たいとる : 『マレビトを見るべからず』
ながさ :ほどほど
だいたいどのあたり :1997年~のJLAあたり。 『TOWER OF BABEL』や『DIVIDED WE FALL』の後。
              それってつまりどういうこと? という方は、
              ハルがジャスティスリーグにいた頃より後の代のお話で、
              蝙蝠のおかげでジャスティスリーグが全滅しかけたり、やっとお互いの素性を明かしたりした事件があったとお思いください。
              このサイトに置いてある小話の中では、『焦点O'』よりも後のお話になります。

どんなお話 :罰ゲームでゴッサムに行かされたカイルが、鬼のいぬ間にバットケイブを探検してみた。 
         『A DEATH IN THE FAMILY』と『FINAL NIGHT』にちょっとふれます。


**ためにならないキャラクター紹介**

カイル :どこかの誰かがGLCorpsを壊滅させて以降、今日も宇宙で一人きりグリーンランタン。 冷蔵庫と相性が悪い。
      ひょんなことから宇宙最強の武器を手にした、心は永遠の一般市民。 GLの宿命としてゴッサム住人との相性も悪い。
      ジャスティスリーグの一員。 最近、蝙蝠のせいで死ぬかと思った。
      ちなみに、彼は「ロビン=ティム」世代。 ディックはナイトウィングのイメージの方が定着してる。





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“ゴッサムシティでの七日間の勤労奉仕”

まるで託宣を授けるような、火星の賢者の瞳は紅玉色。
無茶無謀、無鉄砲だが、グリーンランタンとして成長過程にあり、
これを機会に多様な経験を積むことを期待する、と。
真心のこもった、つまりは罰ゲーム。
冗談でなく悲鳴を上げたら、フラッシュの野郎、大げさに天を仰いだ。

「骨は拾ってやる」



あの街には良い記憶がない。
足を踏み入れると大抵、何かが起こる。
でも、そんなことより、

ゴッサムは、バットマンの街だ。

もちろん、同じジャスティスリーグの一員なんだ。
血も涙もないとか冷酷非道だとか、そこまでは言わない。
(あっちがどう思ってるかなんて知らない)
ただ、同じ空間にいると、ナニが本気で縮み上がるだけで。
もうだいぶ、慣れた。







「悪いね、うちのボス行方不明なんだ」

次の晩、覚悟を決めて飛び込んだ、暗い曇天の街。
バットマンの姿はそこになかった。
代わりに元相棒が、本人は二日前に所用で出たまま連絡がないと、慣れた口振りで。

「まあ別に珍しいことじゃないし。 とりあえず、七日間よろしく」

ナイトウィングは、いい奴だった。
あの偏屈なダークナイトが師匠だなんて、信じられないぐらい。
師匠の方は、どこに行ったか知らないけれど。
(そういえば、ウォッチタワーの呼び出しにも応じない時がある。)
肩に力を入れてた分、
少し、拍子抜けした。

ナイトウィングの助けもあって、初日の成果は、強盗団を一網打尽、密輸船を拿捕。
特に何事もなく、まずまずだったと思う。
別れ際、まだ星の瞬く夜色の空から、ビルの谷間へと、
姿を消そうとするナイトウィングが、ちらりと振り返った。

「そういえば、明日は」
「明日?」
「ハロウィン。 もう今日になってるけど」
「ああ、」
「だから、帰ってくるかもね」

あの人も。

声が笑った。
と思った時には、闇の中へと跳躍している。
後を追って奈落を覗き込むと、青い澱みを霧が流れているだけだった。




「お待ちしておりました、ライナー様」

生まれも育ちも小市民、安アパート暮らしのイラストレーター。
ついでに、朝の4時に呼び鈴を鳴らすような奴を、
アルフレッドは、賓客として持て成してくれるけれど。
その呼び方だけは止してくれない。

罰ゲーム、のはずだった。
なのに、七日間お世話になるのは、世界屈指の大富豪の城館。
美味しい御馳走にワイン、案内された部屋は調度も美術品も超一級揃い。
庶民には、あの典雅なバスルームの浴槽で寛ぐにも勇気がいて、シャワーだけにした。
目が覚めたら、挑戦しよう。
天蓋のある大きなベッドに、うつぶせに倒れる。
身体をふんわり受け止められて、何かとてもいい匂いがする。
勤労奉仕。
悪くない。
目をつむると、綿みたいな頭の中、
今日一日が、ぼかし絵になって浮かぶ。 消える。
じきに ほろほろ
夢の中くずれる


『旦那様は、お帰りになっておりません』


心地よい微睡みから顔を引きはがす。
この夜が終わってしまう前に、見ておきたい景色がある。







アルフレッドは本当に良く出来た執事だ。
“地下”への行き方が分からず、屋敷の中をうろうろしていた怪しい奴に、
時計の仕掛けを教えてくれただけでなく、クッキーとティーセットも持たせてくれた。

「どうぞ御随意に」






初めてバットケイブに入った日、初めて“ブルース・ウェイン”に会った。
顔を見た瞬間は、それが誰なのかなんて頭になかった。
バットマンが、素顔で、目の前にいる。
それだけで心臓がばくばくした。

隠すことのない瞳が、まるで
氷河の底で結晶した、一億年。

隣にいたプラスの奴がガタガタ騒ぎ出して、それでようやく、
そこにいるのがどういう人物か、気付いた。
“ブルース・ウェイン”
桁外れの資産家。
財布の中に世界的企業がいくつも入ってる。
だけじゃなく、色男。
むしろ、艶めいたスキャンダルのニュースやゴシップ記事のおかげで、その顔を知っていた。
(たぶん、あんまり表情が違うから、分からなかったんだと思う。)

