コーヒーメーカーを、作ってみた。
片手間にデザインしたそれは、自動化はしてあるが、
別に、ボタン一つで変形して対象をレーザーで狙い撃つ、ようなことはない。
手持ち無沙汰なので、コーヒーメーカーを作った。
それだけだ。

芳しい香りが地下研究所に漂っていく。
ルーサーはコーヒーを一口飲むと、まずまず満足できると思った。
巨大な研究所は先日の事故の後始末もすっかり終わり、
これを機に、研究所の効率性をより高めようと機械達が忙しなく作業している。

それが済むまで、彼等の創造主であるルーサーは、退屈していた。
あの気難しい、扱いづらい、暴力性の強い研究助手も、
いなければいないで、コーヒーの感想も聞けない。



研究員Mが消えた。

気分が悪いと言ってさっさと帰った日を最後に、出社しなくなった。
ルーサーは放っておいた。
元来、研究に助手が必要なわけではない。
一週間もすると、CIAの人間がルーサーの元を訪れ、彼の行方を尋ねた。
連絡が取れず、アパートにも姿が見えないと言う。
ルーサーは、心当たりは無いと答えた。
それは事実だった。

そして彼は消えた。

思いがけない事故や犯罪に巻き込まれたのか、
それとも自分の意志だったのか。
CIAは彼がスパイだった可能性も考え、行方を捜している。

彼はレックスコープについて知り過ぎている。
出来れば、何も語らず誰にも知られず、
どこかでひっそりと死んでいてくれると、ありがたいのだが。
それは楽観というものだろう。
ルーサーが今、個人的に彼のことを調査させているのは、そういう事情がある。
しかし、彼の行方を掴むことはないだろうと、思ってもいる。

自分の痕跡を残さぬように生活していたようで、
新たに分かったことも、ほとんどない。
今のところ興味を引かれたのは、彼に睡眠導入剤を処方していた
ストレンジ博士の診療記録ぐらいだろうか。

元々、彼の名前も、レックスコープの研究者という肩書きも、仮初のものだった。
あるいは、CIAのエージェントというのも、仮面の一つに過ぎなかったのかもしれない。
結局、彼は何者だったのか。
真実は亡霊のように闇の彼方へ去った。





偏屈で、冗談の通じない助手だったが、
レックスコープは能力本位の企業なのだ。
優れた仕事をする者なら、国籍や人種、主義主張など問題にしない。
たとえ死人だろうとCIAよりも余程良い待遇で雇ってやるというのに。

あっさりと全てに背を向け、今頃はどこの空の下か。



コーヒーを飲み終えるまでの、ほんの束の間。
ルーサーは、消えた助手を思う。






結局その後も、研究員Mがレックスコープに戻ることはなく、
いつも使っていたクリーニング屋は、取りに来ない客の衣服を持て余し、
彼が朝食を取っていたカフェはウェイトレスが替わった。

そして、ある夜。
会社の彼の部屋で、月下美人は人知れず咲いた。
熱帯の、白い大きな花は、甘やかに闇夜を彩り
夜明けには終わった。




























+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

←前 次→


←もどる。