たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×39-41
だいたいどのあたり :昔々のジャスティスリーグ。
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。 セフレがいいとこな二人です。





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39.暗くて深い河の話

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女を殴る男はクズである、とハルは考える。
たしかに、生命体の在り様は複雑多彩だ。
雌雄のないものもあれば、そんな区別を設けること自体、非合理だとする文化もある。
しかし、地球という惑星において、クズはクズだ。
よって、他に選択肢がない状況に陥った場合、
ハルは、殴られる方を選ぶ。

アイリーン。
綺麗なブロンドも、ちょっと気の強いところも全部、ハル好みだった。
けれども、ハルは知らなかった。
彼女は高校生の時にキックボクシングを始め、今もジムに通っている。
その右ストレートは、教本のような正しさ。





「それは、殴られて当然だろう」
「おまえ俺の話のドコ聞いてんだ」

ウォッチタワーのキッチンの。
おやつコーナーに置かれていた、色の変わり始めたバナナを。
牛乳とアイス、蜂蜜にシナモン、適当にいっしょにミキサー。
二つのコップに注いで。
どん。

「俺は、二股なんかしてない」

ダークナイトは、エスプレッソにしようとキッチンを訪れたのだが、
どんと自分の前に置かれたそれに、むむむとむつかしい顔をし。
けれど、やはり言葉にはせず一口含んで、「甘い。」

「一般に、特定の女性と付き合っている状態で、別の女性とも肉体関係を持つ場合、
 二股をかける、という表現に充分適合すると思うが」
「違う。 俺は別に両方とも上手いコトやろうとかそんなことは考えてなかったし、
 だいたい、ンな器用なこと出来ねーよ。 俺、誠実な奴だから」

ハルは、正直でありたいと思う。
女達は大抵、ハルに優しい。ハルを慰めてくれる。
だからハルは、女性というものが好きだ。
彼女達と共に過ごす、その一瞬を、真摯に愛してると言える。

「けど、バーで知り合って一緒に飲んで、そのままベッドまで一緒で、
 朝になったらお互い綺麗さっぱりサヨナラなんて、良くあるだろ?
 その相手がたまたま、彼女の友達だっただけだ」

二人が知り合いでなかったら、今日の右ストレートは無かっただろう。
(正直なところ、何故殴られたのかは良く分からない。)
けれど、彼女を傷つけるつもりなど、なかった。

ブルースは一言、ほう と。否定も肯定もせず。
それよりも、やっぱりコーヒーが欲しいなあと思っていた。

「……で?」
「で、とは」
「ウェインさんは、どうよ最近」
「さあ、良く知らないが、恋人の一人に捨てられて傷心らしい」
「ウソ、なんで」
「心当たりはなくはないが……、ある日突然、あなたには人の心がないと、告げられた」
「あー、それも言われた時あるなー」








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男と女の間には。

ぼっさまの恋人の数もきりがない。

















40.性癖

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良い男が台無しだ。

といって、これが初めてではないし、
泣かれるよりは、よけずに殴られた方が、ずっとマシだ。
けれど。
誰が見てもはっきり分かるくらい、腫れ上がった痕が
この友人は、お気に召したらしい

何も言わないし
どんな顔してるかも知らないが
キスしてるんだ。
口実も嘘もなく
ただ、好きなように

じんと沁みるような痛みは
薄情な唇がついばんで遊ぶから

「おまえ、人の不幸を、楽しんでるだろ」
「そんなことはない」

表情の変わらない仮面は
永遠に凍える夜闇のような
けれど唇は、淡い朱色の弧
囁くように甘い、嗜虐の色

その唇に、教えたい
傷ついた友人を、どう優しく慰めるべきか
噛んで含めなければ分からない、蝙蝠なので






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41.ポッキーゲーム

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一人でいるなら、物事はいつもシンプルだ。

音速を軽く超え、機体の限界も超えた果ての。
鳴り止まない警告音と、目障りな赤い点滅にがなり立てながら。
終わりのない青天の、ただ青の世界を。
空飛ぶ棺桶の中、笑うにしても。
あるいは。
爆縮した恒星から吹き荒れる衝撃波の嵐を泳ぎながら、
狙い澄ましたように、リングがチャージ切れを告げる時も。

しくじれば、死ぬだけだ。
ハルが博打できるのは、いつだって自分の命ぐらいで
失って惜しいものなど無い。



だから、今。
ハルは天を睨む。
三千万年前に文明が消失した人工惑星の、
かつての威容を物語る大聖堂の傾いだ陰。
その一瞬の表情を、バットマンが知ることはない。
千切れかけた自分の脚を、針と糸で縫い合わせている途中なので。

一人なら、逃れられるものも
何かを庇おうとすれば。

動脈の裂け目から噴き出し続ける血は、鮮やかな赤。
心臓から送り出されては無為に流れ落ちる。

そして、冷血の定評あるダークナイトは、正しい結論を下す。
縫合に必要な器材だけを、グリーンランタンに求め、
あとは一人で行けと。

三千万年前の負の遺産を、今、止めなければ。
増殖する無数のブラックホールが、銀河そのものを虚無へと飲み込む。

だから、ハルは行く。
汚泥のような悪意の這い回る地に、飛べない蝙蝠を置いて。



彼は、探偵であると同時に比類なき戦略家であり、
その眼は常に“終わり”までを視ていた。
しかし、精神と思考は。
幾重に織りなしては、ただ彼一人知るばかりの、綾。
光から紡がれた、細くしなやかな糸で、
自身の腿の、血管と血管とを縫い合わせながら。

アルフレッドなら、とブルースは考える。

修復の手際の悪さに、眉を顰めるだろう。
そして、他人の身体を任されたのでなくて 良かった、とも思う。
ブルースは、父親のようにはなれない。

「……ハル」

まだそこにある、背中。
やがて断ち切り、黒雲の中に飛び立つ。



「ハル」

名前を呼ばれ、グリーンランタンは無言で振り返る。
その顔を一瞥もしないバットマンは、麻酔のない滑らかな糸繰り。

「手が塞がっている」
「あ?」
「私のベルトだ。 左の三つ目」

悪名高いユーティリティベルト。
いつものガジェットから、本人以外触れるべきでない得体の知れない物も装備されているが、
ハルの開けた、三つ目のコンパートメントは。

「ポッキー?」
「お前にやる」
「なんで、」
「好きだろう、そういう子供の菓子が。
 何の日と言ったか忘れたが、ロビンにもらった」

そして、脳の活動と糖の摂取から軍用チョコレートの推移まで、滔々と。
虚も実も飲み込ませるペテン師の口上、呆れるほど流暢に。
(語ることは語るまいとする技法の一つである。)
ハルは。
左から右へ聞き流し、笑った。
けれども黙って封を破き、指先で一本取り上げる、今日のおやつ。
別に、子供の菓子が好きなのではない。

「ブルース」

チョコレートの先で。
友人の唇をなぞる。
夜闇の怪物の仮面の
沈黙は、まるで戯事を微笑うように
ちらりと赤い舌を覗かせ、先端を柔らかく食む。
その反対側を、ハルに。

僅かばかりの距離が失せるまで
二人、互いを待つこともなく
たわいなく唇は唇と遊ぶ



あとはただ、光の一条。











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今生の別れ。

という、プレイでちた。

自分で自分の腿を縫うってエロいよね。
書き始めたのが11月11日だったので。











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