土屋→緋咲 小ネタ『ありがとう』の数日後くらいにお考えください。


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 『おねだり』




顔を上げるのは、本当は少しだけ、だるい。
首を動かすと、痛めた肩が引き攣るからだ。
それでもコンビニで、雑誌を読もうとしていた視線を上げさせたのは
窓の向こうに立つ見知った顔。
こちらの視線に気付き、酷薄な唇が弧を描く。
艶やかに悪意を撒き散らす人間がそこにいる。


―― って、話」
肩口でそう話す声が、珍しく機嫌の良いものなので、
秀人は首を曲げてそちらを見る気になった。
冷たい色をした瞳が間近にあり、緩い瞬きに睫毛が震える。
わざとなのか、秀人の痛んでいる方の肩に顎を乗せている緋咲は、
秀人を見返して唇を吊り上げた。
その左目の辺りが白い包帯で覆われている。
窓ガラス越しに見た時は眼帯程度だと思ったが、そのせいで今日は髪をおろしているらしい。
長めの前髪を煩そうに掻き揚げる左の指にも包帯が巻かれている。
その理由を、秀人は知っている。
左目も指も秀人がやったからだ。
その秀人の肩に顎を乗せて、緋咲は笑う。
随分と近しいこの距離は、コンビニの混み合った空間のせいで。
今、秀人の肩に回されている緋咲の腕が、髪を掴んで引き摺り倒さないのは
単なる気紛れなんだろう。
そしてそれは、秀人も同じことだ。
「だからさ、秀人クン」
「何だよ」
「祝え」
「何で俺が。てめぇの誕生日なんかちっともめでたくねぇだろ」
「……冷てー、秀人クンて」
言葉だけは感傷的に、緋咲は嘲笑う。
緋咲がクン付けをする時は、必ず悪意がある。
「お互いさ、付き合い浅いわけじゃねーだろ?」
確かに、二人の付き合いは浅くはない。
会って3秒で殴り合いになるくらいの親密さだ。
相手のただ一言、僅かな眼差しが、身体の芯深くに食い込んで、酷く簡単に神経を焼き切っていく。
その危うい近しさを、二人で嘲笑っている。
「薄情だな、秀人クンは」
「おまえに言われてもな」
「そういう所が冷たいんだよ……読むのも遅ぇしさ」
緋咲の指が、秀人の持っていた雑誌のページをめくった。
秀人はまだまともに目も通していなかった。
「緋咲が隣でゴチャゴチャ言うからだろ」
ページを摘む指を挟みそうな勢いで秀人は雑誌を閉じ、棚に戻した。
緋咲の双眸が剣呑な期待に冷たく煌く。
秀人はそれを見据え、
「分かった」
言いきった。
その口の端に悠然とした笑みが浮かぶ。
「で?何が欲しいんだ」
緋咲は思わずきょとんとした。
秀人が怒るのを待ち構えていたのに、あんまり素直に言われると、拍子抜けしてしまう。
「言えよ。祝ってほしいんだろ」
間近にある緋咲の瞳が戸惑うのを、秀人は平然と眺めていた。
緋咲は眉を顰め、答えない。
暫くすると何か考え込むように店内を歩き始めた。
秀人は、緋咲が何を持ってきても驚かないでおこうと、心に決めた。


意外と早く、緋咲は戻ってきた。
350ml缶のビールを一本ずつ両手に持って。
「緋咲」
「ん?」
「おまえ、そんなんでいいのか」
覚悟していた秀人にとって、ビール二本は「そんなん」だった。
「……普通、もう少し考えねぇか?」
「他に欲しいのねぇし」
緋咲は面白くもなさそうに言う。
秀人は暫くその顔を眺めていたが、どうもふざけているわけではないらしい。
「……まあ、いいか。どうせ家来るんだろ?」
緋咲は答えないまま、秀人にビール缶を突き付けた。
秀人は渡されたものを一瞥し、聞く。
「足りるか?」
緋咲は暫く考え、首を横に振った。
「じゃあ、もうちっと持ってきて。俺も飲むから」
「おまえ何飲むの」
「適当でいい」
「選べよ」
緋咲は言い捨て、コンビニのカゴを掴んだ。
























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じゃれると言うより、いやがらせ。
<身体を張った嫌がらせ論>
緋咲さんは秀人くんの事が超絶が付くほど嫌いです。
たとえ地球が明日無くなろうがそんな事はお構いなしぐらいに嫌いです。
だから嫌がらせします。
寧ろ身体を張って嫌がらせします。そのためならどんなネタも有効活用します。
すると結果として↑のように、じゃれる事になるんです。
目的ではなく結果として「じゃれる」という行為になるんです。

とか言いつつ。
実は、絡みたいから絡んでたのに、それを嫌がらせだと思いこんでいるとかいう話だったらどうしましょう。
大好きです。
秀人くんは秀人くんで、そんな緋咲さんを妙な生物だなあと思いつつ、
楽しんで構ってくれたらいいなあと思います。

ところで、ここまでが日記で晒した分なんですが、オマケなんか書いてみました。
興味ある方はどうぞ→
『おねだり』後の、秀人くんの部屋だとお考えください。


もう帰る!!