たいとる : 『君と僕らの15歳』
ながさ :短い×14
どんなおはなし :みんなまとめて15歳の全寮制男子校パロ俺アースで、ハル+バリー+ブルース。
ただしハルは、オラオラとメソメソの二人が双子です。 どちらのハルの視点なのか分かりにくいところがあるのは仕様です。



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1.事件です。
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カラスが鳴いてお山に帰る時分のことでした。
夕暮の校門に寂しさが漂いはじめ、その傍に座り込んでいたハルは、もう何度同じ台詞を吐いたか覚えてない。

「腹減った……」

今日の約束はとんこつラーメン。
のはずが、財布が来ない。
正確に言えば、15歳にして財布にあるのはブラックカード、けれどきちんとした額の現金は勿論、
いつも綺麗なハンカチとティッシュを持ち歩くのを忘れない、躾の行き届いたお坊ちゃんを、
待って待って待ち続けて、まだ来ない。

「何かあったのかな?」

校舎の方を眺めてバリーが言う。
ぴよぴよしたブロンドと愛嬌たっぷりのそばかすのおかげで、一見すると気の良い奴に見えるが、
頭の中がすっかりラーメンのハルが、ひもじさをぐっと我慢してる隣で、
ひとり平気な顔してハリボーを貪っている裏切り者だ。

「何かってなんだよ」
「知らない。 ちょっと見てくる」
「俺は行かないからな」

ぶっきらぼうな返事を待たず親友は歩き出している。
手に押し付けられた赤や黄、緑のクマさんグミを、ハルはむすっとしたまま口に運ぶ。
そのうちに、むすっとしていることの意味を忘れるハリボーの不思議。
暫くすると、二人の姿が校舎の入口に現れる。
山へと連なる森を背景に、元は僧院だったという石造りの本館(ホグワーツみたいな尖塔がある)、
併設されたガラスとコンクリートの新館、隣に並んだ特別棟と体育館。
そのうちの、新館の入口から出てきた二人は、
……なんでアイツら手繋いでんだ……。
しかし、こちらに歩いてくる姿を眺めるうち、どうやら少し違うらしいとハルは気付いた。
前を行くバリーが、重い足取りのブルースを引っ張っている。
バリーよりも頭一つ背の高いブルースが、しょんぼり俯いていた。

ブルースは季節外れの転入生で、初めてその顔を見た時、ハルは、気にいらねェ、と思ったものだ。
周りの人間を壁か何かぐらいにしか見てないような冷めた目をしていて、愛想の欠片も見当たらない。
家がものすんごい金持ちで、問題を起こす毎に学校を変えている。
そんな噂が瞬く間に広がり、もしもハルやバリーと同様に寄宿舎に入ることになっていたら、
ハルはその日のうちに学園生活の先輩として少々話をつけに行ったかもしれない。
それが、いつのまにか、今はつるんでる。

「遅ェ! で、何? 何してたの? オマエ」

俯いた顔を覗き込むと、石鹸の香りがした。
いつものスポーツバッグを担いでいるから、今日もまた何キロも走ってたんだろうが、
人を待たせてるんだから水でもかぶってさっさと来ればいいのに、人付き合いも目つきも悪いこの坊ちゃんは、
良い匂いのする石鹸を使ってる。

「……」

ぼそぼそとブルースが何か呟いた。

「は? 聞こえねー」
「えーと、あのね? ハル」

バリーが間に入ろうとするが、ハルはブルースの口許に耳を近付け、
喉の奥でつかえたような、ぶつ切れの単語を聞き取ろうとする。

「……何が、なくなったって?」

ブルースが苛立たしげに舌打ちし、じろりと睨む。
不機嫌な面はいつものことだが、それに反して整った顔立ちに朱が差しているのは、ただ怒っているだけでなく。
ハルは、口のあたりがひくつくのを止められない。

「ぱ ん つ、な く な っ た?」

発声し終えた瞬間が、ハルの限界だった。
レバーに拳叩き込まれたが如くよろめき、身体全体、声を上げて大笑いする。

「な、なんだソレ、ぶっッははははははは、な、えェー?!
 ホント? え? いじめ? いじめられっ子なの? よりによってパ、パ!」

ハルはあんまりおかしくって、笑って笑って笑い転げ、自分の背後にそっと回る影に気付かなかった。
次の瞬間、口から背骨飛び出すかのような衝撃。
ブルースが彼の尻を思い切り蹴り上げた……。


