たいとる : 『脈絡もないがつまりはそういうことだ』
ながさ :短い×7-9
どんなおはなし :小ネタ集。 原書『BLACKEST NIGHT』を元に本筋にはほどんど掠りもせず。

*BLACKEST NIGHTって何、という方は。
DCUイベント『ゾンビだらけの虐殺大会☆ ポロリもあるよv』と思っていただければ分かりやすいかと。
その前の『FINAL CRISIS』で蝙蝠は死んだと思われてるよ。

ちゅうい :粗筋を書こうなんて気がない不親切設計。 原書を読んだことがないと はにゃ?とするかもしれません。




*突然ですが、ためにならないキャラクター紹介*

・おハルさん: グリーンランタン  おそらくツンデレ好きと思われる。 最近の特技は緑以外になれることです。
・カイル君 :     〃      今はオア在住。 地球にいた頃は宇宙に彼しかGLがいない時期があった。
・ガイちゃん:     〃      カイル君と同じく現在オア在住。 もうなんかすごく男前ではないのか。

・ジェイソン: 二代目駒鳥。 最近出てくるたびにコスが違う。 色々と心中複雑なお年頃。
・ディック:  初代駒鳥にして現蝙蝠(ゴッサム担当)。 ジェイソンとの挨拶はクロスカウンター。







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7.遺言によれば  
[BLACKEST NIGHT #0 ゴッサムシティ ハル]




待つかな、とは思った。
暗い曇天は氷雨でも降り出しそうで、バリーはまだ来ない。
場所は教えた。
ただ、時間を30分は早く言っておくべきだった。
昔から、いつもそれぐらいで丁度良かった。


(アルフレッドが慇懃に読み上げた文言は、)
(まさに愛想もクソもないダークナイトの宣うそのもので、)
(式も墓も余計なことは一切不要と、簡潔に。)

(そして、ここに埋められた。)


どこだかは知らないが、この街か、それとも地球の裏か。
"バットマンとロビン"は事件と事件を追ってるのだろう。
(ガキなんかいやがった。 ざまァみろ)
"ブルース・ウェイン"も、相変わらず経済欄からゴシップ記事まで幅広く。


だから、この土の下にいるのは
墓碑に刻む名前すら持たない
存在しない男



何か言おうとして、端から漠々と消えていった。










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思い出の中の人が愉快なあんチクショウである点について。














8.昔日カーニヴァル  
[BLACKEST NIGHT #1 ヴァルハラセメタリー カイルとガイ]




からりと晴れた青空から、
舞い散るような花、花、花。
そして。
見慣れた顔や、ずいぶんと御無沙汰の顔も、次々に。
滅多に出てこない珍しい顔までちらほらと。
腕には、色とりどりの花。
埋もれるように花。

生き残った者から、
ここに眠る全ての死者に。

おそらくは、晴れ渡る光の麗々と。
この街だからこそ。
優しい漣のように囁き交わす、弔いの花と花。

「……それが彼の遺志なら、尊重しよう……」

聞くともなく拾い聞いた言葉に、カイルはぐるりと辺りを見渡す。
立ち並ぶ彫像と、その下で静かに語り合う人々。
捧げられた花に光は溢れるようで。

「本当に、ココにも何も無いんだなァ……」
「何だよ」
「墓さ、バットマンの」
「そりゃそうだ! あのエラソーな仏頂面、誰がこんなトコで拝みたいんだ?」

げらげら笑うガイの言葉に、カイルは少し考える。
思い浮かぶのは "エラソーな仏頂面 "の、
声や、話し方や、夜闇そのもののような、あの。

「たぶん、バケツ持って廊下に立たされてる気分になりそ……」
「ハッ、分かってんじゃねェか」
「あの人、こういうの嫌いそうだから、尚更」
「変人だからな!」

何もいらないと、遺言があったらしい。
良く知らない。
死んだと聞かされたのも、大分後になってからだ。
何故スーパーマン達がそのことを黙っていたのか、分かるような気はする。
そして、もう死んでいると知った時には、どこかに葬られた後だ。
顔も見てなかった。

「冗談だよ」
「俺もな」

たぶん半分は、実感がない。
皆を巻き込んだ性質の悪いジョークか、
それとも、あの人の仕組む酷いペテンの一つか。
もしもそうなら、喜んで引っ掛かってぴーぴー喚き散らすんだろう。

