たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×94-101
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。



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94.快適六畳一間生活。


ベッドから。
三歩も歩けばキッチンで、対角に六歩で玄関のドア。
リビングとベッドルームの区別はない。
単身者のための機能的な住居、と言えば聞こえは良いが。

「てめェふざけんなッ 開けろ!」
「人違いだっつってんだろ!!」

知人の部屋に何故だか入れてもらえない男と、どうしても中に入れるわけにはいかない男の、
ドアを挟んでの攻防は、なかなか決着がつかず。

「人違いィ? あぁ分かった、女だな、女連れ込んでやがるな!」
「何のコトか全然わかりません帰ってください」
「どうせまた一ヶ月もたずにブッ壊れんだから男の友情を大事にしろよ」
「ブチ壊そうとしてる本人が友情とか言ってんじゃねェよ! 帰れ!!」

そんな騒ぎなど、聞こえてもいないような。
テレビの前、猫足のバスタブ。
置かれた場所も珍しいが、全体が孔雀石で出来た浴槽もそうあるものでない。
たっぷりのお湯も、綺麗なエメラルド色。
さて、その人は、落日無き帝国の皇女か、はたまたオアシスの宮殿からやってきた王妃か。
否。
左目と右頬の痣が消えないかぎり、セレブとして人前に出られやしない、大富豪。
男であって、女でなく、壊れるほどの何かでなし。
ねむたそうに、うつらうつら。
湯船にゆっくり沈んでいく。

テレビ画面はヴァン・ヘルシング博士。
そして、ドラキュラ伯爵の黒い影が現れる……。






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金のない学生が住んでそうな部屋。
遊びにきたのはガイちゃんのつもりで作りましたけど、オリーでもきっと似たような結果。
ちなみに、94と95の映画はクリストファー・リーとピーター・カッシングつながり。









95.嫌いではない。


築そろそろ百年になるという建物を改築したアパートの中で、ハルの部屋は小さい方に分類され、
リビング兼ベッドルーム(その端がキッチン)に、クローゼットとバスルームで凡そ360平方フィート。
別段、不自由もない。
が、
備え付けのバスタブが狭い。
おそらく、元々バスタブを置くだけのスペースがなかったのを無理やりどうにかしようと、
壁の半面が奥に引っ込んでいた箇所に、新しくバスタブを“作った”。
シャワーから湯が出るだけでハルには充分だが、狭い。
どこぞの大富豪の邸宅とは無論比べるまでもなく、
未だシャワーの中でセックスしたことがないのは、そういう理由かもしれない。
テストパイロットと、無駄に体術に秀でたビリオネア。
二人とも小柄でない。

しかし、ハルは洗面台で歯を磨きながら、気付いた。
その空間的な狭さにも関わらず、男性用レストルームの個室でセックスしたことが、二度ほどある。

ハルはそっとバスルームを出、ちらりと様子を窺う。
ブルースは、テレビの前で何故か座禅をし、『バスカヴィル家の犬』を見ている……。






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数字はてきとーです。 どの程度でどうなのか正直わからん。









96.帰りにコンビニ寄って。


ハルはブルースの恋人ではない。
断じて違う。
野良猫がたまたま数日居ついたようなもので、そのうちに、ふいっといなくなるだろう。
しかし、余計な誤解をされるのも面倒なので、自分のアパートにノラネコ大富豪のいることは友人達に隠している。
第一に、ハルには歴とした“恋人”がいる。

……が、夜勤に行く前にシャワーをしようと彼女の消えたベッドの上、
ぼんやり裸のまま寝転んでいたハルは、セルフォンで開いたメッセージに、ほんのすこし、口の端に笑み。

“ジュースがなくなった。”






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りんご。
なければオレンジ。
果汁100%が望ましい。









97.YというかI。


壺中天有。
平均より小さなハルの部屋は、実際のところ、人間が生活するのに充分な広さであると言える。
浴槽が欲しい時は“作れば”よいのだし、コインランドリーもすぐ近所にある。
などと考えていたわけでもないが、ふとブルースは思いつき、
読んでいた本を置くと、ベッドから降りて床に立つ。
収納がないおかげで、雑然と物を放り込んだダンボール箱は、そこやそちら、いかにも無造作。
そのごちゃごちゃとした空間に、すっくと立ち、
片足を、天へと伸ばす。
長身の体躯からは想像できないほど柔軟に、事も無げに、
Y字バランスは頭上高々、すんなりとした、美しい静穏。