【尾てい骨】:
人が進化の過程で機能を失った痕跡器官の一つ。
脊柱下端にあたるこの尾骨は、臀部への強打により呆気なく損傷する可能性がある。



産まれたての仔馬のようにぷるぷるしながら、ハルはそれでも、懸命に大地に立っていた。

「てめ、ぉ、ロシアのサンボの裏ワザとか、卑怯だ ぞ」

辛うじて毒づくが、もう一歩たりとも動けない。 動けば両膝から崩れ落ちる。
どうにか痛みをこらえようと腰の曲がった老人のように膝をがくがくさせるハルを、
友人ふたりは残酷に嘲笑し、「もう行こっか?」と微笑み交わして夕闇を歩き去る。

「ま、待って……俺のとんこつ……」

暴行犯が肩越しに振り返る。
そして、涼やかにほころばせる眦。
表情筋なんか普段使わないんじゃないかという坊ちゃんは、
他人の痴態を嘲る時だけ、その微笑の華やかさは、地上のありとあらゆる花々が咲き誇るようで。
ハルは嘆息。

「……だから、なんでおまえら手ェ繋いでんの……」






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ノーパン、ではない。
はいてます。
ロシアのサンボの裏ワザは、そんな歌詞があるのです。










2.とんこつぷらす
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ハル:豚骨ラーメン+替え玉、餃子
バリー:豚骨ラーメン、炒飯
ブルース:八宝菜、ごはん、なめこの味噌汁


昭和レトロの壁に貼られた『ブラックレイン』のポスターを何気なく眺めていたハルは、
ふと視線を隣にやると、友人ふたりがフルーツパフェを食べている。

「えー、裏メニューかよー」










3.誰一人として野球部でない。
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快音がバッティングセンターに響く。
この町に来るまでは一度しかバットを握ったことがなかったというブルースは、今は時速130kmを打ち返す。
その打席の後ろ、ハルはようやくバリーから今日いったい何が起こったのか聞いていた。

事件のあらましはこうだ。
友達のほとんどいない孤高の少年Aは、授業が終わるといつも日が暮れるまでランニングをする。
少年Aの通う全寮制学校の背景には山がそびえ、頂上に至るまで豊かな森に覆われている。
起伏に富む山道を毎日駆け登り、駆け下りることは、成長期の身体に負担をかけるのではと
心配する教師もいたが、それをのらりくらりと躱して今日も一人、森の中。
(きっとサムライのシュギョーのようなものなのだ。)
しかし、約束をしていたのを思い出すと、いつもより早く校舎に戻ってシャワー室に向かった。
寮の各自の部屋にバスルームがあるので、放課後そこを使う生徒は少ない。
彼はシャワーを終えると制服に着替えようとした。
下着がなくなっているのに気付いたのはその時だ。
それも、替えの方でなく、はいた後の方が……。

ガシャンッ、と空振りした球がフェンスに激突する。
それが二十球目。 ピッチングマシンが止まる。

「気持ちが悪い」

吐き捨てるように言ってブルースはもう1ゲーム始める。
ブレザーを脱いだ白シャツ姿の、打球は鋭い。
ハルが考えるに、この坊ちゃんは、誰かに物を隠されるような悪戯をされる性質でない。
いじめられっ子と言ったのはハルだが、もしブルースに対して陰湿な嫌がらせをする連中がいれば、
自分の耳に入らないはずがないと、事実として知っている。
むしろ、最初に妙な噂が立った分、近寄り難いと思っている生徒の方が今も多いだろう。
(実際の中身は、人付き合いがめんどくせーだけの、ただの脳筋だが。)

「僕も一緒に探したんだけど見つからなかった。 定番はゴミ箱でしょ? でもないんだよね。
 ホラ、前にランニングシューズを隠された時、あの時は簡単に見つかったのに」
「……あれは“イタズラ”だろ」

シューズを別のロッカーに移しただけの可愛らしいもので、転入したての新顔をからかった悪戯は、
誰がやったのかはっきりしているし、ハルの知る限りあの一回きりだ。
そういえば、その時居合わせたのが、バリーとハルだった。

