たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×36-38
だいたいどのあたり :昔々のジャスティスリーグ。
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。 セフレがいいとこな二人です。





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36.おでん

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コンビニおでんを
ことこと煮込む、片手鍋。
大根、こんにゃく、しらたき、玉子。
厚揚げ、ごぼう巻、焼きちくわ、がんも。
バットマンは、鍋の中に温度計を入れ、
ちょうどよい温度をさぐる。
ことこと、ことこと。
熱々おでん。

そのうち、彼は火をとめる。

左の手には片手鍋。
右の手に、箸一膳。

キッチンを出、廊下を歩き、ミーティングルームへ。
そこで彼はクリプトニアンに出会った。

「どうしたの?ブルース。 え? 食べていいの? ありがとう!」

あーんと嬉しそうに開ける口に、
彼は、餅入り巾着を入れてやる。
すると、においに釣られたのか、
通りすがりのグリーンランタンが足を止めた。

「何うまそーなの食ってんの? 俺もチョーダイ?」

そう言って、あーと開いた口の中。
彼が素早く放り込む、熱々おでん。





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「ブルース」

コーヒーを手にモニタールームへ行こうとしたバットマンは、
途中で声をかけられ、立ち止まった。
ミーティングルームにいたグリーンアローが、なにか難しい顔で手招きしている。

「ちょっとそこ座れ」

別段断る理由もなく、彼は友人の隣に座った。

「……おまえなあ、何があったか知らないが、あんまりハルのこといじめんな」
「何のことだ?」
「誰だって泣くだろ、沸騰したおでん食わされたら」
「お前のチリでもハルは泣くぞ」
「あれは感動の涙だろうが」

肯定も否定もせず、バットマンは静かにマグを口許へ。

「別に、いじめてない」
「おい」
「いじめては、いない。
 私に悪意があれば、最初から毒物を用いている。
 私が計測しようとしたのは、身体内に侵入した異物に対するパワーリングの防御機構だ」
「おま、」
「それが全くの無反応だったのは、些か予想外だったが」

まるで、ラットを使った実験の結果を説明するようだったと、
後にグリーンアローは語る。

「しかし、標準以上の熱さを感じた時点で吐き出せばいいものを、
 そのまま最後まで食べたのは、あれの意志だ。
 ああ、そうか……だからリングが反応しなかった。
 次回はその点に留意しよう」
「次回、あるのか」
「さて、そろそろ時間だ。 他に用件がないのならこれで失礼する」

あらゆる夜闇の
奥底が静けさを孕むように
立ち去った、その
冗談を口にしない友人の、後ろ姿に一言。

「次は、殺る気だな」











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れっきとした、いじめです。
凶器はおそらくがんも。
大根は外側も熱いから警戒するけど、
がんもの場合、噛んだ後に予期せず沸騰汁が口内を襲うよ。
その衝撃たるや、まるで世界に裏切られたかの如く。

しかし、だから泣いたわけじゃないのです。
でなく、その後いい感じに食べやすくなったおでんを、みんながきゃっきゃっ食べてるのに、
自分だけ口の中を火傷しちゃったから混ざれないし、喋るとうまくいかないし。
しょんぼり。

うわぁ、ちょうかわいそう。
いじめ良くない!
おでん食いたい。
















37.ムービーナイト

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うたたねの、ぬるい水のなか
まばたき。
あたまのなかが、しいんとしずまりかえっている。
ジジジ
この音は
頭のうえで鳴く、ふるい蛍光灯

くしゅん。

途端に人格はきゅるりと回転し、
ブルースは、一つ瞬きする。
どのくらいの間、ぼんやりしていたのか。
10分か、それとも一時間か。
判然とせず、あくび。
伸びをすると、小さな浴槽から身体を起こす。


昼間、片手間に直した冷蔵庫は
水のボトルばかり七、八本並んで、
あとは、水蜜桃のカンヅメ一つ。

まだ濡れている頭を、なおざりにタオルで掻き回す。


季節のせいか、テレビでは、懐かしいホラー映画。
カウチのハルの隣に、ブルースは座る。
秋の夜長、桃は月の形をして、器の中。

ひとつ、フォークで食べる。
ふたつめは、隣から無言で手が伸びる。
器の桃は、ひとつずつ食べられながら、
二人の間を行ったり来たり。
そして、最後のひとつ。
ハルは、やっぱり何も言わず。
フォークでふたつに割った。
ぱくっと食べて、あとはブルース。

ブルースは。
半片の果実の、しっとりした断面を
思いがけない目で見下ろし。
それから、ハルの横顔をながめ、
すこし、むつかしい顔をした。
けれど、言葉にはせず、ぱくり。
ハルの隣で、至極つまらなそうに、テレビの画面を見やる。

どこにでもあるような町だ。
住宅地は正確に区分けされ、
どの家も、同じ大きさの敷地と、芝生の庭。
家々にカボチャの灯りがともる。
お菓子が欲しくて子供たちは仮装する。
惨劇は、月光のように。

「……これはどういう映画だ」
「んー? ブギーマンがベビーシッターを殺しに来る話」
「なぜ」
「2になると分かるけど、まだ1だから教えない」

クローゼットの中のローリー・ストロード。
君の悲鳴は、時代を超えて、人々を魅了するだろう。

けれど、ブルースは。
余所を向いて

ぷしゅん。




「……今の、くしゃみ?」












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兄弟持ちと一人っ子。
たまに気まぐれに世話を焼く。 焼いてほしいなんて一言も言ってないんですけど、
と口に出すのもめんどくさい。

ローリーは名作『ハロウィン』の1、2の主人公の名前。
この晩の番組編成は、オリジナルの1・2に続けてロブ・ゾンビ版の1・2もぶっ続け放送とか。
そんなに見てられないよ! と思いつつ、テレビの前から動けない秋の夜長。

ぼっさまは基本的に、にゃんこのように静かに生きている。













38.はいてます。

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翌朝、ブラックキャナリーは
友人の眠るベッドのシーツを勢い良くめくった。

「おはよう」

片目だけじんわり明けて、ハルは眩しそうに彼女を見上げた。

「……俺、さっき 寝たばかりなんだけど」
「そう?」

それがどうしたさっさと起きろ。
と、拳で語る系美女が微笑んでいる。

「ていうかおまえ今パンツはいてるか確認しただろ。セクハラやめてください」

思い出される過去の数々。
ダイナは、しかし、赤い唇を吊り上げて、
事件を取り巻く状況が変化したことを伝える。

「昨日誰かさんに脅されたのが、よほど怖かったみたい。
 あっさり今までの証言を覆して、事件に関わった人間を教えるかわりに
 スペシャリストによる保護を求めたいんだって。
 12時間以内に心変わりするって言ったの、当たったわ。
 ブルースは?」
「こいつ、夜まで起きないと思うぞ」

夜行性だし、という言葉のとおり、
ハルのいなくなったベッドの片側、
一人でシーツを独占し、繭のように静か。

「ふぅん、そこにいるの、ブルースだったの。
 仲良いのね、あなた達」

そのシーツの端をつまんで、チラッ。

「だからパンツはいてるか確認するのやめてください」








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コミックはもっと男子のパンツにも気をつかうべき。
ダイナちゃんはいい女。








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