「そろそろ戻ろうか」
「だな。 クソ野郎は死んだ。 ここにゃァ何にもない」

花、花、花の。
明るい風の青空の。
どこを探しても。
あるはずのない影。

何も残さないことが、望みだったとしたら。
さびしい。

「だって、なんか 嘘みたい、だろ」
「だったら賭けるか」
「何が?」
「バッツの野郎がどのツラ下げて墓から出てきたら、ケツ蹴り上げた後でチューしてやるぜ」
「ガイが? いくらなんでも酷過ぎる」
「泣いて喜ぶか?」
「返り討ちで四分割されるかもしれない」









++++++++++++++++++++


ノリ的にはメキシコの死者の日の祭り。 お花いっぱい。
スーパーマン云々の部分は、そういったこともありうるのではないかという想像ですよ。

ガイちゃんはJLIで、カイル君はJLAで蝙蝠と一緒だったわけですが。
蝙蝠との遣り取りが楽しいので好きな組み合わせです。
ガイちゃんと蝙蝠は、うん、犬とトレーナー?
カイル君については、この人とウォーリーとプラスと蝙蝠が揃ってるJLAが一番好きです。
アニメはアニメでまた別ですが。


もうちょっと続きます。 次からゾンビ祭り突入予定ー。


















9.近くのコンビニ閉まってんだもん。
[ゴッサムシティ 42歳会社勤務、通りすがりのゾンビ狩り青年、バットマン]




「誰か助け……ッ!」


カチャ、カチャン、カチャン、
袋の中のビール、
歩くリズムで打ち鳴らす、朗らかに。
ぷかり、
くわえ煙草の紫煙を吐いた。
人に言われると腹が立つが、
実際まあ止めた方が良いのも確か。
ガンが怖いんじゃない。
煙草が切れた時のイライラに辟易する。

「お願いだ 誰かッ」

その切迫した悲鳴と、後ろから走ってくる足音に、
通りを一人で歩いていた青年は振り返った。
常の雑踏とは異なり、漂う夜霧に底冷えする静けさと暗さがある。
その闇の向こうから、つまずくように男が走り出て来た。

「あ、あんたッ! 助けてくれ、後ろからアイツ等が追ってくる !!」

男の顔面は真っ青で、
叫ぼうとする舌はもつれ、必死の形相は目が血走り、
何も知らない人間が見たら、思わず噴き出してしまうかもしれない有様だったが、
男は全く気にしなかった。
スーツの袖をずたずたに引き千切ったのが "何か"を知れば、誰も男を笑わないだろう。
"何か"が、何なのかなど、見当もつかない。
いや、本当は分かっている。
ただ、実際にあれがそうだと信じるには、頭を壁に思い切り打ち付けたい。
四ヶ月前に "あの"ゴッサムに来て以来、色々な事件を耳にしたし遠目に目撃したこともあった。
けれど、今日は最悪だ。
残業を終えて会社を出たところまでは、いつもどおりの一日だったはずだ。
けれど、乗ろうとしたバスが、来なかった。
その後は。

ぷかり、と。
紫煙をくゆらせた後、青年は指先で煙草を弾いた。
男よりも頭一つ背が高く、何かスポーツでもするのかもしれない。
フードをしている上に街灯が逆光になって顔は良く見えないが、まだ若い。
いや、歳はもっと下かもしれない。
まさか"こんな夜"に、子供が一人で街をぶらつくとは考えにくいが。

「君、どうしたんだ? まさか何が起きてるのか知らないのかッ?」

早口で喚く男とは対照的に、まだ口を開いてもいない彼は、落ち着いていた。
というよりも、悠長に見える。
だが少なくとも、ずっと走り通しだった男が今晩初めて出会った、"まとも"な人間だった。

「だったら私と一緒に逃げてくれ! なっ? 君この近くの警察かシェルターがどこにあるか知らないか?
 事情は走りながら話すから急いでそこに……ッ!」

行こう、と男が言いかけた時、
目の前の青年が何気なく、ジャケットの内側に手をやった。
キラリと何かが反射した。
と思った瞬間、青年の影が颶風と化す。
男はただ、鼻先を掠めた鋭利な気配を感じた。
何が起こったのか気づいたのは、背後まで迫っていた"それ"の首を、青年が一閃で切り飛ばした後だ。
べちゃりと黒い液体が辺りに跳ね散った。
闇の中からもう二体の影が咆哮を上げて突進してくる。
その爛れた腕が男を掴み取ろうとして、ダンッと青年が踏み込む。
広刃の大型ナイフは、"それ"の肩から腹の下まで裂き割った。
どっと勢いよく臓物が雪崩れ落ちた。
残りの一体は、何ということはない。
青年は軽やかに、まるで踊るように、手から足からバラバラに解体した。

