たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×56-59
どんなおはなし :49番から引き続いて、猫又とパイロットのお話ですよ。 だらだら続く。
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56.ハルと猫 =UMA=
晴れた。
晴れた。
晴れた。
青空だ。
朝にエサを食べた猫は外に出たっきり戻らない。
雪の中へも飛び出していくが、日暮れには帰るのでハルは気にしない。
土地に合わない冬、猫は、外で何をしているのだろう。
縄張りのパトロールか、それとも狩りに勤しんでいるのか。
遅めの昼食をとった後、ハルは所用があり、
基地の東に広がる、今は雪に白く覆われた乾湖を、車で突っ切っていた。
その途中、ふと目にしたサイドミラー。
眩しい平原の遠く、小さな黒い影がある。
何なのか分からず、目を凝らすと、それは動いている。
脚がある。
頭と、胴と、尾の区別がある。
ハルは後ろを振り返った。
すると、ドライデン飛行研究センターの方角。
白い地平の中、何か、真っ黒い獣が、
こちらを見ていた。
ハルが車をUターンさせた時、乾湖には既に一片の影もなく、ただ広大な空があった。
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たまに日光浴してる猫又(大型)。
人に見られると動画をどこかに投稿されたりするので、民家の傍ではやらない。
57.ハルと猫 =教習中=
次の日、ハルはまた乾湖に出かけた。
昨日見た黒い影は、遠距離だったのではっきりとは言えないが、コヨーテではないように思えた。
しかしハルが今、白い平原にピックアップを走らせている一番の理由は、
暇なのだ。
今日は相棒が助手席に乗っている。
例の白猫だ。
エンジンをかけた時から、前を向いてきちんと座っている。
その眼差しは、まるで行先を知っているようだ。
が、ハルは別に、野性の勘に何かを期待しているわけでない。
猫は、勝手に乗り込んできたのだ。
そういえば、前にもコックピットに乗り込んでいたことがある。
エンジンの付いた乗り物が好きなのかもしれない。
凡そこちらの方角だろうと、適当にハンドルを切ると、
その肘をするりとまたぎ、猫が、ハルの前に身体を入れた。
そして、伸び上がるように右と左の前脚をハンドルにかける。
「おまえ、何してんの?」
すぐ前にある小さな後ろ頭に聞いてみながら、ハルは笑っていた。
どうやら猫は、自分で運転する気のようだ。
真っ白い手がハンドルの上を滑る。
ステアリング操作のつもりらしい。
まあ、いいか。
視界は四方向三百六十度、遮蔽物のない晴天の乾湖。
結局ハルは、暇だ。
目の前の誘惑にたえかね、絹のような毛並みを撫でくり回したら、
邪魔をするなと怒られた。
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車種は何でも良いよ。
でも、助手席に動物をただ乗せるのは、危ない。
ので、↑は実際アクセル踏んでるのお春さん。
乾湖の東西がせいぜい3、4㎞なので、とろとろ走ってる。
58.ハルと猫 =たぶん女子高生みたいな会話してる。=
エドワーズ空軍基地は、例年より長いクリスマス休暇中である。
それは、数々の食堂もグロッサリーもバーもコーヒーショップも、
閉店していることを意味する。
しかし、哀れな留守番達のため、冷蔵庫いっぱいの作り置きをしてくれたところもある。
それもなくなると、各自でどうにか胃袋を満たすのだが、
「食い物がなくなる頃には、殺し合いが始まるな」
と、真顔でマカロニチーズにスプーンを突っ込む同僚は、昨晩孤島サバイバル物を読んでいたらしい。
だが、ハルはその言葉を聞き終わらないうちに、外に走り出ていた。
頭の中、マーク付きの警告音が鳴り響く。
右目の視界の隅、基地の風景と重なって明滅するそれは、グリーンランタンの紋章だ。
脳内に直接提示される名前は、“シネストロ”。
別のセクターの担当者であり、地球人嫌いを常々標榜しているシネストロが、
わざわざ地球に来たということは、何かろくでもない事態が起こっているということだ。
昼飯にしようとのそのそ集まってくる同僚等から離れると、
ハルはグリーンランタンの姿に変わり、461ハンガーに急いだ。
シネストロが食堂を破壊して現れなかったのは、(大抵は何かしら損害が出る。)
ハルへの配慮などでなく、単純に、地球人の集団を目にしたくないからではないかと、彼は考える。
しかし、1.3秒で到着した461ハンガー。
中を覗いたハルは、思わず首を傾げた。
そこにいたのは、皮膚の赤い異星人のグリーンランタン。
ちょび髭も、両腕を前に組む直立不動の姿勢も、いつものシネストロなのだが、
その視線が足元に注がれている。
猫。
白猫が、シネストロを見上げている。
そして、何かしきりに、話している。
ハルはあの猫が鳴くのを聞いたことがない。
何をするにも物音を立てない猫なのだ。
しかし今、確かに。
にゃうにゃう、にゃうにゃう、小さな声で。
異星人に話しかけている。
それを見下ろすシネスロトは、例の直立姿勢、しかつめらしい顔のまま。
勿体ぶって、頷いている。
まるで、相手に同意するように。
ハルは、愕然たる思いで結論づけた。
あのおじさん、ニャンコとお話してるッ!!!
