たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×74-76
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集? カイルとハルと蝙蝠が下半身についてあれやこれや。 74はバリーさんも。 微妙に続く。



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74.気紛れとてぃんこ(と友愛)



その時四人で盛り上がってたのが、あの日見たこんなチ×コ!とか、だれそれのチ×コがどうだとか、
だったので、チ×コよもやま話に花が咲く途中、用足しに席を立ったカイルとハルが、
男性用レストルームで互いのナニとその働きについて論じ合ったのは当然のことだ。
(サイズの僅かな差で優越をつけようなどと無粋なことはしない。)
(二人とも、ジョンの敵でないのを知っている。)

「品? チ×コに品とかあんの?」
「あんだよ、バランスとか均整とか色々」

しかし、カイルは自分のと、なんとも言えない趣があるというハルのを比べても、やはり思い出すのはギーガーで。
生まれた時からの付き合いながら、チ×チ×に一般的な美しさを見出すのは難しいと思う。
すると、ハルが自分のを仕舞いながら至極何気なく言った。

「今まで見た中で一番芸術的だったのは、ブルースのだな」
「……はァ?! バッ、 の、見たことあんのっ?」
「あるよ?」

ハルが24時間365日ハルなのは尊敬に値すると、こういう時カイルは思う。
が、

「ちょ、ど、どどういう感じなのッ? どれぐらい? どうなってんの?!」
「どうって、えーと、」
「詳しく、具体的に描写!」

必死になるのは仕方ない。
世界最高峰の探偵にして泣く子も平伏すゴッサムのヴィジランテのナニだ。
本当のところどうなのか、誰だって興味が湧くに決まってる。 自分が特別なんじゃない。
と、カイルは思いたい。

「具体的にって、チ×コだしなァ……」

ハルはうーんと首を傾げ、セルフォンを取り出した。
まさかその中に画像が。
ドキッとしたカイルの肩にハルは片腕を回し、もう片手に持ったセルフォンを上に掲げ、

「ハイ、目線上ー」

シャッター音。
その時になってカイルはようやく、用足し後の自分の局部が露出したままだったことに気付いた。

「なんで、ハルは、俺のチ×コ写真撮ってんの、え、今何してん、の?」
「ブルースのとこ送ってる」
「ま、嘘だろッ?!」
「大富豪のチ×コ画像と交換オナシャス!って頼んどいた」
「ふ ざ、けんなもォー 信じらんねェ!!」
「心配すんな。 おまえアイツのお気に入りだから、こっちが先に五分の条件出せばもしかしたら」
「意味わかんねェ!」

他人のそれは気になるが、自分のそれをじっくり観察されるのには耐えられない。
そんな繊細な男心が今ズタズタに傷付き、カイルは、にひっと笑って逃げようとするハルの肩を掴んだ。

「ハル、とりあえずチ×コ出して」
「え、やだ」
「ハルのチ×コと俺のチ×コ交換してもらうんだよ!」
「バ、バカ! そんなことしたらアイツあっと言う間にバラまいて俺の人生崩壊させんだろ!!」
「俺の人生だってもう充分生きづらいよッ!」
「大丈夫だって。 俺達全員のチ×コにガイのケツの穴までプラスしてもアイツ顔色一つ変えないから」

そんなことは、分かってるんだ。
けれど、あの絶対零度の碧眼が、カイルの全く無防備な(勃起してれば良いという話でないが、)陰部を、
ちらとでも一瞥するかと思うとその冷ややかさにチ×コの置き場がなく、遣る瀬無く、
睾丸が縮こまって女の子になってしまうかと思った。

「お嫁に行けない……」
「気にすんな、おまえのチ×コを広い心で受け入れてくれる相手を探せばいいじゃないか」

などと他人事のように力強く言ってくれるハルが、ふと自分のセルフォンに目をやったかと思うと
突然カイルの肩を思いきり叩いた。

「痛ッ、今度は何!?」
「……カイル、おまえやっぱり、すごいわ……」

手元に視線を落としたまま呟くハルの横顔が、なんだか見たこともないような表情。
まさか、有り得ない。
ハルが呆然と顔を上げる。 カイルと目が合う。
一瞬の、電撃のような意思疎通。

「うそ。」

現実味のまるでない世界にカイルはぽかんと口を開けて突っ立っていた。
ハルがセルフォンを持ち上げる。 画面がカイルの視界に入る。
と思った瞬間、それが青い炎を噴いて爆発した。