あまりに鮮やかで、男の目にした光景は、現実にも思えなかった。
が、そもそも "死人"が歩き回るような夜に、現実も日常も無い。
会社から出る前、ちらりと覗いたネットのニュースは "世界中にゾンビ現る!"
またゾンビ映画か、ハリウッド。 と誰だって思う。

茫然と男は、呻くように祈りの言葉を呟いた。
肉の塊となった三人が、どうか自分の知り合いなどではないように。

「……えーと、つまり 君は、その、……」

どもりながら、胃の腑の底から震えが込み上げていることに気づいた。
死人に襲われる、最低の夜だ。
そして今、たしかに命を救われたはずだが。

「そっちを2ブロック行けばシェルターはすぐに分かる。 じゃあな」

それだけ告げると、青年はまたのんびり歩き出す。
足元に広がるドス黒い血溜まりに一瞥もなかった。

「ああ、いや、ちょっと待ってくれ! 君はどうするんだ?」

無言の後姿を、霧が。

「私を一緒に連れて行ってくれないかッ?」
「……あんたァ、相手間違ってるよ」

その台詞を最後に、男は闇の中に取り残された。
心細さは、血糊でべたつく服を突き通し、肌まで沁みる。
だが、青年の後を追うのは、なにか躊躇われた。

「た、助けてくれて、ありがとう……」

あるいは、恩人である彼の方が、死人よりも恐ろしいと思えたのかもしれない。
戒厳令を敷かれた街は、重苦しい夜闇に包まれている。
どこかから低い唸り声が聞こえた気がして、男は今度こそ全力で走った。







一人になったジェイソンは、ビールの瓶を開けた。
そうやってぶらつく、無人のビルとビルの深い谷間。
別にゾンビ退治をしているわけでない。
夕方を過ぎて目が覚めたから、近くのコンビニに行こうとしたのだ。
それが、何故か閉まっていた。
次の店もシャッターを下ろしていた。
ビールと煙草を求めてふらふらしている内に、街がやけに静かな理由を知った。
だからどうと言うこともないが。
必要な物は手に入れた。
後はねぐらに戻って、冷めたピザでもかじることにする。
たった数時間で、世界中の至る場所が死人で溢れた。
そんなロクでもない事件には、打ってつけのふざけた連中が別にいる。
ジェイソンが扱うのは、もっと違う類のロクでもない事件だ。
まあ、今夜で世界も終わりかもしれないが。

飲み干した瓶を、ぽいっと放り投げた。
その腕で取り出したサブマシンガンは、路地裏で "食事中"の奴等に銃弾をバラ撒く。
もともとコンビニに行きたかっただけだ。 こんなものしか持って来てない。
それでも、雑魚をバラすには充分らしい。
厄介なのは、腹に穴を空けられても頭を吹っ飛ばされても、平気な顔で再生する奴等だが、
そいつらはさっきから姿が見えない。

奇妙なことに、奴等はジェイソンのことが、"見えていなかった"。
傍らを歩いて通り過ぎても、何の反応もない。
まるで、そこにジェイソンが存在しないように。
理由は分からない。
死人がどうして人を襲うのか、背後に何があるのかも知らない。
知りたいという気も無いが。
ビールが足りて、煙草が切れない限り、どうだっていい。

けれども、ジェイソンが歩くのは、彼の隠れ家の方角でなかった。
新しい煙草に火をつけ、出くわす死人達を気紛れに狩りながら、ふらふらと。
暗い夜霧の街を、当てもなく彷徨う。
まるで死人のように。

その眼前に突然、翼を広げ舞い降りた、漆黒の影。
ジェイソンはただ、フードの下で唇を歪めた。
見据える怪物の仮面の、冷たいガラス質の双眸と。
彼の纏う深い闇と。
言葉は無い。
ジェイソンも、"バットマン"も、互いのことは良く知っている。

