『solid spiral 2』




薄い雲の絶え間から太陽はぼやけた光を振りまいている。
その下、朽ちていく片隅の街影、揺らいで溶けた。
細くのたくる道、両側に並ぶ店の中には何もなくただ入り口が暗い穴。
濁った油絵のような壁を見せ付けて誰もいない店が続く。
そんなのを眺めながら、ひび割れたアスファルトの上をただ歩いた。
細くのたくる道を、ただ。
このぼやけた風景の中を今日は何回歩いたんだろう。
天球を太陽が移動するにつれ、揺らぎ朽ちていく街影を眺めながら。
今日は学校に行ったから、3回くらいしかこの道を通っていないはずだ。
今日ハ学校ニ行カナカッタカラ数エ切レナイ程ニ通ッタハズダ。
違う。
そうじゃない。
こんな道は来たことない。
コノ道ハモウ飽キタ。
細くのたくる道を、ただ歩く、思考はゆるゆると二極分離。定まらぬまま街を漂って。
どちらが本物?
ドチラモ贋物。
分からぬままこの足はとぼとぼと歩いていく。
音がした。
笑い声。
顔を上げる。
瞬間、ちらと投げかけられる誰かの視線。

緋い瞳。

笑う。
冷たい色の瞳と顔を付き合せて笑う。
細くのたくる道、向こう側から歩いてくるそいつらと擦れ違う。
肩が触れた。








唐突に大珠は覚醒した。
自販機に凭れてぼんやりしている自分に気付く。
時計を見ると、ここで煙草を買ってからさほど時間は経っていなかった。
なんだか白日夢でも見たような気分だった。
少し気持ち悪い。
真新しい煙草を銜えて火をつける。
肺の奥まで深く紫煙を吸いこんでも気分は変わらなかった。
自販機に背を凭れて重い頭を上げる。
道を挟んだ向こう側、丁度大珠の正面は瓦礫になっている。
そこに建てられていたものの解体は大珠が来る前に済んでいたらしく、
太陽のぼやけた光に粉塵の帯が浮かんでいる。
確かそこにあったのは古びた教会。
知らなければただの汚いビルにしか見えないような。
この道はよく使う帰り道でもないけれど、
暗い色の螺旋階段と、天使の落書きをされた壁を憶えていた。
そして、小さな鉢植えの赤い芥子を。
業者はまだ来ないのか、瓦礫はそのまま残されている。
その一角だけ開けた空が見えた。
雲の絶え間から、午後を過ぎた太陽が横たわる残骸の影を長く伸ばしていく。
ゆらゆら揺れる影だ。
瓦礫の中、赤い芥子の花も風に揺れる。
気持ち悪い。
足が重い。
せっかく午後の授業を早退出来たのに、吐きそうだ。
大珠は煙草のフィルタを噛み、顔をしかめた。
身体の芯が重力に負けて潰れていく気がする。
そのくせ意識だけが無理やり上に引っ張られていくような
不快感。
眩暈がする。
歪みかけた視界で瓦礫の影が揺れる。
よろめきそうになった大珠の耳に、ふと笑い声が届いた。
空気を震わせる微かなそれに青い顔を上げてみる。
瓦礫の上に、二人立っていた。
何が面白いのか、顔を付き合せて笑っている。
たぶん中学生だろう。
大珠とそう変わらない背格好に見えた。
同じ学校の奴じゃない。
ぼやけた太陽の下、そいつらの影は妙にはっきりとしていた。
そのうち、片方が何か言って瓦礫の中を歩き出す。
しばらくすると不意にそいつは足許の瓦礫を思い切り蹴り上げた。
舞い上がる粉塵も気にせず大きなコンクリート片の下に手を突っ込み何かを引き摺り上げる。
そいつの白い腕が救い上げたのは、聖母像。
教会があったころには美しい姿をしていたのかもしれないけれど
そのマリアにはもう脚が無かった。
それを見た片割れが言う。


「蛇が逃げた」


そう言った奴の顔を、大珠は初めてまともに見た。
褐色の肌。風に銀色の髪が揺れた。
緋い瞳がこちらをちらりと見、もう一度同じ言葉を繰り返す。
その眼差しにどうしてか耐えられず頭を垂れてしまう。
そこに蛇がいた。
アスファルトの上をのたうちまわる蛇。
鱗を虹色に輝かせながら蛇は這い進み、大珠の足許まで来る。
くるんと見開いた眼球が硝子玉のよう。
そいつは大珠を見上げ、笑った。
笑ったままその顔に線が入る。
顔を縦切りにした線に沿って蛇は二匹に割れていく。
二つの頭はそれぞれ自由意志を持っているようで、
分かたれた自身に歓喜して己の好きなように動こうとした。
けれどその身体は完全に分離した訳でなく、下のほうで不恰好に繋がっていた。
自由に動けないと知った蛇頭二つは嘆く。
瞬間、歓喜は憎悪に変わる。
蛇の双頭は互いに互いを貪り食らおうと牙をむいた。
互いを絞め殺そうとして絡まり合う。
込み上げてきた吐き気に大珠は片方の蛇頭を踏み潰した。
そしてもう片方も。
けれど吐き気が止まらない。
眩暈がする。
風が吹く。
瓦礫で赤い芥子が揺れる。
気持ち悪い。
右腕に痛みが走る。
そこに蛇がいた。
互いに絡まり合いながら双頭の蛇が這い登ってくる。
自由になろうとして分かたれた、己の半身を滅ぼそうとする二重螺旋が。














唐突に大珠は覚醒した。
自販機に凭れてぼんやりしている自分に気付く。
時計を見ると、ここで煙草を買ってからまださほど時間は経っていなかった。
真新しい煙草を銜え、軽く頭を振ると
大珠はぼんやり歩き出した。


薄い雲の絶え間、ぼやけた太陽の下。
細くのたくる道にただ立ち竦む。
振り返ると
そいつらはもういなかった。





























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あ〜、大珠の右腕の刺青は双頭の蛇ですが、
よく見ると芥子の花があるんです。あとなんか鳳凰ちっくなものも…




マリア像はたいてい蛇を踏んでます。
理由は、旧約聖書の創世記第三章十五節
『お前と女、お前の子孫と女の子孫の間にわたしは敵意を置く。
彼はお前の頭を砕きお前は彼のかかとを砕く』
だ、そうです。
お前ってのが蛇でして…
つまり、女が知識の木の実を食べるように仕組んだ蛇に神様がキレて呪いをかけたって意味ですな。

まぁ……大珠の双頭の蛇の意味合いとは違いますけど。

ところで、800×600くらいではどう見えるのか、恐ろしくて確認してません…
画面をスクロールすると蛇がうねうねして見えて、まったく……
爬虫類万歳!

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