***



セントラルシティの空は今日も良く晴れ渡り。
降り注ぐ陽光に公園の木々はきらきらと葉を輝かせ。
白衣の首からIDをぶら下げたバリーは、その人がベンチから軽く片手を上げて彼を呼ぶのを見、にこりと笑った。
髪形が違うのと眼鏡をしていること以外は、いつもとそう変わらないようで、
ゴッサムから来た友人は、オフィスビルの多いこのあたりの昼休みの景色にさらりと馴染む。

「ごめん、待ったよね」
「いや」

隣に座ったバリーにブルースは小さな包みを渡す。

「新しいセルフォンだ」
「ありがとう。 急がなくても良かったのに」

が、ブルースは首を横に振り、

「社の人間に頼んだが、復元出来たデータは57%だけだった。
 電話番号やアドレスに関しては無事だったそうだから、後で確認してくれ」
「いいよ、元々半分はハルが使ってたようなもんだし、仕事用のは別に持ってるし。
 でも突然電話が爆発するなんて、危ないね」
「持っていたのがハルで良かった。 原因の方は引き続き調査している。
 それと、……」

ブルースがもう二つの包みを渡すと、甘い匂いがふわんと鼻をくすぐった。

「アイリスに、アルフレッドがパイを焼いた。 こちらのはブラウニー。
 多く作ったようだからラボの同僚に……」

分けてやれと言いかけたのだろうが、その前にバリーはチョコレート菓子を一つぺろりと平らげてしまった。
二つ目に伸びようとする手をぐぎぎと堪え、見れば、ブルースは眼鏡の薄いレンズの向こう、
菫色の鉱石のような瞳が、睫毛をぱちんと揺らす。

「ごめん、僕これだけはどうしても我慢できないんだ……」

もぐもぐしながら言ってみても口の中いっぱいの美味しさに逆らえない。
けれど、ブルースは微笑った。

「良い、全部君のだ」
「ちゃんと後でみんなと分けるよ? ほとんど僕が食べちゃうけどね。
 彼女の分を別にしてくれてありがとう。 すっごく喜ぶ」
「アルフレッドに伝えておこう」

バリーがにっこり笑ったのは、家族の名前を出す友人の瞳の優しさ。
菓子の包みを大事に抱え、バリーはベンチから立ち上がる。

「じゃあ、行こうか」
「ん?」

不思議そうなブルースに、バリーは言った。

「ランチ。 お礼させてよ」

ブルースは独特の角度で彼の顔を眺めると、

「……男に食事を奢られるのは慣れてない。 私が払うのなら付き合わせてもらおう」
「でも、新しいセルフォンに大好物のブラウニーまでもらっちゃったんだけど?」
「良いんだ。 代わりにハルから毟り取る」
「ああ、なるほど」

笑う、蜂蜜のような午後。
世界最速の男と、洞窟性夜行動物は、
日差しに輝く街路樹の下、のんびりと歩いていく。







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バリーさんのセルフォンをぶっ壊したのは大富豪なので、メシをおごってもらうわけにいかんのです。
あと、ギーガーは悪いわけじゃないの。 でもチ×コだよねという話。
ハルがチ×コ鑑定士でやってることが悪戯どころかセクハラだけど、悪気はないよ。
悪気なくてもセクハラはいけないことだけど、逆に悪気もないからすごいよねとカイルに思われてればいい、そんな先輩後輩。
大富豪はチ×コぐらいどうでもいいと良いです。
それよりはハルにトロイの木馬をつかませる方に興味がある。









75.そしたら次の日こうなった。



衛星軌道上、ウォッチタワー。
無窮の星の海原をカフェテリアの窓から眺めるカイルは、死んだ魚の目。
頭をテーブルに沈めたまま動かない。

「ごめんなカイル。 俺が悪かったから元気出せよ」

前の席で、ハルはようやくありついたプッタネスカ。
アンチョビと黒オリーブのパスタで口をいっぱいにしながら、けれど申し訳なさそうに。
その謝罪は、カイルの脳味噌に伝達される前にするりと消えた。
二日酔い+αの、死んだ魚。

昨晩ハルは、カイルの局部露出画像をダークナイトに送り付け、その報復にセルフォンを爆破され手を火傷し、
火災報知器が作動して四人とも店から逃げる羽目になった。
カイルは、火傷はしなかったが前髪が焦げ、ガイのところに潜り込めば洗いざらい吐かされるのは目に見えており、
ウォッチタワーに避難すると、乗り換え待ちの空港のロビーのようにカフェテリアで一夜を過ごした。
(グリーンランタンとして今はほとんどの時間を地球外で過ごし、地球に家らしい家はない。)
(以前はゴッサムの、ゲストルームなんか余るぐらいあるお屋敷に泊めてもらったこともあったけれど。)

