いつからか、へどろの海で
餓えと渇きに苦しみもがいていた。
汚泥が、腕を目を奪い、喉を塞いでいた。
何も見えない。
何も聞こえない。
何故こんな目に遭わねばならないのかも分からない。
苦しみしかこの場所には存在しない。
しかし、もがくことを止め、泥の底に沈むのは、恐ろしく、呪わしく、
臓腑を飢渇に焼かれながら、絶叫した。
いつまでも、いつまでも、へどろの海に溺れていた。



けれど、その日。
泥に覆われた水面が割れ、空を見た。
待ち焦がれた、綺羅星の美しい、闇夜を見た。

私には目があった。
私には唇があった。
私には足があった。

星降る丘に立ち、この目で世界を眺めた。
私の足元には、襤褸のような死骸が一つ、転がっていた。
私の腕は、汚泥に似た、赤い血に塗れていた。


そして私は私を理解した。


私の餓えは、憎悪。
私の渇きは、怒号。
私はへどろの海に生まれた災渦。
私は、私が産み落とした、悪魔。
忌むべき罪として流された水子。

しかし、私はもう一度、この世界に生まれたのだ。



赤子の名は。


  「サガ」


その名で呼ぶのか。
その声で呼ぶのか。
へどろの海につけられた名で、私を呼んだな。
私にすら厭われた私を、私と認めるのなら、私はそうあろう。


 「サガ」


私の名を呼べ。
私を飲み込むへどろの海に腕を伸ばし、何度でも私を掬い上げろ。
玉座へと頭を垂れるおまえに、救済を与えるのは、神ではない。
私がそうあろう。




絶望に翼を。
憎悪に炎を。
この世界に真の鉄槌を。
紅蓮の時を越え、久遠の楽土となるように。






私は、私の絶望が何から始まったのか、知っている。




























01  もう何度あなたに助けられたことか 黒 →白
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ところで、スターヒルは丘どころの話じゃないですね。






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