「ブルース、次交代な」

バットを構える後ろ姿は振り向かずに何か唸ったが、了解したのだろう。

「見つからない、って言うんだ」
「ん?」

いつものんびり構えているバリーが、困ったような顔をしている。

「前にね、ハンカチがなくなったことがあって、変だなって思ったんだけど、どこかに置き忘れただけかもって、
 でも、そういうことが二、三回あったみたいで……、やっぱり盗られたと思う?」
「シャワー室のロッカー、鍵かかんねーからな」

そう難しいことではないだろうとハルは思う。
ブルースの習慣を知っていれば、あとは機会を待てば、誰にも見られずにロッカーを漁ることは出来る。
とすると、事件の犯人は意外に絞り込めるかもしれない。
が、ハルはその先を考えることを止める。
うすら寒いような思いがそこにある。
生徒、教師、その他学校関係者の圧倒的多数が生物学的に同性である男子校にも、それなりの思春期があるもので、
人間関係が狭いのだから、誰と誰が付き合ってるという話がものすごく珍しいわけでなく、
ハルは別段、他人の性的嗜好に何か言う趣味もないが。
(でもパンツ? トチ狂ってる。)
(ズリネタにすんの? 何つー寂しい青春……俺絶対嫌だな。)

「でも、黙って盗るのはダメだよね!」

珍しく、バリーが怒ったように言う。

「ぱんつなんて足りなくなったら寮で聞けば誰か余ってるのあるだろうし、
 だいたい、自分ですぐ買えるじゃないか。 わざわざ人のを盗らなくたっていいのに!」

ハルは、将来は警察官になりたいという親友の、あどけなさの残る顔を眺めた。
きっと近所の人に慕われるお巡りさんになるだろう。

「だな」

その時、澄んだ音を立てて打ち返された白球が、ホームランゾーンに突き刺さった。
バックスクリーンに花火の上がる映像に、ブルースは友人達を振り返ると、小首を傾げて得意顔。
バットをくるりと宙で回転させ、その柄をハルに向ける。
にんまり、ハルは笑った。

「あぁ? ドヤ顔してんじゃねーぞ。 不動の四番打者の実力、見せてやろうじゃねーか」
「守備でも魅せる流し打ち職人を忘れてもらっちゃ困るな! 次は僕ね」








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俺アースの15歳はバッディングセンターで遊ぶと相場が決まっているのである。
でも、バリーさんはお母さんの事件があったから警官になりたいと思ってるし、ハルのお父さんもぼっさまの両親も死んでる。
そういうとこは同じです。
ぼっさまが放課後走り込みをするのは部活でもなんでもなく、ロードワーク。
身体を動かしてる方が楽なお年頃。









4.次点は『僕と一緒にサイレントヒルで三角頭と会おう!』
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けれど、ガキはそろそろ帰れと追い出されるまで白熱した戦いを繰り広げた結果、
その日のホームラン王はブルースだった。(自称流し打ち職人は論外だ。)
もちろん、落ち込んでる友人のためにハルが勝ちを譲ったのであり、そんな自分をハルは大人だと思う。
(次は負けねぇ。)

「……お前達、時間はいいのか」

と、ブルースが時計を見て言う。
握り込んで人を殴っても壊れない高級腕時計よりも使用済みパンツの方を盗まれる多難系男子(15)は、

「寮には門限というものがあるのだろう」

ハルはふふんと鼻で笑った。

「これだから世間知らずの坊ちゃんは! 門限は平日休日関係なしの夜八時。
 とっくに玄関には鍵がかかってるし、ついでに食堂のメシは完全に食い尽くされてる!」
「電話して鍵を開けてもらうから大丈夫だよ」

ホームラン王から頑張ったで賞として景品のエルモのぬいぐるみをもらったバリーは、
早速かばんに赤いモンスターを付けている。
残念ながらkawaii。

「ブルースも寮に入れば良かったのに。 毎日自転車でしょ? 学校の前のあの坂道」
「別に、苦ではないから」

原則として、生徒は寄宿舎に入ることが義務づけられているが、
転入生だからなのか、ブルースは市街地のマンションに一人で住んでいて、
スクールバスのない学校まで毎日ロードバイクで通ってくる。
(これで水泳も加われば毎日がトライアスロンで、それが狙いかこの脳筋、とハルは思う。)