プッタネスカを平らげたハルはコーヒーを二人分取りに行き、戻ってきてもカイルは動く気配がない。
だから、ハルはテーブルを軽くノック。
カイルが少し頭を持ち上げると、ハルは真顔でもう一度、

「悪かった」

真面目な顔をしてる時のハルはほんとにかっこいいなあと、カイルは妙に冷静に考えてみたりする。
実際、もう怒ってない。
そんな気力も今はない。
所詮、チ×コ。
バットマンに見られたからといって、出来の良い奴とは元々思われてない、どうってことない。
(けれど、だったらあの時のアレ、ちゃんと見とけばよかった。)
コーヒーを喉に流し込む。
胃がしくしくする。
知るか。

「いいよ、別にもう。 それよりスペースデブリの掃除はどうなの」
「とりあえず一つずつ片付けてるから、あまりはかどってない」

人類の過去70年の宇宙開発は、スペースデブリを撒き散らしながらの“進歩”だった。
ロケットの打ち上げ時に切り離されたパーツや、壊れた衛星の残骸、
デスペロが殴りつけたウォッチタワーの防御壁の一部等々。
数mmから数cm程度がほとんどの小さな人工物は、超々高速の弾丸のように地球の衛星軌道を飛び交っており、
音速の20倍を超えるそれらが、もしも活動中の有人宇宙船と衝突すれば、悲劇的な結末を招きかねない。
その数、カタログ化され軌道追跡を受けているものだけで、9000超。
宇宙での活動に適したグリーンランタンがスペースデブリの除去を行うのは、理に適っている。
それをハルが一人でやってるのは、罰当番なんだけれど。

「ハル、二人でやった方が早い。 俺も手伝う」
「いいのか」
「どうせ暇だし」

ハルはちょっとびっくりしたように目を丸くして、それから、にこーっと表情が明るくなる。
だからこの人モテるんだろうなと思ってみたりする。
(コンプレックスちくちく?)
(まあでも結局、憧れてんだ。)


カフェテリアを出、ハッチのある区画に向かう。
道々、ここまでの作業状況をハルから聞きながら、しかし、カイルは凍り付いた。
テレポーターホールに現れた、永遠の暗夜が形を成したような、影。
「お。」 片頬を吊り上げるようにハルが笑う。
カイルの心臓がやけに鮮烈に跳ねる。
バットマンは、悪夢そのもののように空気を小揺るぎもさせず近づいて来、
次の瞬間何が起きたのか、カイルは正確には分からない。
ただ、隣に立っていたハルの身体が、まるで見えないトラックにでも轢かれたように後方に吹っ飛び、
ざわりと翻る、漆黒のケープの優雅。
暗夜の騎士は静かに口を開く。

「ジョーダン、貴様は黙っていろ」

黙らせた後で黙れって言った!
と、カイルは決して口に出さず、床に伸びたハルがどうなったか振り返って確認もしない。
出来ない。

「……カイル」
「ハイ!」

反射的直立不動Yes,sir.
ダークナイトは、表情のない白銀の眼でカイルをじろりと睨み、

「あのセルフォンは完全に処分された。
 元々はバリー・アレンの所有物なので、彼にはデータを復元した新しいセルフォンを渡したが、
 その中に例の画像は無い。 無論、私の所に送られた分も消去した。 復元は不可能だ。
 ……災難だったな」

低く淡々とした「災難だったな」が、カイルの脳に沁み込むまで実に3秒かかった。
ぱちん、ぱちんと、緩くまばたきしたのが、だんだん猛烈な勢いになり、顔に血が昇って真っ赤になる。
羞恥が毛穴からぴーぷー蒸気を噴き上げそうで顔を両手で隠したいけれど、ガキか。
どうにかまだ両足で立ってるグロッキー。 でも今すぐ逃げ出したい。

「この話はこれで終わりだ。 忘れろ」

何か、言わなくっちゃ、とにかく、礼だ。
けれど、口がぱくぱくするだけで何も出てこない。
結局は情けなく項垂れて、ああ、後できっと、泣こう。

「理解出来ないな」
「……へ?」

上目でちらりと確認すると、ブルースはいつのまにかカウルを脱いでいる。
いつも美女に囲まれているゴッサムのプレイボーイと同じ端整な顔は、何故だかいつも、同じ人物とは思えない。
長身が、目線を合わせるようにカイルの顔を覗き込む。
その瞳の藍の深さに一瞬、頭の中のぐちゃぐちゃが消える。