揺らぐことのない5秒の後、何事もなかったようにブルースはベッドに戻る。
コーヒーミルを挽いていたハルは、小首を傾げると、『帝国の逆襲』の方に目を戻した。






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バレエやってる方ってすごい。 もうYじゃない。
ブルースさまの行動は傍から見ると謎だけど、本人も何も考えてないぐらいでいい。











98.昨日のこと。


大股なら、玄関から数歩でベッド。
という小さな部屋なのだ。
しかし、ある日ブルースが目を覚ますと、彼は床で寝ていた。
まるで泥酔者が辛うじて帰宅に成功したようで、彼にブランケットをかけたらしいハルの姿はない。
さて、昨晩あのバーでそれほどアルコールを摂取しただろうかと、気怠い身体を起こし、はたと気づく。
まとわりつくシャツはボタンを外すのに失敗したような有様、見れば下肢は何も履いてない。
刹那、霞のかかった意識が覚める。
昨夜の記憶の、その浅ましさ。
思わず身動ぎすれば、背筋をぞくぞくと駆け上がるのは、身体の奥を何度も穿たれた熱の、幻。
背中をたどる唇、うなじにかかる吐息の感触。
呼吸を殺した彼は立ち上がる気力も萎え、身を丸める。
ブランケットをかぶり、手足を小さく縮こめて、
己の情けなさに唇を噛む。

何故、ベッドに辿り着くことも出来なかったのか……!

このまま小石になりたい、と願う彼は、自分がすこし、泣いてるように思えた。
きつく瞳を閉じれば、彼ひとりの小さな闇。
誰にも言えない謎を、また一つ、仕舞い込む。






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ブルース様は想定外におハルさんが好きだけど、想定外のこと自体が好きでない。
床で寝るのは平気。 ベッドまで行けない理性のなさが憎い。










99.男の子ってこういうのが好きなんでしょ。


こぢんまり、という言葉の中に全てが収まるハルの部屋は、カウチなど置いたら余計狭くなる。
だから、二人はもっぱらベッドに座り、寝転んだり、スナックをつまんだり。
テレビの画面は『THE FLY』。
が、ブルースは一瞥もくれない。
着ているのは、空軍の砂色のTシャツ。
そして、他には何も身に着けてない。
意に介する様子もないのは、彼の服は全て洗濯されたからだ。
しかし、コインランドリーから戻ってきたハルが、クローゼットに服を片付けていても、やはり、顔を上げない。
ずっと何かを読んでいる。
ハルはベッドに腰掛けると、後ろから覗き込んだ。
分厚い方眼罫ノートに、図面やグラフ、そして文字が書き連ねられている。
けれども、手書きのそれらが、まるで読めない。
文章内の単語の文字数やその配列から英語であることは推測できるが、
赤ん坊だってもっとマシなアルファベットを書くだろう。
が、ブルースの顔を覗くと、いつも仏頂面の唇が、なにか上機嫌。
珍しい、と思いもう一度ノートに目をやるが、何かのパーツについて書いてあるということしか分からない。
それも、ド素人が線を引いたような図から判断したもので、字の方はどうにも解読し難い。

「何ソレ」

ブルースは、うん、とか、ああ、とか。
けれど、ひとりで楽しそうにしている。
手持無沙汰のハルは、ブルースの身体を後ろから抱える。
腕を伸ばし、膝蓋骨を撫でてみると、研磨された金属のように一瞬ひやりと。
そこから腿に上がり、(限界まで鍛錬された四肢は全くただの大富豪でなく)、漫然と内側へ。
滑らかな、血の通った温みを掌で感じる。
くすぐったそうにブルースが足を動かした。
その肩にハルは顎を乗せ、腿の付け根まで指を這わせる。
ブルースの呼吸が、小さく揺れた。
密着した身体に、ひくんと伝わるそれは、微笑を孕んでいる。
相変わらず謎の暗号が記されたノートから目を上げないが。

「おまえってそーゆーのでオナニーしてそう」
「……お前は戦闘機に対して性的興奮を催すのか」
「んー、飛んでる時とヤってる時が似てるなんて言うけど、バイパー見てフル勃起とかそこまではない。 たぶん。
 でも、おまえの“彼女”を触らせてくれたら、自信ある」
「そんな日は来ない」
「優しくするから」
「お前に預けると空中分解する」
「プロに対して失礼だろ」

