たいとる : 『三界暗夜に鵺の哭く.』
ながさ :長い
どんなお話 :アース3AU。 アース3て何? という方は、普通の地球とは善悪逆転の、価値観も倫理観も違う別宇宙のお話と思ってくだされ。
        そういうわけで、キャラクターの性格や関係は通常と相当違うよ。↓

       ・トーマス・ウェイン:鬼畜兄弟の兄、オウルマン。 宇宙大の愛を弟に注ぐブラコン。
       ・ブルース・ウェイン:鬼畜兄弟の弟。 宇宙大の愛を注がれて育ちました無気力人間。 蝙蝠にはならなかった。
       ・ハル(パワーリング):いつもめそめそしてる大量虐殺者。
       ・クラーク(ウルトラマン):意外と普通の感性のクリプトニアン。 ウェイン兄弟にドン引き。

        な、感じです。
        ちなみに、公式ではアース3のブルース・ウェインは死んでます。
        そこらへんは、JUSTICE LEAGUE #23.4や#25で。

改めてどんなお話 :頭の中に綿菓子がつまってる王子様が、ある日ぷらっと家出して、廃墟の街で殺人鬼と恋に落ちます、と言うと語弊がある。

ちゅういその1 :弟が生きてるおかげでトーマスの性格がかなり違います。反省してます。
ちゅういその2 :暴力的な表現、差別的な表現、その他アレなとこがあるので、15歳以下の良い子は見ちゃダメだ!
ちゅういその3 :腐向け。弟総受と思っていただけたら間違いはないです。 平たく言えばビッチです。
ちゅういその4 :モブも死ぬけどモブでなくても死ぬ。



よろしかったらどぞー。


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コベントリー死体保管所。
ゴッサムらしい、ゴシック様式の装飾が施されたコンクリートの石棺の、昼でも薄暗い陰鬱の中。
彼は、雲上の人のように、優雅だった。
黒髪に、仕立ての良いスーツ。
整った相貌は、藍の瞳の柔和。
係の人間が案内する廊下は、褪せた照明がジジジと陰気な音を立て、
後に付き従う、通路を塞ぐような大男三人、荒事に慣れた剣呑さを隠しもしないが、
彼は一人、花野を遊ぶ人の麗しさ。

廊下の両脇に並んだ部屋は全て、死体を冷温保存するためにある。
そのほとんどは、身元が分からないか、引き取る人間が現れない。
一定期間この場所で保管され、その後、処分される。

やがて彼等は一つの部屋に至る。
他の部屋同様、壁に三列設けられた方形の扉。
それぞれに付けられた小さなプレートを、管理係が確かめる。

「4-28、これです」

微笑が首肯する。
鷹揚。 富貴に生まれた人間は、モルグにあろうと変わらないのかもしれない。
彼を案内した管理係は、一瞬その涼やかな眼差しに目を奪われ、
次の瞬間には血の凍る思いで顔を伏せる。
どれほど優しげに見えても、相手がウェイン家の人間であることを、片時も忘れてはならない。
死にたくなければ。

壁に並んだ扉の一つ、取っ手を引くと、ステンレスの台が引き出される。
中から冷気が這い出で、横たわる黒い袋が現れる。
ちちち。
それが何の音か分からず、管理係は手を止めた。
と、後ろで眺めていたウェインがすっと動き、袋を躊躇なく開ける。
ちち。
舌先を小さく打ち鳴らす音。
まるで猫でも呼ぶように、彼は死体袋の中を覗き込む。
そして、にっこりと微笑んだ。

長時間殴打された挙句、建物ごと爆殺された少年は、まだ身元が分からない。
ゴッサムでは、珍しい話でない。
掃溜めで生まれ、掃溜めで死んだ虫を、誰が気にかけるだろう。
割れた額、片目は青黒く腫れ上がり、
くすんだ皮膚のそこかしこ、血の跡もそのままの。
少年ジョン・ドゥ。

その傍らに、ブルース・ウェインは跪く。
優しい手は、蒼褪めた頬を撫で、髪を梳いてやり、
ぱっくり裂けた額に、唇を寄せる。
死者に捧ぐ清らな哀悼。
かもしれないが、その様子を盗み見た者は、異様な戦慄が足元から這い上がるのを感じただろう。
少年の骸を抱き上げ、彼は、花のように微笑んでいた。


ウェイン家の次男は白痴であると、多くの人間が信じている。










「死んでしまえ」


あからさまな侮蔑がウルトラマンの冷罵には込められていた。
重要な議論の途中でセルフォンを見たかと思えば頭を抱えて唸る、不愉快な男だけに向けられたのでない。
その愚弟も含めてだ。

「対話可能な精神状態に今すぐ戻るか、頭蓋骨を粉砕されるか、選べ」

返答は、感極まったような溜め息。
ようやく顔を上げたトーマス・ウェインは、優雅に居ずまいを正す。
整った相貌は、藍の瞳の冷酷。
そして、クラークの顰め面を鼻先で嘲う。