「でも楽しいよー? 皆いっつもうるさくって、バカなことばっかりやっててさ」

プラスして、10代男子を集団化した避けられないむさくるしさが寮生活の特徴だと、大抵の人間は察するだろう。
が、ブルースはバリーの、遊んでくれるのを期待して目をキラキラさせてる仔犬のような押しに、弱い。
押され続ければ落ちるかもしれない。
メイドが全部世話してくれる優雅な生活から転落して、バリーの隣の空き部屋に収まっちまえ。

「どうせチャリ取りに学校まで戻るだろ。 寮に寄れよ」
「そうだよ! 明日は授業ないし、今日は僕と一緒に夜見島へ行こう!」
「や……?」
「おまえまたアレやんの?」

夜道をぷらぷら歩きつつ、バリーおすすめのジャパニーズホラーのあれこれや、
逆にブルースはちっともゲームをしないという話、じゃあとりあえずマリカーから、などと話をしていると、
気付いてみれば寮の前。
暗い木立の中、歴史ある学生寮の佇まいは、どう見てもホーンテッドマンションだ。

「こんなだけど中は意外と普通だよ」

正面扉は籠城戦に備えてあるのか鋲の打たれた鉄板張り。
古めかしく重厚な外観に反さず本当に重い。
開閉すると魔女の笑い声のような音を響かせるので、門限以降に開けるのは顰蹙を買う。

「こっち。 夜は裏から入るんだ」

驚くでも呆れるでもなく建物の姿を眺めていたブルースを、バリーが手を引いて先に歩く。
明かりらしいものは階上の窓から漏れる細い光だけ。 足元はほとんどわからない。

「慣れちゃえばこんなの、」

平気、と言ったバリーが夜闇につまずいて、それをブルースが危なげなく支え、
また仲良く手を繋いで歩く二人を、その後ろを歩いているハルは、え、何これ?
舌の先まで出そうになりながら、しかし何も言わず外壁を巡り、西棟の非常口に向かう。
正面扉と違い尋常なドアだ。

「ハル?」
「ん」

セルフォンを取り出して電話をかけると、3コールで向こうが出た。

「あ、俺。 今裏口にいん、」

ブツッとそこで通話が途切れる。 いや、

「はァ? アイツ途中で切りやがった!」
「ケンカしてるの?」
「してない!」

もう一度電話する。 出ない。
意地でも相手を出そうとするハルを眺め、ブルースは、

「ハルは誰に電話をしようとしているんだ」
「“ハル”だよ。 同じ部屋なんだ。 ……あれ? ブルースは知らない?」

不思議そうに小首を傾げるブルースに、バリーは、

「あのね、ハルは」

その時、鍵の開く音が響き、ドアが内側に開かれる。
外の闇夜とは違い、中の明かりは温かく柔らかく、どっとざわめくような歓声が奥から聞こえる。
それを背にしてドアを開けた少年を、ブルースは見た。
“ハル”だ。
ブルースの後ろにいるはずのハルと、そっくり同じ顔、同じ背丈。
思わず相手の顔をまじまじと眺める。
しかし、“ハル”の方でも何故だかブルースの姿にとても驚いたようで、
言葉もなく真ん丸にした瞳の、その虹彩の模様までわかるようだとブルースは思った。
虹彩の模様は一卵性双生児でも異なる。
振り返って外にいる方のハルと比較しようとした瞬間、ドアを開けた方のハルがぱっと踵を返して逃げ出す。

「待てコラァ!」

その背中をハルが追いかける。
二人のハルは猛烈な勢いで廊下を走り抜け、階段を駆け上がって消えた。
残されたのは、バリーとブルース。
バリーは何事もなく友人を中に招き入れ、忘れないうちに戸締りをする。
それから、どちらからとなく、くすりと微笑った。

「兄弟って面白いね」








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正解はSIREN2
バリーしゃんもぼっさまも一人っ子なので、兄弟がいるって楽しそう。








5.1号2号
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ハルには1号と2号がいる。
そっくり同じ顔した双子は、部屋の名札も"Jordan,H1 H2"。
どちらかはハロルドで、どちらかはヘンリーだけれど、そんなの誰も気にしない。
ハルもハルもハルで、分かりにくい時は1号2号。

