たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×62.63
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。 セフレがいいとこな二人です。



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62.こんな夢を見た




四月一日なのでバットマンがバットウーマンになりました。

なんだそりゃと思いつつ、しかし、とんがり耳の友人はたしかに一回りほどサイズが縮み、
その豊満な胸は何の間違いかとさわらせてもらったら、柔らかかった。

うわっ

驚いたと困ったの、うわっ。

「困る? なんでハルが」
「だってセックスしたら妊娠するかもだろ」
「うーん」

真紅のスピードスターは腕組みして考え、笑顔で言い切った。

「やらなきゃいいんじゃないかな」






*




そこで目が覚めた。
ベッドから跳ね起きてまだ心臓ばくばく。
いったいどうしてコンドームの存在を思い出せなかったのか、不条理としかいえない。
酷い夢を見た。


そして、おまえは非情な奴だった。
と、夢の話を親友に語って聞かせると、心外そうな顔で、

「そもそも、友人とセックスするっていう前提を考え直す気は?」
「全っ然なかった。 けど夢なんだからそれはいいだろ。
 俺はただ、滅多にない機会かもしれないのに指くわえて見てるだけなんて、我慢できるかって言ってんだ」
「共感できないよ。 僕は結婚してるもん」

真紅のスピードスターは、ああ、と手を叩くと笑顔で言った。


「結婚すればいいんだよ」







*




そこで目が覚めた。











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63.野遊びの日




別にどうということもないが、うまいものを食わせてほしかった。
事件以外でハルがゴッサムを訪れるとしたら、そういう理由だ。

建造物が密集した市街地の上空を飛び越え、北側の郊外を目指す。
なだらかな丘陵地帯に、ウェイン家の屋敷が見えてくる。
以前訪れたのは、一面雪に覆われた頃だろうか。
いつのまにか、新緑の季節になっている。
当然のことだが、ウェイン邸の門をグリーンランタンの姿で堂々とくぐることは出来ない。
ゴッサム名物の大渋滞に巻き込まれる気もないので、付近までは飛行するが。

ハルが降り立ったのは、ウェイン邸を彼方に望む、午後の緑野。
自然庭園の趣か、単なる野原なのかは知らないが、いずれにしろ、ウェイン家の土地の一部だろう。
草原をそよ風が渡り、空へと立つ椈、楓、榎。
小径の先の柳の下、ウェイン家の当主が佇んでいる。
突然グリーンランタンが現れたからだろう、眉を顰めて彼を眺めている。
ハルはそちらに向かって歩こうとした。
その矢先、傍らの草藪の中から黒い影が飛び出してきた。
大きな犬だ。
それが猛烈な勢いで腰のあたりに横から体当たりしたので、彼は思わずよろめいた。
普通の人間だったら、よろめいたで済まなかっただろう。

「何だ?!」

黒犬は地面に着地すると小径を塞ぐように身構える。
そして、再びハルに飛びかかろうと身体を低くした時、

「タイタスッ」

鋭い声が聞こえた途端、犬はぱっと身を翻し、主の元へ駆け寄った。
ブルースは屈んでグレートデーンを迎えると、その身体を撫でてやる。

「おまえの犬かよ」

ハルが近づいていくと、犬はやはり牙を剥いて唸る。
ブルースはじろりとハルを睨み、

「タイタス、落ち着きなさい。 これはただのハルだ。 たしかに怪しい輩に見えるが、概ね害はない」
「本人の前で怪しいとか言うな」
「いきなり空から光る人間が降りてくることを、一般には“怪しい”と言う」
「へいへい」

ハルがいつもの姿に戻ると、タイタスは彼をじっと見つめたが、唸るのは止めた。

「何の用だ」
「メシ食わせてもらおうと思って」

ハルはしゃがみこむと、タイタスに向かって下から手を差し伸べる。
タイタスはその指先にまず鼻を近づけ、においを確かめている。
漆黒の毛艶と、均整の取れた身体つきが美しく、飼い主に似合っていると思った。
それを口にする気は全くないが。

「おまえは?」
「散歩をしている」

随分と平凡なことを言うもんだとその顔を見ると、
立ち上がったブルースは、風光る野の景色を眺めている。
こんな日は、そういうものなのかもしれない。
ブルースが小径を歩き出す。
タイタスがついていく。
その後ろを、ポケットに手を突っ込んだハルが歩く。
緑の中、揺れる撫子、ひなげし、待宵草。
野茨の藪に蜜蜂が飛び、向こうには大きな花水木。
日差しが暖かく、振り返ると、並んだ楡の上に市街地の高層ビルが霞んでいる。
こちらも向こうもゴッサムなのだと思うと、なんとなく不思議だった。

「ココ、おまえんとこの庭?」
「庭ではないな。 見てのとおり手入れをしてない。
 何代か前の誰かが庭を造ろうとしたらしいが、気が変わったのか、半ばで止めたようだ。
 お前が今つまづいたのは当時の石材で、あの柳の向うには睡蓮の咲く池もある。
 だが、殆ど原野だな。 子供の頃は良くここで遊んだ」
「子どもの頃があったのがまず信じられない」
「昔はキツネの親子がいた。 今はタイタスの遊び場になっているが」

ハルは、前を行く長身を眺める。
キツネの子が見たくて藪の中を覗き込む、ちいさな男の子を思い描いてみる。
ハルの口元は、自然と綻んだ。
小径の側、人の背丈ほどの草叢が、がさがさと音を立てる。
また何かいるな、と思うと、草を割って現れたのは、牛の顔だった。

「ブ、」
「ああ、そこにいたのか」

茶毛の雌牛は、のんびりと小径へ出てくる。
その首のあたりをブルースは優しく撫でてやった。

「ハル、彼女はバットカウ。 失礼のないように」
「子供がつけた名前みたいだな」
「彼女の顔を見てみろ」

言われて覗き込むと、ガラス玉のような二つの黒い瞳を中心に、羽を広げた模様は、

「ほんとに蝙蝠の形してる」
「そして、背中にいるのがアルフレッドだ。 まあ撫でてみろ」

見れば、牛の背に乗っているのは、黒に白のまじった子猫だ。
コイツなんで執事の名前を猫につけてんだ、と思いつつ手を伸ばすと、
稲妻のような速さでハルを引っ掻いた。

「いてッ」
「猫の素晴らしいところは、決して野性を失わないことであると私は思う」
「おまえ、絶対わかってただろ……」

ブルースは素知らぬ顔で歩き出す。
その後を犬が従う。
牛はゆったりと歩を進め、猫は背中で丸くなる。
風の穏やかな緑野を、ブレーメンの音楽隊が行く。

「これで全員か?」
「ジェリーがまだだ」
「鶏?」
「七面鳥」

食うのか、と言おうとしたが、ハルは黙っていた。
ブルースは肩越しに彼を一瞥し、

「食用ではない」
「分かってるよ」
「宜しい」

ジェリーはどこで遊んでいるのだろう。
日はうららかに照り、小鳥の声が空へ昇っていく。
ハルは小径に立ち止った。
ウェイン家の不思議な一団は、澄みきった光の中、粛々と進む。
丘の上では箱船が待っている。


「やあ、ジェリー。 家に帰ろう」












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タイタスもバットカウもアルフレッドもジェリーも、みんなダミアンが付けた名前。
お子さん早く帰ってくるといいですね。







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