たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×43-47
だいたいどのあたり :昔々のジャスティスリーグ。
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。 セフレがいいとこな二人です。





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43.通り雨



間の悪い二人が。
サラミとビールを買って店を出ると。
外はもう、轟くような土砂降りだ。

さっきまで晴れてたのに!

叫ぶ口にも雨雨雨。
往来は一散に誰もが逃げ去った後。
水煙、白くけぶる。
上も下もわからない。
右と左もわからない。
踊るような、夏の雨。

花屋の軒下、今年で四十七の鸚鵡は首傾げた。
どこかで子供のはしゃぐ声。
雷鳴。


停めておいたセダンに戻る頃。
頭から驟雨を浴びた二人、上から下までびしょ濡れ散々。
どちらが悪いか、責任をなすりつけ合うけれど
互いの有様が、あんまり笑えてしまうので
唇にキスして車を出した。

烏の羽つくろいのようなものだ。





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雨が降ると、電線にいつもカラスが二羽いる。
いつもだから同じ二羽だと思う。
















44.いいお肉をいただきました。



「で、そのお礼に。
 俺はビールが良かったし、警察が来そうで早く店から出たかったんだけど」
「ついでにお前も逮捕されるとでも思ったのか」
「経験則?」

南のテラスの午後三時。
シャクナゲ、カンパニュラ、鉢に咲いた石竹の花。
そよ風はさらり撫でていく。
野は一面の緑。
ゆるやかな丘陵に、楡や柳の青々と。

「いい肉らしいから、アルフレッドが引き受けてくれてよかった。
 俺のとこキッチンないし」
「あっても料理はしない」
「する時もある」

指折り挙げるのは、目玉焼きに始まって何故だか卵料理ばかり。
屋敷の主はティーカップを唇に、是とは言わず否とも言わず。

「まァつまり、おまえよりはマシってこと」
「ほう?」
「おまえは、何一つ、出来ないだろ」
「機会に恵まれてはないな」
「ホントは出来るって言いたいのか? 料理だぞ?
 執事無しじゃ自分の靴下も探せないような奴が?」
「……お前は本当に、ものを知らない」

眼差しは、月草の花色。
浮き世の塵なぞ目にしたこともない。

「彼がいなければ私は生きていけないよ」






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箱入り大富豪。
とは思えない適応能力の高さなので、野に放しても元気に生きていきますが。
















45.生存の根拠




最後に食ったのが、いい肉だったから。


-273℃、星々の明かりどころか原子すら希薄な、暗黒の牛飼座ヴォイドを、
パワーリングのエネルギーチャージがほぼ0の状態で、17日間漂流したハルは、
“何故生きていられたのか”という問いに、けろりとした顔で答えた。


だから、しばらく何も食わなくても平気だろ?





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グリーンランタンは、何を思うかがまず重要だと思うの。

リングのチャージは1日一回制なのか、切れたら充電する式なのか。
見るものによって違う気がするので統一してくれませんか。

宇宙の泡構造を、骨みたいwww と仰ってたのが
某BLACKEST NIGHTを書いた方と、某BLACKEST KNIGHT(BATMAN&ROBIN)を書いた方です。
ヴォイドが何℃ぐらいかは知りませんよ。














46.意



暴力は、人の形をしている。
その手はいつも銃を握っている。 (あるいはナイフ、それともアイロン?)
その足は屍を踏み潰して進む。 (アパートの四階まで上がるほどの苦労もない)
舌には悪意。

けれど、恐怖は蝙蝠の姿をしている。

午前三時の船上の狂騒。
怒号が振り上げる赤い拳。
誰彼構わず撒き散らす十字砲火。
その暴虐の渦を。
死病の街を彷徨う影のように、音もなく。
暗夜の怪物は狩りをする。







食われる、とハルは思った。

真っ黒い影がハルの上に馬乗りになっている。
夜闇そのものが形を成した、亡霊のように暗い影。
体長6.2フィート。 地球最大の蝙蝠は、
人肉ぐらい、食うのだろう。

鮮やかな足払いのおかげで石の床に背中をぶつけたはずが、
ハルは、痛むという機会を忘れた。

光ではない白銀の、切れ上がった二つの眼が、
自分の下にした獲物を、無表情に見据えている。
鼻のあたりまで隠す黒い仮面。
引き結ぶ唇は、静けさ。
けれども気性は荒く、神経質で、
自分の縄張りを荒らす動物を、容赦なく排除する。