話しながら、ハルの手はブルースの腿の間で動き続ける。
性急なものでなく、なんとなく暇を持て余しているから、という具合の。
それでも、だんだんと手の中で明確になる生理現象。
自分のものに触れてなくても、ハルはつられて喉が鳴る。

「……で、おまえの普段のオカズは?」

ブルースは、ぼんやりした指でページをめくり、無い、と小さな声。

「無い? 何もいらない? ニンジャだから?」
「ではなく」
「おまえ……自分でしないの?」
「そういう欲求を感じることが、あまり多くない」

これだからニンジャって奴は、とハルは思ったが、
そんな自分は先程から、自慰をしないという男の性器を愛撫して、面白みすら感じている。
考えてみると、ハルから見れば奇人だが、ブルース・ウェインは世界屈指の資産家で、おまけにこの顔、この身体。
デートの相手は蟻、いや、蝶のように群がってくるだろうし、下半身とお付き合いしたいと思うのも多いだろう。
そんな奴なので、自分でどうにかする、という発想がないのかもしれない。
(信じがたい話だが。)

「……おまえさー、どんな女が好みとか、そういうのあんの」
「無いな」

と、淡白な声。
ハルはわざと唇の端でにんまりして、

「それって何でもいいってコトだろ? 節操ねぇなー」

すると、顔を上げたブルースは、なにか不思議そうにハルを眺め、
それからまた、ノートに目を戻す。

「……顔立ちも体形も、見えなければさして重要でない」
「おまえ、部屋が真っ暗な方が好き派?」
「暗い方が心安く思う。 あまり煩いことを言われたくない」
「ああ、そういうコト」

ブルースは、顔と手首から先以外、腕だろうが脚だろうが大小様々な傷痕に覆われている。
セルフォンより重いものを持ったことがない“王子様”に、腹部を斜めに走る裂傷があるのを見れば、
普通の人間は異常に思うだろうし、余計な噂が立つのは二重生活者が一番恐れるところだ。
ハルは、ブルースの耳の下にキスをする。
ぴんと筋肉の張りつめた腿の、貫通した銃創の痕。
おそらく何かの陰謀を示唆しているのだろうノートの、その余白よりも蒼褪めて。
テレビの画面に、昼下がりの窓が映り込んでいる……。

「……鬼と女とは、人に見えぬぞよき」

常の黒衣のない男が、自嘲するように呟いた。








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虫愛づる姫君。
でも、そーゆー意味じゃない。
ぼっさまの方がおハルさんより身長ちょっと高いといいです、と思うけど、1センチとかそんぐらいで、同じ服着れるよ。
空軍のが砂色って、ABUのが無地砂色っぽいんだけど、それで合ってのるか知らんし、↑のときはもうキャロルのとこでテストパイロットやってる設定。
ちなみにおハルさんがアニメのブレイブ&ボールドで盛大にぶっ壊してたのはウェインさんちの機体だった気がします。
あとで確認しよう。










100.白米唐揚げ生姜焼き。 (99の続き)


してるのが見たい。 と、言うので。
ちょっとしたサービス精神のつもりでハルはジーンズの前を寛げた。
見せて減るものでなし、至極無造作に自分のそれを掴み出す。
が。
ろくに扱いてもいないうちに、あれ、とハルは思った。
何故だかもう固い。 がちがちに硬い。
ジーンズの中が随分と窮屈だったのは知っている。
が、二三回根元からカリまで手を滑らせ、ハルは奥歯を噛み締める。
やばい。 早い。 このままだと7回コールド、ベンチ瞬殺の無惨な散り様。
そんな馬鹿な。
手指に震えのくる思いで顔を上げれば、ブルースは立てた片膝に頬杖をつき、ガラス玉のような目。
あのノートは手を離れ傍らに置かれたが、目の前の出来事に特に関心もないような顔つきだ。
けれど、澄ました顔の下、股間はハルが愛撫してやったまま隆と上を向いていて、
チ×コまでかっこつけてんじゃねーよ、とただで終わりたくないハルは心の中で悪態をつく。
砂色のTシャツが、裾で少し乱れている。
なんでこいつ俺の着てんだ、彼シャツか。と唸ったところで視線がブルースから離れない。
(着ていろと言ったのはハルで、中に手を突っ込んでいたのもハルだ。)