その黒は、永遠の暗夜。
享楽を貪る愚者の街の、暗い深淵から睥睨する、厳格な断罪者。
ゴッサムでは、その黒は "彼"だけのものだった。

「……お下がりがちっとも似合ってねェなあ」
「似合うと思ってない」

漆黒の仮面の、唯一露わにする口許は硬く、
低く断ずる声は雷鳴にも似る。
何故か、ジェイソンは笑い出そうとした。
口許が引き攣るだけだった。
その様子をじっと眺めていたバットマンは、

「元気そうだ」
「悪かったな」
「肋骨ぐらいは折ったかと思った」
「そんなにヤワじゃない」
「良かった。 次は確実にヘシ折るからな」
「今でも別にいいんだぜ? おニイちゃん」

だらりと下げた両腕に凶器を掴み、ジェイソンは小首を傾げる。
バットマンは、僅かにも動かなかった。
沈黙は互いの双眸を映す。
その底深く、暗い流れは揺れる。

「おまえに教えておく。 悪い知らせだ」
「……何だよ」
「ウェイン家の墓が荒らされた」
「あの人は、」
「違う。 あの人を "見た"という情報はない、まだ。
 けれど、誰かがあの人の墓を暴いて、首を盗った」
「ハァ !?」
「ウェイン家の墓を調査していたグリーンランタンとフラッシュは、
 そこで、死んだはずのジャスティスリーグのメンバーに襲われた。
 誰かが、"何かが"、死人達を操って胸クソ悪いことを企んでいる」
「待てよ! 余所者が何でこのゴッサムで勝手なことしてんだ! てめェは何してたッ」
「おまえはあの人を埋める時にも来なかった」
「……誰が行くか」

その人の纏うのは、闇夜と血を分けた黒。
その人の言葉は、暗夜の寒雷。
その人は、呪われた街の王。
その人の傍らこそ、自分のあるべき場所だと信じていた日々は、もう遠い。
その人はもういない。

「誰がッ」

吼える、
胸の、死人と同じ虚の内、
怨嗟で捻じ切れそうな臓腑を、
今この手で引き裂いて、全て露わにしようとも。
誰より憎悪するその人は、ただ憎悪だけを捧げられたまま、死んだ。

ひとりでに動いた腕を、トリガーを引く自分の指を、ジェイソンはまるで気にしなかった。
銃火を散らせ吐き出され続ける弾丸の行方も、
ざわりと横に流れ闇の中に溶け入った黒い影も。
コンクリートの舗道に跳ねる銃弾の、鼓膜を突き刺す音に包まれた、
一瞬の、沈黙。
眼前のあらゆる光は消え去り、
胸の内に、血を流し続ける暗い渦を見る。
かつでそこでは、下らないガラクタばかりの世界にも、意味があった。
二度と元に戻らないその全てを、与えた人がいた。

目を見開けば、無尽の霧。
硝煙の臭いがざらりと流れ、何の影もない。

「……俺はこれから、コーストシティに行く」

無言で銃口を下ろしたジェイソンに、
声は頭上から聞こえた。

「ティムは戻っている。 ダミアンもここに残す」

耳を澄ませば、重い静けさ。
濁ったそれは、死人の蠢く気配がする。

「おまえも、ここにいろ」

その言葉だけを残し、頭上の声は消えた。
ジェイソンは独り、闇の深みに立ち尽くす。
両眼が射貫くのは、ゴッサム。
いつだって救いようのない掃溜めだ、この街は。
偶然幸運を掴んだと思っても、すぐにそれが自分の物ではないと気づかされる。
微かなその指を離すまいと足掻けば足掻くほど、汚泥の沼に頭まで沈み込む。
ずっと昔から、この街のことが嫌いだった。
あの日 "彼"に会いさえしなければ、こんな街、どうなっても良かった。

「……俺に命令すんな」

いつか、街も人間も、煉獄の炎に投げ込まれる。
その闇夜の底、ジェイソンは銃身を掴み、走り出した。



















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BLACKEST NIGHT中のミニシリーズの後で、
かつ、BATMAN&ROBINの赤帽よりも前ということでお願いします。
諸々の事件の間にどれぐらいの期間があるかなんて、考えるのを放棄してますよ。

あ、念のため。
原書のBLACKEST NIGHTにジェイソンはいません。
この9番は完全に妄想です。
ちなみに、原書でゾンビからスルーされてたのはスケアクロウでした。
いや、ちゃんと理由ありましたけどね。
あんな感じにジェイもスルーされてもいいです。











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