「莫迦め、私の弟より優先順位の高いものなど、この宇宙に存在しない」

ひらりとさせたセルフォンの画面は、凡愚の弟からだろう。
兄と良く似た顔立ちの、しかし全く似てはいない、砂糖と蜂蜜で出来た“プリンス・チャーミング”が、
死体と一緒に微笑している。

「賢いぞ、予測より1時間27分早い」

弟の画像に兄は秀麗な相貌を笑み崩して呟く。
その言葉は、期待に応えた愛玩動物を褒めてやる飼い主のそれだ。
クラークが、この事ある毎に神経を逆撫でする男の首をへし折らない理由は、一つしかない。
有能なのだ。
それも、悪魔のように。
相手の心に潜む恐怖を利用し、行動を支配する。
対象が個人であっても、社会全体であっても、その掌で、死ぬまで踊らせる。
人類を隷属させるクライムシンジケートにとって、代替不能な頭脳であると認めざるを得ないが、

「お前はもう少し、ブルースの存在に感謝しろ」

弟の事となった途端、この男は阿呆に成り下がる。(そして虫唾が走る。)

「弟がこの地球にいるから、私はお前に協力している。
 とうの昔に破滅しているはずだった文明社会を延命させ、
 責任を免れることしか考えなかった人類の負の遺産を、十年で清算しようとしているのも、
 全ては弟のためだ。
 あれの幸福のためなら、私は何でも出来る。
 無限に湧いては資源を浪費するだけのクズ共の世界を、存在するに値するものへ昇華させることも出来る。
 搾取するだけのお前には、人類の平穏も進歩も、築くことは不可能だ」

クライムシンジケートは既に政府を屈服させ、統治の段階に入った。
来たるべき“災厄”に備え、この地球を強靭な世界に作り直さねばならない。
だが、そのための選別と淘汰を推し進める冷徹な男が、本来なら真っ先に切り捨てるべき、出来損ないの弟に、
血族の度を越えた庇護欲を抱いているという事実が、クラークには全く、理解し難い。
彼にしてみれば、あの弟は、生まれてくることにも値しない。

「お前には分からんよ」
「分かりたくもない」

目を細めたトーマスは、鮫のように笑った。

「そうだ、理解など必要ない。 あれには私がいれば良い。
 さて、話を元に戻そうか。
 早く終わらせて、私はゴッサムに帰らねばならない」

兄は蛇蝎、弟は白痴。
ウェインは、兄弟揃って歪んでいる。
しかし、最も心を傾けるものが何であるかを晒しているトーマスは、
“統治者”であるクラークにとって、御しやすい。
だから、まだ殺さない。


「やはり今すぐ家に帰ろう! 今日は料理をしたい気分だ」
「阿呆」












宵。
青くけぶるようで、星のない空の下。
水面には睡蓮。 金色の羽虫ふわり。
草陰で蛙の吟ずる声。

人間の視界から植物というものが消え去って半世紀。
それでも、ウェイン邸の庭は、100年前の姿のまま。

水辺に燕子花、花菖蒲。
どこからか、土を掘る湿った音。
小径を行けば柳の下。
男がいる。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
機械のように正確に、シャベルが大地に突き立てられる。
男は穴を掘っている。
深く深く、掘り続ける。
掘り返した土は山となり、男の長身を隠してしまいそうだ。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
男は休まない。
息も乱さない。
ただ額に浮いた汗が、つっと流れ
顎を伝って土に落ちた。
辺りは水底のような宵闇。
男の面相はわからない。
あるいは、顔などないのだろう。
穴は深く、暗い。

無明の底、男は色々なことを考えている。
彼がこれまでに埋めてきた、色々なものを思い出す。
腹の裂けたぬいぐるみ。
血を吐いて死んだ小鳥。
頭を割られた犬。
トーマスは捨てろと言った。

やがて彼は掘るのをやめた。
今までで一番大きな穴だ。
彼はシャベルから手を放し、穴の底に倒れてみる。
あの子の棺と一緒に埋まるには、彼はどうやって彼に土をかぶせれば良いのだろう。
見上げた空は、青く澱んだ井戸の底。
ふらふらと、蝙蝠が横切っていく。













結局、トーマスがウェイン邸に帰ったのは、夕食の時間を過ぎた頃だった。
青黒い怨嗟に臓腑が沸くが、しかし、クラークのことは、まだ殺せない。
まだその時期でない。

「ブルースは」
「お戻りになっておりません」

帰宅すると、彼は必ず最初に、弟の様子を確認する。
弟は気難しい性格で、何かあると食事も取らず地下に籠ってしまう。
だが、今日は、違うだろう。
トーマスは執事を下がらせると、自分でグラスとチーズを用意し、ワインを開ける。
そして、弟を待った。

