いつからか、暗い牢獄で
餓えと渇きに苦しみもがいていた。
焼き捨てた目が舌が炎となり、喉を塞いでいた。
もう何も見えず。
もう何も聞こえず。
鎖に縛された手足が早く引き千切れてくれるのを待った。
苦しみしかこの場所には存在しない。
背中の皮膚、壁を隔てた向こう側にある息遣いが、恐ろしく、狂おしく、
臓腑を飢渇に焼かれながら、絶叫した。
いつまでも、いつまでも、私は私を呪い続けている。



あの日、星見の丘。
師とも言える人を、密やかに殺した。
その姿と仮面を奪った私は、私の顔を失った。

私が欲したものは。
私が望んだものは。
私を生んだ業罪は。

この、光の玉座。神を放逐し、友をも死に至らしめて得た。
へどろの海のようなこの世で、揺籃の幼子を悪夢に怯えさせぬため。
玉座についた私の腕は、赤い、赤い汚泥にも似た、穢れ。


そして牢獄に投げ落とされた。


私の餓えは、憎悪。
私の渇きは、怒号。
私は世界を炎の海に変える災禍。
私は、狂気を産み落とした、悪魔。
私の忌むべき罪は私自身の無力。

だからこそ、私は私に世界を全て奪われ、囚われている。



囚人の名は。


 「サガ」


その名を呼ぶのか。
その声で呼ぶのか。
私が失ったその名を、その声で、私を呼ぶのか。
許され得ぬ私を、それでも私と認めてくれるなら、私はそうあろう。


 「サガ」


呼んでくれ。
暗い壁の向こうにある、あの息遣いが聞こえぬよう、耳を塞いでくれ。
縛鎖の玉座に坐す私と共に、戻らぬ神を待っていてくれるのなら、
私はそうあろう。




憂愁に羽を。
憎悪に雨を。
この暗夜に真の暁光を。
焦土の時を越え、久遠の楽土となるよう、共に。






私を呼ぶその声、私を探すその手こそ、私の絶望の揺籃なのだから。





























01 もう何度あなたに助けられたことか 白
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二人のサガにとって、蟹さんが必要不可欠だと楽しいのです。
でも、それは助けとは違うのかもしれない、きっと。

プロローグってことで、こんなので勘弁してください。







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