たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×42
だいたいどのあたり :昔々のジャスティスリーグ。
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。 セフレがいいとこな二人です。





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42.12月29日

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「ふぅん、彼氏がいっぱいでうらやましーネー」

世にクリスマスは種々様々。
聖なる夜を大切な人と過ごす者もいれば、
地球から遠く遠く離れた闇空の下、たった一人の自分にふと気づいたりもする。
はたまた、とある街では。
良い子にはサンタクロースがプレゼントをくれるが、
悪い大人のもとには黒衣の聖人が現れて、キチガイだらけの精神病院に連れていくのだとか。

ハルの声に、ブルースは
ゆるゆると持ち上げる片方の目蓋。
葉擦れの音でも聞いたような、寂寞の色。
そして また

「寝んな。起きろ」

と、度々ハルは、友人に声をかける。
浴槽の縁にもたれかけた頭は、うつらうつら
湯の方へと着実に。

バスルームは、人の安らぎのために設計されるものだ。
外界の騒々しさを遮断し、空間は、ゆったりしたものでなければならない。
そして装飾は優美に、繊細に。
白と深草のアラベスク。
器には温室の花々。
窓側に置かれた古雅な円卓で、ハルは悠々、寛いでいる。

セクター2814の範囲内で、というよりも、無数の星々が煌めく宇宙において。
クリスマスとは、その中に存在するたった一つの惑星の文化的事象に過ぎず、
そんなものなどすっかり忘れていたグリーンランタンは、
つい先刻、自分の星に戻ってきた。

(どこか、雪を見に)
(行きたい。)

赤い苺に、砂糖菓子の天使。
クリスマス(少し遅れの)ケーキを、ハルがありがたく頬張っているのは、
紅茶と同様、有能な執事のおかげだ。
屋敷の主の方は、客などそこにいるのかいないのか。
ハルがウェイン邸を訪問する随分前からこの有様らしく、
連日のシャンパンとキスの応酬に疲れた、怠惰な午後のように。

しかし、この大富豪は少々変わり者で、
遊蕩家という評判に反し、極めて厳格。
酒も煙草も嗜まず、没頭するものといえば“狩り”ぐらい。
ただし、獲物を仕留めるためなら手段を選ばず、何日でも平気で行方をくらませる。
今年もあと僅か、という今日の昼過ぎようやく屋敷に戻ったが、
いったい誰に躾けられたのか、行儀悪く脱ぎ散らかした後は、
浴槽の外に出ることなく、まだ食事も取っていない。
と、彼をここまで育てた執事は語る。

窓の外は、一面の白。
眼下に広がる庭園も、周りを囲む豊かな木立も、きらきらと光眩く。
蒼く冴え渡る空は、この一日だけの。

最後の一口を、ハルは食べてしまった。
皿に残った、お菓子の人形。
ハルは席を立つと、大股に部屋を横切り、眠れるバスタブの友人のもとへ。

「ブルース」

微かに首だけを傾け、
聞こえていると言いたげな、その口許に、
ハルはずいっと突き付ける。

「あーん。」

気怠く開いた眼は、ハルの手に小さな天使が微笑んでいると知ると、
表情もなく彼を見返す。
そして、口をあけた。

されるまま、噛み砕き、咀嚼し、飲み込む。
砂糖菓子は優しく形を失い、雪のように消えていく。
やがて、吐息が一つ、溶けた。

「……何の用だ」

じろりとハルを睨む、極天の凍える藍色。
おそらくは、本日初めての、明瞭な物言いを。
ハルは笑う。

「せっかくだから、慈善家の大富豪からプレゼントでも徴収してやろうと思って」

(雪、と考え)
(どうせ、クリスマスも何も関係ないだろうと。)
(仕事バカの無愛想が、まず浮かんだ。)

12月25日、ゴッサム中の孤児院の子供達は、クリスマスツリーの下に、
ブルース・ウェインからのプレゼントの山を見つけ、喜んだ。
同じ日、大富豪のガールフレンド達には、薔薇の花束が届けられた。
けれど、彼自身の姿をメディアは捉えることが出来ず、
記事は結局、彼と一緒に過ごしているのはどんな女性か、空想と推理を取り違えた。

真実は。
その瞳の、冷徹と思慮。
悪徳の都が畏怖し、跪く、絶対君主の眼差し。

「お前が運転しろ」
「了解」










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この後は街でお買い物。
実際のところ、おハルさんが買ってもらうのは弟夫婦とその子供達への新年明けましてぷれぜんと。
ぼっさまはアルフレッドに何か選ぶといいよ。
二人して街をうろうろしてても、あら仲の良いゲイカップルね、としか周りに思われない。
本当に知ってる人じゃないと大富豪だと分からないけれど、そういう人達は単に、お友達と仲が良いね、としか思わない。
完璧なカモフラージュではないか。

ウェイン邸のバスルームは広いというか、バスルームじゃありません、既に。
考えると確かに、シャワーだけ別に仕切るとすると、空間の自由度増すよ。
アルフレッドは客をバスルームに通したりしません。
客の方が勝手に茶菓子と一緒に移動したんです。

ぼっさまは彼氏全員をアーカムにぶちこんで御満悦。
彼氏が多数を占めるけれど、彼女も多いよ。

タイトルは、この日にアップしたかったという管理人の願いでした。







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