「何故、気落ちしている」
「だって、俺……」
「何だ」

もしかしたら、それは微笑だったのかもしれない。
ほんの僅かに縮まった距離を、内緒の話をするみたいに声を落とすと、

「誰に見せて気後れするようなものでないだろ、お前のは」
「うっ、あ、」

信じらんねェ。
この人まさか、俺のチ×コ褒めてんのか。

「クソ! 忘れろって自分が言ったんだろッ」

腰まで響くようなセクシーな低音で他人をからかうから性質が悪すぎる。
別な意味で顔が赤くなりそうで、ほんと、勘弁してほしい。
微笑に似た瞳は、水に映った光の花色。

「……あ、カイルの機嫌が直ってる」

その声が聞こえた途端、ブルースが嫌な顔をする。
ハルは床に寝転んだまま頬杖して二人を眺めた。

「さてはおまえら、俺の聞いてないとこでチ×コトークしてたな」

いやらしい! と喚いた眉間のド真ん中にバッタランが命中してハルはまた床に伸びた。
ゴンッとかなりの音が響いたから、ちょっと心配になる。

「カイル、お前はあれを甘やかし過ぎだ。
 スペースデブリを完全に除去するまで地上に降りるなと言ってあるのに、お前が手伝ってどうする」
「特にやることもないし、デブリを放っておけないのは本当だろ? だったら早く済ませた方がいい」

ブルースは黙って片眉を吊り上げた。

「見ろ、カイルはおまえより余程人情が、」
「貴様はさっさと仕事しろ」

よろよろ起き上がろうとするハルをざっくり斬り捨て、ブルースはむつかしい顔でカイルを眺める。
その眼差しに胸の奥底まで射貫かれそうで、カイルが落ち着かずにいると、

「今日中に全て終わらせ、その後で私に付き合え」
「……はい?」

聞き返した頃にはダークナイトはカウルを戻して立ち去っている。

「……えーっと、どゆこと??」

ぼんやり廊下に突っ立っているカイルの後ろ頭をハルがぺしんと叩いた。

「仕事すんぞ。 あいつの今日中は東部時間の夜八時までだ」
「付き合えって、ねえ」
「おまえ、ちゃんとした服持ってるか?」
「ちゃんとしたの、あっ、カジノ行く時に買ってもらったのがポケットディメンションのどこかにある」
「よし。 パンツは替えていけ、ガンダムは止めろ」
「ま、待って! 何コレ!?」
「デートだろ?」
「何ソレ!」
「メシ食った後でセックス」
「嘘ッ!?」
「になるかもしれないからパンツで失敗するな」

鳩が豆鉄砲の連続弾を食らいまくってるカイルに、ハルは本気かどうか分からない顔で、

「言ったろ、おまえはアイツのお気に入りだって」







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あのね、ハルと大富豪だとセクハラもやり方が違うと思うの。
たしかそういう話があったなあと思ってこの小ネタ作ったんですが、後になってちゃんと調べてみた。
JLA(1997-) #33で、カイル含むリーグ面子が任務でカジノに行くお話があるんす。 オライオンもビッグ・バルダも地球人の格好するんだぜ。
そん時カイルが、リーグの金じゃなきゃこんな高級なホテル泊まれない的なこと言ってたので、じゃああなたのスーツもそうですかと思った。
リーグのお金って大富豪の金じゃろ。
ちなみに、その話のライターはMark Waid。 後のTHE BRAVE AND THE BOLDで、
大富豪とハルがカジノに行ったらドレスコードに引っ掛かったハルがあやうく門前払いを食わされるお話のライターです。







76.ここらで一つ、在りし日のカイルと蝙蝠の健全な思い出話をしておこう。



言われたとおり毎日柔軟を続けてたら、だいぶ身体が柔らかくなった気がする。
トレーニングルームのマットで、カイルは開脚前屈。
けれど、まだあの人みたいにぺったり出来ない。

ジャスティスリーグの一員になって暫くしてから毎日一時間程度(ゴッサムで事件が起きない限り、)
カイルはバットマンから、リングが使えない時のための実戦的な訓練を受けている。
バットマン曰く、

「鍛練したところで物の数には入らない。 だが、自分の身は自分で守れ」

実際、カイルの指からリングを抜き取られてしまうことが既に数回起きている。
(その内の一回はバットマンだ。)
何も出来なくなるどころかリーグのお荷物になるなんて御免だ。
そういうわけで、今日もカイルは柔軟から。
バットマンが来る前に済ませておかないと怒られる。
(ほんとは、〆切やばい。)
(ので、〆切とアタシとどっちが大切なのよ! と言ってるバッツを想像してみる。)
(うーん、微妙。)