その後、シネストロは唐突にハルに向かって事態の切迫した状況を説明し出し、
猫はどこかにいなくなってしまったので、彼が真相を確認する機会は、遂に訪れなかった。
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緑のおじさまも、たまには良い。
途中の諸々は書き易いようにしとります。
んー、宇宙も含めた全環境で活動するなら、リングのお喋りは空気振動じゃないよね。
聴覚の発達の仕方も保有者によって違うだろうし。
59.ハルと猫 =ただいまおかえりおやすみなさい、の前にメシ=
ろくでもない事態、というハルの予測は、概ね的を射ていた。
太陽系を発ってから14時間足らずで彼が帰還出来たのは、奇跡と言っていいだろう。
下手をすればまた一月ほど、失踪扱いされるのを覚悟していたのだから。
事態がどうにか収束すると、ハルは脇目も振らず地球へ急いだ。
気がかりなことが一つあった。
猫に、エサをやってない。
いや、あの猫は、スルタンの王宮で育ちました、のような外面に反し、99%、野性動物だ。
人間が一、二度食べ物を与えなかったところで、自分の面倒は自分で見るだろう。
と、彼は確信している。
しかし。
エドワーズ空軍基地は、真夜中だった。
流星のように大気圏を貫通し、ハルは461ハンガーの前に降り立つ。
グリーンランタンの姿が、光が消えるように、元の格好に戻る。
静まり返った夜だ。
残雪の地平が闇の中に茫と浮かんでいる。
ハンガーの中に入ると、誰もいない。
見回すが当然、猫もいない。
ネコ好き有志から提供されたエサをまとめてある場所を確認すると、
“仕事しろネコ係!” とデカデカ書かれたメモが残されている。
記憶にないので、ハルが姿を消した後に書かれたものだ。
つまり、誰かが代わりにエサをやってくれたらしい。
偶々気がついたのか。
基地に滞在している人員が極端に少ないことを考えると、偶然でなく、
猫の方が自分で誰かを探して、催促したのかもしれない。
いずれにしろ、ハルのすべきことはない。
胃袋に食料とアルコールを適当に流し込んだら、一人でベッドに潜り込むだけだ。
だから、生き物は飼えない。
暗い夜道を歩き出し、ハルはぼんやりそんなことを考えた。
冷えていく指をジャケットのポケットに突っ込んで、ふと顔を上げる。
向こうの路面、夜目に白く、小さなものがある。
立ち止ると、それが動く。
走ってくる。
猫、と思う間にハルの前までやってきた猫は、そのままの勢いでぱっと軽やかに跳躍。
一気に彼の身体を駆け登り、肩に乗った。
ふわり、二股の尻尾が揺れる。
ハルは、ぽかんとした。
が、とりあえず、猫が落ちないよう手で支える。
「おまえ、何やってんだ……」
猫はもちろん答えない。
我関せずの、自由気儘。
白くて、もふもふして、ふわふわしてる、
猫は猫だ。
ハルはジャケットの中に猫を入れ、また夜道を歩き出した。
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おハルさんのことがわりと好きだといいよねという主張。
そんなわけで、もっふもふ。
まだ続く、かもしれない。
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