財産、社会的地位、容姿。
反則なぐらい全部揃った、ただのカイル・ライナーから見れば、夢のまた夢の。
まるで、万華鏡の世界の人。
きっと死ぬまで縁なんかない。


だから、今も分からない。
そんな人間が、ああいうモノになるということが。


バットマンは、夜闇そのものだ。
一条の光も無く凍てつき果てた、永遠の暗夜。
見てはならない呪われた怪物達の蠢く、底無しの深淵。
あの人にも、赤い血が流れていることは、知っている。
疑わしい時の方が多いけれど。


あの目は、何を映しているんだろう。


それが知りたくて。
バットケイブの、コンピュータの前。
あの日の彼のように、彼の椅子に身体を預け、かるく頬杖をつき。
それにしても、このチョコチップクッキー、うまい。
さっきから手が止まらない。
白磁のカップを取り上げてお茶をもう一口。
ふわりとこちらも良い香り。
ホント、うらやましい生活してる。

両目を明けて、改めて辺りを見回す。
天然の洞窟を元に造られていて、照明で見通せる範囲だけでも、かなり広い。
それに、整備が行き届いているのが良く分かる。
じぃっと眺めているうち、
にんまり、笑った。

だいたい、地下深く隠された秘密基地なんて
それだけでちょっと、興奮してしまう。

太古の地底に、最先端の技術と設備。
データベースのどこかには、ジャスティスリーグを壊滅させかけた例のファイルが、きっとまだある。
壁の方にはバットマンのスーツが何種類も並んでいて、用途に応じて揃えてあるらしい。
その向こうに見えるのが、巨大な1セント硬貨。
虚空に咆哮するティラノサウルス。
まるで、真夜中の博物館か、
数々の宝物で満たされた、ファラオの玄室だ。

これが、あの人の 視界。
彼はここで、何を思う?
あの黒いグローブの指先で、甘いお菓子をつまみながら?
だったら
可愛いじゃないか。

ひとりで笑ってしまう。
どうせ誰も見ていない。
想像は、蝙蝠の黒い羽をひらめかせ
あちらこちら、好きなように。
背中を包む、彼の大きな椅子。 きっとあの人には丁度良い。
その中で、ぼんやり膝を抱えるうち、気づいた。

さっきからずっと、同じものを眺めている。

もう一度、ケイブの景色を見渡す。
すると、どうしても“それ”に、目が留まる。
コンピュータと椅子を結ぶ直線上、12mほど先に立つ、直方体のガラスケース。

あれは、ロビンの?

トロフィールームからは距離がある。
あのメモリアルケースだけが、そこに置かれているようだ。
配置と、遮蔽物がないせいか、自然と目が引き寄せられる。

傍まで歩いてみると、人の背丈ほどのガラスケースの中、ロビンのコスチュームがある。
目の高さにドミノマスク。
そして、赤いチュニックと緑のグローブ。
黄色のケープ。
明るく、鮮やかな、快活な。
ゴッサムの少年ヴィジランテ。
けれど、今のロビンのものとは違う。
ナイトウィングがサイドキックだった頃のものだろうか。

バットマンとロビンは、不思議だ。
といって、何を知っているわけでもないけれど。(ゴッサムには来たくない。)
バットマンが、音のない闇夜なら、
相棒は、閃光を散らせて輝く火花だ。
まるで対照的なのに、
二人の歯車は、噛み合っている。
それが、パートナーのコスチュームを、バットケイブに置いている理由かもしれない。

地下世界を、ぐるりと見渡す。
ケースを中心に据える、四方の真空。
この空間は、“ロビン”のためにある。
ガラスの向こうから、ドミノマスクの視線は常に、コンピュータの方を。
彼の席を見つめている。


これが
あの人の世界で、
相棒の占める位置なら。
羨ましい



その時、ブツッ、と電圧が変化したかと思うと、全ての照明が消えた。
途端に目の前が闇に覆われ、どこに立っているかも分からない。
停電? 閉館時間? まさか。
リング、と思う間に、電源が切り替わったのか、背後から明かりが差した。
振り返る。
そこに、光の柱。

ケースの中の、幻影の少年と、目が合った。

一瞬、後ずさった。
驚いたからでない。
しかし、何かが

暗黒が水平も垂直も消し去った世界に
まるで楔のように胸を打つ、唯一の光の放射。
その中央に、“ロビン”がいる。
ケースの内側、見えないように設置された照明が、上から清廉な光を降り注ぐ。
空間を永遠に静止させる、光明と陰影。

目を逸らすことが出来ず
ゆっくりと、息の詰まるような
目眩。

これは、たぶん、違う。
パートナーに対する敬意、だけでなく
もっと深く、鋭く、彼の心を抉る何か、かもしれない。
このケースの中にいるのは、
これは誰だ。


「教えてやろーか」


声は唐突に投げかけられた。












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ハッピーハロウィン。 今日がいつかなんざ知らねェッ。
そもそもなんで勤労奉仕な目に合ってるのか、考えた気がするけど忘れました。
バットケイブのことをファラオの墓だかピラミッドだったか、別の本でブースターゴールドが言ってたよ

どうせウェインさんちなんて部屋がいっぱい余ってるんだから、もっとお泊り会をすべき。
再三言ってますが、カイルくんとウォリーとプラスがそろってるJLAが好きで好きでたまらんのです。





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