弟はきっと、あの柳の下で、“葬式ごっこ”をしている。
昔からオモチャが壊れると、あの木の根元に埋めてやる。
弟は、心根が優しい。
弱ったもの、傷付いたものを見ると、放っておけなくなる。
この世界では、それがどれほど破綻した思考であるのか、理解出来ないのだ。
黴菌がつくから野良猫を拾ってはいけないと、あれほど言って聞かせたのに。

二杯目を注いだところで、弟はぶらりと家の中に入ってきた。
まず食事をさせようと考えていたのだが、見ると、弟は頭から爪先まで泥だらけだった。
しかし、子供は泥遊びをするものじゃないか。
(トーマス自身にその記憶はないが。)
弟の手を引き、バスルームに連れていく。
泥のこびりついた服を脱がせ、浴槽に座らせると、まず髪から洗ってやる。
弟は口を利かない。
良くあることだ。
学者肌で、物思いに沈むと誰の声も耳に入らなくなる。
精神遅滞、そんな戯言を世界は信じているが、弟が阿呆の仮面をかぶるのは、弟が優しいからだ。
諦念と言っても良い。
彼等兄弟から見れば、世界は塵芥の有象無象。
一顧の価値もない。
クライムシンジケートは、最後の切り札として平行宇宙への次元跳躍の準備を進めている。
元は、暇を持て余した弟が基礎理論を構築したものだ。
プロジェクトが完成すれば、トーマスは弟を連れて、この不条理な宇宙から脱出する。
だが、まだ時間が掛かる。
それまでウルトラマンには、世界を隷属させる“支配者”として君臨してもらわねばならない。
しかし、その後は。


一通り、弟の身体が綺麗になる。
次にトーマスは弟の手を取り、爪の先に入り込んだ泥を、ブラシで丁寧に落としていく。
弟がものも言えぬ赤子の頃から、彼は弟の世話をしてきた。
他の誰に弟を任せられるというのだろう。
この無秩序な獣の世界で、弟を守ってやれる人間は、兄であるトーマスしかいない。
そして、彼を理解出来るのも、弟しかいない。
彼等は、二人きりの家族なのだ。
こうやって弟に接している時間、トーマスは何よりも幸福を感じる。


「……トーマス」


それは、今日初めて聞いた、弟の声だった。
未だ思索の世界を彷徨うようで、視線の先は、湯にゆらゆら浮かぶ黄色のアヒル。
まばたきもしない弟の言葉を待ちながら、忠実な従者のように、トーマスはブラシを動かし続ける。

「トミー、」

その呼び方に彼は顔を上げ、微笑んだ。
弟は、アヒルを眺めながら言った。

「父さんと母さんを、殺した?」

弟の言葉に、兄は一瞬、考えた。
トーマス・ウェインとマーサ・ウェイン夫妻は、映画を見に行った帰り、強盗に殺された。
そして、残された息子達がウェイン家の全てを受け継いだ。
夫妻を撃ち殺した犯人は、まだ捕まってない。
もう十五年以上経つ。

「突然どうした」

弟は今まで一度も、父母について尋ねたことはない。
両親がいなくても、トーマスは幼い弟を決して寂しがらせたりしなかった。
弟の望みは全て叶え、欲しがるものは何でも与えた。
ままならない世界で、ただ弟の幸福だけを願ってきた。

気遣わしげな兄の顔を、弟は無表情で眺める。
綿菓子のように甘く蕩ける偽りの微笑を捨てる時、弟の瞳は、あらゆるものを凍てつかせる。
それは、トーマスだけが知る、弟の素顔。
兄は一つ溜め息をつき、弟の左手を捧げ持つ。
掌中、かけがえのなきもの。
その左手に、口付けする。

「お前には私がいるじゃないか」

弟は黙って、兄の頬を指で撫でた。
重ねる唇、重ね合う身体。
同じ血の通う、無二の一対。
彼等は地上で最後のウェイン。
兄が父母を殺したことなど、弟はずっと前から承知している。








翌日、ふらりと街へ出かけた弟は、兄の付けた監視役が目を離すと、煙のように消えていた。
12時間後、ウェイン邸に送り付けられたのは、弟の、切断された中指だった。













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少年ジョン・ドゥはジェイソンだよ。
どの宇宙でも二人は出会うと良い。
ごめんな、殺して。
兄やんは、宇宙一でっかい愛を惜しげもなく弟に注ぐけれど、弟のお気に入りはことごとくブチ壊していく派なのです。

ウルトラマンとトーマスは、これでもお友達だよ。
ていうか二人とも他に友達いないよ。

兄が今三十前半、弟が二十中盤ぐらいの気持ちで書いてます。
誰が見ても兄弟ですよね、って分かるぐらいに良く似てる。 でも表情が違う。
背は同じくらいなんだけど、体格は兄≧弟>>>>>ハル
ちなみに、JL #25だとウェイン夫妻が無くなったのは30年前。 だから、兄は現在四十中盤ぐらい?





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