その顔に。
ハルは腕を伸ばそうとした。
掴んで、引き寄せて、
無言の唇に、舌をねじこんでやったら。
どんな顔するだろうと。

しかし、頬に触れると思った指の先、空を切った。
ハルがもう一度腕を伸ばすと、また上体を僅かに反らし、さわらせない。
白銀の眼は、虹彩も瞳孔もなく、
動物的な無感動。
ハルは喉奥で低く唸る。
上からは好きなようにいたぶれるだろうが、
下にいる人間は、仰向けに転がされた虫けらのようで、手が出ない。

どこからか、静かな響きが聞こえる。
暗い地底を、海へと目指す河がある。

空に迷ったハルの手は。
ゆっくりと降下。
指の先に届かない、顎と、首と、撫でながら。
降りていく手は。
流れ落ちる漆黒のケープの裡。
堅い胸郭に爪を立てる。
心臓はどの辺りにある。

この蝙蝠は、昼間は大富豪の姿に変身し、
仕立ての良いスーツのポケットには、軍用装備を開発する会社も入っている。
そして、夜になれば。
“王子様”の微笑はどこかに消え失せて。
鼓膜の割れるような銃撃戦を、振り下ろす刃の煌きを、漆黒の影が薙ぎ払う。

その胸郭から脇腹へ。
沈黙の手触りは、真夜に凍てついた石の怪物。
どちらかといえば、工学の人間であるから、
悪名高いヴィジランテの、ボディスーツの構造や強度に、興味がなくもない。
(けれど、いつになったら王子様の“呪い”は解けて、)
(ハルにキスの一つもくれるんだろう?)
この動物は、人の言葉が通じない。

手がかりを求め、脇腹から太腿へ。
撫で下りていくそれは、獲物を下にし悠々としているが、
極限まで鍛錬された、鋼のように冷厳な精神の産物でもある。
しかし、ハルの右の掌、ざりりと掠めた。
何の痕なのか、腿の中ほどから外側へ一筋、裂けてささくれている。
ハルはちらりと視線を上げた。
漆黒の仮面は、冬空のままだった。
だから。
下肢に残された、鈍い裂傷に。
指をかけてハルは思いきり腕を引いた。

一気に千切れる、はずが。
裂けていた箇所が広がることもまるでなく。
防刃繊維の強靭性を少々テストしただけに終わった。

不本意な結果に、ハルは唸る。
どうも体勢が悪い。
ちゃんと身体を起こして両腕を使えば、
傷の入ったケブラーだ、破くことも出来るだろう。
と、難しい顔で思案しながら、まだ諦めずに端を引っ張ってみていると。
それが何に思えたのか、

「遊ぶな」

声は静かに落ちてきた。
久し振りに素顔を見せた友人が、月夜のように微笑っていた。








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ストッキングを破く要領。

ケブラー、かどうかは知らぬ。
良くビリビリになってる印象の蝙蝠コスチューム。
普通に考えて、胸部なんかはプレート入ってるだろうけど、
四肢をガチガチにしたら動けないんで、そっちは防刃防弾つっても
完全に止めるんでなく、緩和する程度じゃないかと。
でも、書く人によって面白機能満載ですよね、蝙蝠スーツ。 そゆとこ楽し。
あのグローブ、銃弾弾いてる時あるぜ。 何で出来てんだ……。
















47.籠の中




正しい時を刻む歯車が、ブルースの心臓を動かしている。
その歯車は特別に調律され、真夜の狂気も、真昼の憂鬱も、彼の時計を狂わすことはない。
拍動は、幾億年の無明を貫くパルサーのように。
常に一定である。


しかし、薄暮の部屋。
新聞で目隠しされた窓を夕日は暗く透かし、
すぐそこを高架鉄道が通り過ぎるたび部屋ごと揺れた。
夜はもう、あちらの片隅に。 誰も招き入れてはいないのに。

時間だ。

音のない吐息一つ、ブルースは低声で告げる。
じきに彼は身支度を終え、一瞥もせず部屋を後にする。
その手や、唇や。
ふれあわせた肌の、記憶など。
夜闇の淵に沈み、二度と浮かび上がることはない。



仄かにのこる黄昏に、爪先は石へとかわっていき
けれど、終わりの吐息の後
秒針がカチリと動くまでの、わずかな、果てしないような真空を
かれは目をつむり、そっと耳をかたむける
胸骨の内、死に物狂いの小鳩がいる。










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ぼっさまは御友人のことを結構好いてなさるといいです。
クルッポー














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