宙に浮かんだ緑色のツンデレ蝙蝠のフィギュアは、視界に黒い亡霊のような姿を捉えた瞬間、慌てて消した。
気配も音もなくトレーニングルームに入ってきたダークナイトは、そんなカイルを冷ややかに一瞥する。
カイルは笑って誤魔化すと話を逸らすため、肩からケープを外そうとする相手に目を留めた。

「前から聞きたかったんだけど、なんでそれ外すの? やっぱり邪魔?」

カイルの訓練をする時、バットマンは夜闇そのもののようなあのケープを外す。
そうすると、なんだかまるで怪物の姿から人型に変身したみたいで。
その黒いボディスーツがどんな構造になってるのか、いつかちゃんと見せてほしい。
というか、どんだけカッコイイ体型してんすか、後学にスケッチしていいですか、時間取らせないんで。
なんて。

「動きを妨げられることは無い」

バットマンは少し考えるようにカイルを眺めると、ケープにかけていた指を離した。
しなやかに流れ落ちる漆黒の優雅。

「カイル、グローブを付けてそこに立て。 いや、リングでシールドを創って良い。
 私はこれからお前の左側面を攻撃する。 高さはお前の顎の辺りだ」
「受けろってことだよね?」
「受け損ねれば昏倒する」

そう言われてカイルは集中する。
左。
方向と高さまで予告されたら、防がないわけにいかない。
カイルの緊張を余所に、ダークナイトの静寂は、凍てつき果てた永遠の暗夜。
次の瞬間、何が起きたのか理解する前にカイルはシールドごと吹っ飛んでいた。



衝撃と共にカイルは突然目を覚ました。
肺に急激に空気が流れ込む。 そして一気に吐き出す。

「……昏倒すると言っただろ」

情動の薄い声が聞こえたかと思うと顎を掴まれ、顔の角度を変えられる。
覗き込んでいるのは、バットマンの無機質な白銀の眼。
カイルの瞳孔を確かめているのだろう。

「だ、大丈夫、もう起きてる。 それより、分かった、全然分かんないってことが分かった」

バットマンが今までケープを外していたのは、その方が身体の動きが良く見えるからだ。
肩や腕がどう動くか、どちらの足でどの程度踏み込むか、今まで目で捉えていたそういう情報が、
ケープをした途端、読み取れなくなる。 足捌きも分からないまま気づけば距離を縮められている。

「あー、クソッ! 言われたのに全然わかんなかった。 ほんとに左?」
「左だ」
「もう一回、もう一回やらせて!」
「……30分間安静にしていろ」
「そんなに?! 俺もう平気だよ?」

しかし、冷徹厳格なダークナイトがカイルの意見に耳を傾けることなど万に一つもなく、
喚くカイルを一顧だにせず部屋を出ていった。
その後ろ姿を恨めしく見送ると、カイルはごろんと手足を放り出して寝転んだ。

「30分」

真似して声に出してみる。
身体がまだビックリして心臓がばくばくしてる。
やけに鮮烈なイメージが、そこに。
安静。
それは、紙とペンを使っていいですか。





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気分的にJLAの頃で、フリーのイラストレーターやってた頃。
リランチ前のどこかで、シネストロがカイルに殴り合いの仕方を誰に教わったか的なことを聞いた時、答えが蝙蝠だったんだよ。
でも本当のところドナの割合の方が多くねとは思う。
蝙蝠とカイルの関係は、ライターが誰かでちょっと違ってくるんですが、蝙蝠から見るとJLAの頃のカイルは、ハルより余程危なっかしい子に見えてたらいいな。
ロビンと違って自分ちの子じゃないんで世話は焼かないけど、ヒヨコが横断歩道を渡っていくのを眺めてるみたいで、不安を誘う。
だから機会があれば視界の端には入れてるとか。
でも、カイルの側からすると、蝙蝠はカイルに対して基本関心0の人だと思ってればいい。
カイルがGLになった理由が、ハルがパララックスになったことなんで(少なくともリランチ前は)、蝙蝠は色々複雑な思いを持ってくれればいいなあというのは願望です。

なんかね、カイルからすると、ハルとは殴り合いが出来るけれど、蝙蝠相手だと常にボコボコにされる所存。
全然違う種類の先輩かなあと。
これがたとえばオリーから見れば、ハルも蝙蝠も同等にクズ、いや、アホな奴等だなあと思ってるよ。
ハルは、カイルも蝙蝠もバリーもオリーも全部自分のだと思ってる。
いや、所有はしてないけどここからここまでは僕が遊んでいい人達ですねと思ってる。
でも、その中で僕を容れないで仲良くされるとどんな顔したらいいか分かんない。
蝙蝠は、ジャスティスリーグ? ああ、バットマンとそのビッチ達のことか。 だろ。




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