お前はいつも裏切られる」

乱れた黒髪が額に落ちかかっていた。
掻き上げてやると、冷たい汗で濡れている。
その頭を胸に抱き、耳元に囁く。

「お前はいつも、独りになる」

きっと、彼ならば。
記憶を失い、自己を忘れ果てても、
囚われの身となった恋人を必ず救い出そうとするだろう。
彼がバットマンだからではない。
その魂の善なるが故にだ。
それこそが、最後に彼を裏切る。

「きっと、悪魔に魅入られているのだろうね」

あるいは、これこそウェイン家が負わされたという呪いか。
唯一人残された血族も、苦痛と孤独を長く患った末に、
ここは、死よりも暗く惨たらしい深淵の底。
引き返すこともならない。
なんて、哀れな、子供だ。


「私はそれが嬉しくてたまらないよ」














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通報しますた。

この人の変態なところは、勝手に二度も着替えさせたことと、勝手に無精ヒゲを剃ったことです。
許せないので土の中にでも埋まっててください。


















13.捧げ奉らん五十六億七千万夜
[BATMAN&ROBIN: BATMAN REBORN ハロウィン風味でジェイソンとスカーレット]






まるで世界は煉獄
のようなので。
赤い髪した子供が二人、
それぞれお気に入りの仮面を被った。

花火はおっきいほうがいいの。
丁寧にラッピングして、カードも添えて。
あちらの皆様も そちらの皆様も、きらきら。
歌い踊る声はコーラス。
阿鼻叫喚に楽しげに。
喉笛ぱっくり開けてさ。

「人狼には」
「銀の弾丸」
「吸血鬼?」
「白木の杭」
「ゾンビだったら」
「首ハネるか、ガソリンかけて燃やしちゃえ。 伝統だ伝統」
「魔女みたい」

特別、だから銃弾にキス。
ブレードは鏡。 両手に ぴかり。

「じゃあ、バットマンは?」
「あれは悪魔だから殺しても死なない」

契約は、魂と引き換えの。
可愛らしいお願いごと、一つ。
どうか、地獄に堕ちるその時すら、あなたの片翼でいられますように。
ダメなら、せめて突き落としてよ。 今すぐ。

「と、思ったんだけどな」


なのに、また。
置いていかれて。
子供達は。


「どうすればいいか、殺してみれば分かるだろ」

お気に入りの仮面を被ったら、パーティーに行こう。
墓場から来た赤い髪のお化けは、なんて名前?
さあ 言って みせて。


もう飴玉もらっても許してあげない。

















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風味。
あのお国では、ゾンビネタは既に伝統芸能のようだなあと、しみじみ。
スカーレットとジェイソンの組み合わせ、好きでした。
でも、彼女はゴッサムを出たしなあ。 そちらの方が絶対幸せなんでしょうけど。









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