1号は、だいたいの人が思い浮かべるほうのハル。
2号は、だいたいの人は思い浮かべないほうのハル。

同じ卵だったはずなのに、今は違うところばかり目につく。
ハルはそんなことを思っている。










6.
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寝室に逃げ込んだハルを追ってハルは中に駆け込むと、ドアを閉めて内鍵をかけた。
寮の部屋は三、四人が寝起きする構造になっていて、中心がリビング、そこに個々の寝室へ続くドアがある。
ハルは、これからリビングのテレビでマリオカートに興じる友人達に、ハルとの会話をどうしても聞かせたくなかった。

「なんで逃げた」
「そっちが追いかけてくるからだろ!」
「おまえが逃げるからだろッ!」

ドアの前、腕組みして仁王立ちした1号。 逃げ場を探して右を左を見回す2号。
同じ顔なのに性格は正反対で、2号は引っ込み思案の神経質。 何にでもすぐ傷付いて、開かずの間の住人になる。
おどおどしたその顔を見ていると、1号は無性に頭を引っ叩いてやりたくなるが、
そんなことをしても事態を悪くするだけだと知っている。
それに、自分自身を殴るようなものなのだ。

「お話があります」
「……ボクには無い……」
「うるせぇ! 黙って聞け!」
「五月蝿いのはハルだろ! 話することなんてないよ!」
「おまえ……なんか隠してるだろ」

“ハル”はあからさまにびくっとしてハルの顔を見、それから慌てて目を逸らす。
怪しい。

「……バリーと一緒にいた奴、誰だか知ってるよな」

首をぷるぷる横に振るが、誰が見たって"No"じゃない。
だいたい、その赤くなった耳はなんだ。 何なんだ。

「ウェイン、転入生の。 知ってるんだろ」

2号はすっかり俯いて壁の方を向き、対話拒否の姿勢。
ドアの後ろからは友人達のハルを呼ぶ声。
時間がない。
1号は大股に踏み出すと2号の頭を殴ってベッドに倒し、その顔を枕に押し付けた。

「一度しか聞かない。 正直に答えろ」

暴れようとする背中に膝で乗り上げ、出来るだけ声を低く抑える。

「……今日、ウェインのパンツ盗ったの、おまえじゃないよな」

正直、パンツという単語が未だ阿呆らしく噴き出しそうになるし、まさか自分の片割れが、とも思っている。
しかしどうしても、聞かずにはいられない。

「……ハァ?!」

首をねじるように“ハル”がハルを振り返った。

「何ソレ、は? てゆうかそれボクだと思ってる?!」
「おまえじゃないんだな!?」
「当たり前だろッ!! な、なんだよ馬鹿! ハルの馬鹿!! もう死ね!」

血相変えて怒鳴るハルを見下ろし、1号は、片割れを本気で怒らせたことを知った。
だからたぶん、コイツは犯人じゃない。
天国の父に感謝しつつ、2号の背中から立ち上がる。
間髪容れず枕の一撃を食らったが。

「だったらなんで逃げんだよ」
「それは……」

泣きそうになりながら言葉を濁すハルの顔が、ぼっと火を噴きそうなほど赤くなる。
その熱までわかってしまうハルは、頭の痛さに目眩した。

「いい、聞きたくない」
「……もう出ていけよォ……」






ハルの寝室を出たハルは、隠しようのない疲労感によろよろしつつ、
リビングの小さな冷蔵庫からプリンを取り出すと、仲睦まじくマリカー中の二人の間に、ぎゅむっと割って入った。

「おまえら、ちょっと俺を慰めろ」
「やっぱりケンカした?」
「ホントめんどくせェ奴……」

呟いたハルの肩にバリーが腕を回して、頭と頭をこつんとするハグ。
するとブルースが、ハルの髪にさらりと指を通したかと思えば、額を額で割る頭突き。
目の前に散った星が、空気にとけていく。
見上げてハルは笑った。
笑いながら、ブルースの頭を両手で掴み、ゴツンッとやり返す。
さらに、あははと他人事のように笑ってるバリーを、返す刀で仕留めた……。







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2号はアース3のハルだよ。
それなりに真っ当に生きてるし、恋もしている。




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