たいとる : 『焦点O´』
ながさ :ほどほど
だいたいどのあたり :1997年〜のJLAあたり。 で、原書『JLA:TOWER OF BABEL』はまだ起こってない頃
              んなこと言われても分からんわ、という方は。
              このサイトにある「昔々ある所に」よりも結構後なんだなと思ってくだされ。
              あと、おハルさんはもうGLじゃなくなってます。

どんなおはなし :カイルくんのはじめてのアーカムアサイラム。
           親切なおじさんが前任者について色々教えてくれるよ。


*ためにならないキャラクター紹介*

カイル   :グリーンランタン。 この仕事を始めてまだ日が浅く、方々からつつかれる。
       表のお仕事はイラストレーター。 あんまり稼げてない。でも〆切はある。
       別にテンションは高くない。

ウォーリー:子供の頃はキッドフラッシュ、長じた現在はフラッシュ。
       人生の大半がスーパーヒーローな真紅のスピードスター。
       別にテンションは低くない。

バットマン:正体不明のヴィジランテにしてゴッサムシティの引きこもりダークナイト。
       引きこもりなのにJLA内意志決定ヒエラルキーのトップ。
       性格はどちらかというと酷い。

おじさん :親切なので色々教えてくれる。 アーカムアサイラム在住。





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月の塔の頂上の、ふわりと立ち。
爪先からふわりと浮かび。
空を仰ぎ、もう一度カイルは数えなおす。

「……11、12、13……だーっ、やっぱり合わねェし!」

月から見上げる暗黒の宇宙は、青い地球を真ん中に。
まるで、光の作る星の環。
総重量1万トンを超える建築資材が、巨大な円を描いて宙に浮かんでいる。
既にブロック化されたものや、分厚いプレート材などの、それら。
虚空高く静止させている力は、カイルだ。
月の重力は地球の6分の1程度しかない。
一人で資材全てを地球から運んだことに比べれば、造作もない。

その右手に輝く、澄んだ翠光。
彼は、今では宇宙でたった一人の、グリーンランタン。

「聞いてんのー? もしもーし。 これ絶対なんか違ってるから!」

月の塔は、白銀の。
事が起これば太陽系の果てでも駆けつけるジャスティスリーグが、
現在の砦にしている、ウォッチタワー。
前線基地どころか内部での戦闘も多々あり、今日のように修復と拡張を繰り返す。
その、比類なき異能達の集結に、まさか自分が加わるなど、
カイルは、まるで考えていなかった。
ほんの少し前までは。

『るせー。 インカム全開で騒ぐな』
「おまえに言ってねーよ。 バットマンは?」
『いねー』
「探してみろよ、そっちにいるんだ。 俺さっきまで喋ってたぞ?」

タワー内部にいるフラッシュとインカムで言い合いながら、
カイルは、月の空に浮かぶ巨大な塊を、あちらへ移動させたりこちらと入れ替えたり、
くるると回転させては、ビルほどもある三次元パズルを組み立てていく。
現れた銀色の外殻層は、暗黒の夜に輝く十三夜月。
やはり欠けている。

『バッツなら帰った』
「は?」
『後はなんかテキトーにヨロシク、て言ってた』
「それ嘘だろッ 絶対そんな喋り方してないだろ!」
『まあ、別に何も言ってなかった』
「……何だよソレ。 今日中に外側終わらせるって言ったの、あの人なのに、
 俺に声もかけないで勝手に帰ったのか? 俺一人だと分かんねーよコレ!」
『ジョンは』
「ジョンはこの間ので休んでるから、バッツが来てたんだろーがッ」

ウォッチタワーのモニタールーム。
次々と切り替わる映像を眺めていたフラッシュは、一つの画面に視線をやる。
タワー上空に浮かぶ、エメラルドの美しい光環。
カイルが、本人の前では決して「バッツ」と呼ばないことを、
ウォーリーはわざわざ指摘しようとは思わない。
スナックを一つ摘んで、流れゆく他のモニターに目を戻す。

『さあ。 アーカムで何かあったらしい』
「アーカム? あの?」
『あ・の。 だからバッツ今日はもう戻ってこねーよ。
 文句あんなら自分で言え。 あれが泣く子も黙って土下座するゴッサムのダークナイトだ』

