『2. 屍の国 』





闇だ。
闇だ。
闇だ。
どこもかしこも闇ばかりじゃないか。
この身体、目も鼻も耳も、感じるものは闇ばかり。
茫漠とした、恐ろしげな闇にどこまでも取り囲まれている。

違う。

そうじゃない。
闇はここにある。
この手こそが既に闇なんだ。

潮鳴りがする。
来栖は一人砂浜に立つ。
波頭を照らす月は無く
行方を教える星も無く
全ては目の前に横たわる闇色の海に飲まれてしまった。
来栖は一人闇に立つ。
砂はずぶずぶと優しく足を捉えようとし、辛うじてそこに大地があると教えてくれるけれど。
それ以外は、ただ闇だ。
闇だ。
闇だ。
闇だ。
人の目は闇を見通すことが出来ない。
だからその中に棲むものがどんな姿をしているのか分からない。
どんな顔を、どんな目を、どんな声を
光の中に向けたがっているのか、知らない。
知ろうともしない。
闇色の海を眺める来栖も一塊の闇だ。
ほっそりとした首も華奢な四肢も
唇の端をほんの少しだけ吊り上げた微笑も、すっかり闇と溶け合って
もうどちらが闇なのか分からない。
だから、誰も来栖を見ることはない。

来栖は見ている。
死んでしまった友達を見ている。
殺してしまった骸を眺めている。
骸は言う。
来栖を見えないと言う。
声を揃えて骸は言う。闇色の波間に浮き沈みしながら、骸の群は言う。
見えない。
見えない。
見えない。
骸は闇に向かって怨嗟を叫び、泡と共に海の底へ沈んでいった。
それでもまだ声は聞こえる。
そうやってあの屍達は、
もう思い出す事にも苦労するような、遥か昔に殺した筈の友人達は、
また来栖を壊そうとする。
飽きもせずに、何度も、何度も。
闇は一度、ぶるると震えた。
来栖は笑って、彼の友達を見送った。
壊れてしまったものは、もう直らない。
その理由すら忘れて、悪意の嘲弄を世界中に響かせるだけ。
来栖はただ一塊の闇だ。
どこを向いても、あるのは闇ばかり。
いったいどこまでが来栖だったのか、もう分からない。
ならば。
闇を見通すことの出来ない人間は
見ようともしない人間は
闇の中に棲む怪物に、ただ怯えていればいい。
そうして食われて死んでいけ。



いつか雲は晴れ、月が顔を出し、星も瞬いて
闇はぶるると震え、形を変えていく。
夜空に煌く幾億の火が、地に這蹲る有象無象の灯火が、
闇に光を投げ掛けるけれど。
青白い、美しい波頭の下、その闇にあるものが
回遊する魚の群なのか
享楽な惰眠を貪る多頭の神なのか
確かめることすら出来ない。
闇の中、目を見開いているのはただ一人。
屍の国の王様だけ。
来栖は微笑む。
星明りはその微笑を酷く優しいものに見せた。
屍の国の王様は海に背を向け、街の明りを目指して歩きだす。



さあ、友達の死骸を埋めに行こう。

























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22巻最後の来栖くんはかなり怖いと思います。
あんなので殴られたくありません。
でも好きだ!
ところで、来栖と真里がかぶってるとは良く言われていますが。
寧ろ武丸先生と親戚だと思うのは僕だけでしょうか。
結局何もかも壊して自分のものにしたいところが……


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