「……ブルース」

吐息が震えないように、下腹に力を込める。
情動の薄い瞳がハルを見返す。

「手ェ出せ」

どうせなら、つまらなそうな振りをした男の、
器用に動く長い指が欲しい。

「口でもいい」

けれど、ブルースは頬杖をついたまま動かない。
目の前で局部をさらしている男を眺めながら、下に置いたノートの端を指先で遊ぶ。
後のないハルは天を仰ぎ、籠った熱を吐き捨てた。

「ブチ込んでやるから、ケツ貸せ」

その言葉に、くっと笑いを堪えた瞳は、花やかな藍色だった。







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必死なおハルを見てるとホントに楽しくなる傾向にあるので、そりゃあもう花が綻ぶように微笑むのだ。
どうでもいいけど、99も100も背景にずっと『THE FLY』。 それは覚えておいていただきたい。









101.


案の定、仕事と外宇宙の方の仕事でハルは部屋を空けた。
ブルースがどうしたかは知らない。 考えたこともない。
二週間後、自宅のドアを開けたのが午後十一時過ぎ。
灯りのスイッチを入れ、小さな部屋は勿論、誰もいない。
冷蔵庫の中身は処分してあった。
部屋にあった指紋もきっと綺麗に拭き取られているだろう。
ベッドにどかりと腰を下ろし、ハルは一つ、息を吐く。
設定時間になったル○バが充電場所を滑らかに発ち、彼の足元で行ったり来たり。

「おまえだけだよ、俺を待っててくれるのは……」

ふざけたつもりが思った以上に物悲しく響き、ハルはひとりでぎょっとする。
いったいどうして真っ直ぐ部屋に戻ってきたのか。
こんな日はどこかでさっさと腹ごしらえをし、バーに行って今夜の相手を見つけるに限る。
と、部屋を後にしたハルは、アパートから通りに出、何気なく視線を巡らせ、
向こうから歩いてくる影に目がとまる。
長身の、スーツ姿の男。
何か袋を持っている。

「……ブルース?」

街灯の下、ハルを見て片眉を軽く上げた大富豪は、
視線でちらりと後ろを差し、

「コインランドリー」

ハルは、なにか馴染みのない単語を聞いたような気がした。

「頼んでいたのを忘れて、取りにくるよう電話を受けた」
「……へぇー」

同じように片眉を上げたハルは、実際どうでもよく、真っ直ぐ足を踏み出した勢いで相手の襟首を掴んだ。
そのまま引き寄せ、唇に噛み付こうとして、肘で邪魔される。

「止めろ」
「なんで」
「外でしないと以前言ったはずだ」
「……いや? 聞いてない」

襟首を放そうとしないハルと、ハルの気管を肘で潰そうとするブルースは、
傍から見れば、男二人が掴み合って今にもいざこざを起こそうとするようで、
だからなのか、向こうの角を曲がって現れたパトカーが、スピードを落として近づいてくる。
やべ、警察。
小声で囁くハルに、ブルースは如何にも面白くなさそうに眉を顰めた。
そして、一瞬交わす目と目。
ハルにはそれで事足りる。
両手でブルースの頭を抱え、唇を奪う。
その手に遮られ、パトカーからは相手の顔が良く分からないだろう。
クリーニングの袋を落とし、ブルースの腕がハルの背中へ。
情熱を演じるのは、二人とも得意なのだ。
たとえば、寄り添う恋人たちがいつか一つになった、百年のアカシア。
廃墟の街に取り残された、その抱擁のように。
パトカーは徐行で通り過ぎ、スピードを戻すと、角を曲がって走り去る。
人の通りも絶えた宵闇の、雲上をジェット機が西へ。
二人は静かに自分を離す。

「……とりあえず、歯にしみるぐらいシロップまみれのパンケーキが食いたい」

自分の口から滑り出た言葉の、意味のなさをハルは笑い、ブルースは相手にもしない。
しっとり濡れたその唇を、ハルはたしかに、甘いと思った。
酷い空腹のせいだろう。







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しかし、そんなものなど一口食べて、やっぱり肉がいいと言うのである。
職質が怖い二人は修司のメルヘン。 あれは樅の木だけど。
コインランドリーは、ハル:自分で行く。 自分でたたむ。
ぼっさま:自分で行く。 ドロップオフ。 ハルの部屋でごろごろする。 ハルが取りに行く。

ル○バが夜中に動くよう設定してあるっておかしくね? と、今気付く。
きっとセンサーが反応したんだよ!

つか、100越えましたー! わー!






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