インカム越しの言葉に、カイルはむっと黙り込んだ。
月の塔の頂上の。
仰ぎ見る暗黒は静寂。
砂の地平の遥か、その先にある、青い地球。
カイルは、ウォッチタワーのための資材を、全て月面に降下させた。

『あっ、バカ止めとけって!』

ウォーリーの視界をエメラルドの流星が走った。
呼びかけても、インカムから応答はない。
光の軌跡は、既に地球へ吸い込まれた後だ。

「……あーあ。 がんばっちゃうんだから、ルーキーは。
 先輩、ゴッサムはお勧めしないぞ、ホント」

と言って、聞く奴ではないことは知っている。
地上最速のスピードスターは、別段慌てる様子もなく。
しかし、一つ気づいてスムジーのストローを噛んだ。

「もしかして、後でバッツに怒られんの、俺?」






















「あ・の。」が
気に食わなかった、のはある。
バットマンにあっさり無視されたコトも。
だから、カイルは常に、証明しなければならない。
自分がグリーンランタンであることを。

ジャスティスリーグには、"ヒーロー"しかいない。

朝、目が覚めて、自分のベッドにいるんだと気づいて、
ああなんだ、全部夢か。
と、思う時がある。
でも、あのスーパーマンやワンダーウーマンと同じ空間にいたんだぜ。
夢だけど、気分良かった。 ガキみたいにさァ、わくわくして。
いいかげん俺も脳が煮えてるね。 仕事のせいかな。
なんて、アレックスに聞かせようと思って、
右手を見ると、翠色のリング。
彼女はいない。

それでも、何が何だかまるで分からなかった頃と比べたら、
今は、このリングの重みが、分かり始めたような気がする。

ジャスティスリーグは、本物のヒーローがいる場所だ。
直に同じ空気の中にいるだけで、肌がぴりぴりする。
本物は、カメラなんかには何も映ってなかったと思うぐらい、ずっと格好良い。
でも、多分それは。
彼等にどんなすごい能力があるか、だけじゃなくて。
魂の強さ、なんだと思う。
アホのウォーリーだって、ホントはそうだ。
ジャスティスリーグは、何が相手でも、どんなことが起きても、逃げない。
退かない。 揺るがない。
叩きのめすような絶望が目の前に迫っても、屈しないのは、
どうしたって守らねばならないものを、背負っているからで。
その両肩に支えているものが、あんまり大きいから。
俺だって力になりたいと思う。

それを、まだ認めてもらえないんだな、と感じる時はある。

バットマンは、あの人のことは本当に、分からない。
いつかスーパーマンにこっそり聞いてみたことがある。
実はあの人、ホントに吸血鬼か何かじゃないの。
傍を歩いても、音も気配もないし、
まるで夜闇を彷徨う亡霊の影。
すると、スーパーマンはにっこり笑って、「彼は心臓の鼓動もしない時があるからね。」
正直、ヴィランを相手にするより、バットマンの方が怖い。

ムチャクチャ頭が切れるのは確か。
最初から正解を全部知ってたような顔して、(顔なんて絶対見せないけど。)
こっちが見当違いの方を向いている間に、いきなり後ろから首を掻っ切るような。
やることが、クールだ。
一人で何でも出来るし、余計なことは喋らない。
事件が解決すれば、ふっと闇の中に消えている。
今日みたいに、何も言わずに。

意外なのは、それでもバットマンは、最初のジャスティスリーグの一員で。
今のウォッチタワーの建造にも、あの人が深く関わっている。
だから、今日は来ていたのに。











分厚い雲を突き抜けると、ゴッサムは霧雨に包まれていた。
けぶる摩天楼の街並みの、煌くような夜明かりと、底の無いような暗闇と。
この夜のどこかに、バットマンはいる。
さて、どうしようか。 なんて

決まってる。

アーカムアサイラムだ。
















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→2

この後も黒いままです。
見づらっ! という方は適当に調整するかソースを御覧ください。

カイル君はたしかハロウィンスペシャルか何かでアーカムに行ったことがあります。
うん、まあロクな目にはあわなかった。




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