たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×27-29
だいたいどのあたり :昔々のジャスティスリーグ。
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。 セフレがいいとこな二人です。
ちゅうい :腐女子向けだよ。




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27.スカートめくり


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この1時間、ひたすら何をやってるのかと言えば、
階段を上っている。
ひたすら、
延々、
捻じ曲がっては果てのないような階段を。

少し先を行く真っ黒の蝙蝠が言うには、
この階段だけが、"通常の"物理法則が生き残った範囲で、
毒々しい紫の空や、上や下に浮かんでは消えていく、臓物に似た得体の知れない影は、
見た目どおり、異常らしい。

チャージの切れそうなリングは、温存して。
足でひたすら、階段を上がる。 上がる。 上がる。

飽きた。

すると、前にいる黒い奴が振り返って、鼻で嘲笑った。
ちょっと待て誰も疲れたなんて言ってねェだろGLの体力なめんなコラ。
ふと見ると、真っ黒いケープの裾。
長い。
なんでコイツ自分の踏んづけないんだろ、と思うぐらい、長い。
それが、階段を上がるたび、するする 一緒に動いて。
なんとなく、むずむず する。
から、
その裾を引っ掴んで、がばっとめくり上げてやった。
すると。
予想に反し、普通に、腰のあたりまで、見えた。
子猫なんかもいなかった。
ぴたっと立ち止まったバットマンが、ぎぎぎと振り返る。

「同じことを、今週二度もグリーンアローにされ、臓物が煮えくり返るほど不愉快なんだが……
 示し合わせているのか、貴様等」
「ハァ? あいつと同じ発想とか何の冗談、つか、おまえセクハラされ放題だなー ハハハ」


はっ。









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鉄拳制裁。

予想と子猫って似てる。
でも日によっては迷子の子犬を保護しててもいい。
もちろん、ロビンだって一人や二人ぐらい余裕収納。 そんな蝙蝠様のケープ内ワンダーワールド。
結婚式の新婦ぐらい長くてもいい。
たまに自分の指で抑えたりしてるのが、楚々としてるね。
めくりたい!













28.チャウチャウちゃうんちゃう


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日の暮れかかりの帰り道、吐く息は白く。
今晩あたり、本当に雪かもしれない。
そんな日なら、何か事件でも起きない限り、バーに行ってるはずが。
気付くと、ハルはアパートの階段を上がっていた。
理由は特にない。
けれど、鍵の壊れたままのドアを開け、中に入ると。
ブルースが、カウチで眠っていた。
これか、と
なんとなく思った。

来ると言って来るような奴ではないし、
仕事絡みで顔を合せることの方がずっと多いが、
たまに、いる。

キッチンでやかんを火にかけて、
コーヒーサーバーにドリッパーを置く。
そんなことをしながら、ちょっと覗いてみると、
ぼーっとした顔で、ブルースが目を覚ましていた。
ブルースは、寝起きが、悪い。
すごく悪い。
普段、何日も寝ずにいるのは、一度眠ると、寝起きがゾンビ並にどんくさいからだ。
少なくとも、ハルはそう思う。
でも、ミルぐらいは挽けるかと、顔を見に行くと、
見慣れないブランケットにくるまって、ゆっくり、ブルースの視線が動く。

「うん?」

何か、言いたそうで。
ハルは少し屈むように友人の顔を覗きこんだ。
うっかりすると、微睡みの中に戻りそうなブルースは、
何も言わず、ただ片腕を緩慢に、ブランケットから少し持ち上げる。
長い指が、微かに呼んだ。
ハルは、カウチに膝を乗り上げて、
また目蓋を閉じたブルースの額に、キスをする。
子供をあやすのと同じだ。
ハルは時々、そう感じる。
なにか下でもぞもぞしてると思っていると、
そのうち、ブランケットからようやく出てきた両腕が、ハルの背中に回る。
いつもよりも、ずっと不器用で、
だから なにか、真剣で。
ハルは笑った。
盲目の手探りは、そのまま背中をたどり、うなじへ。
ハルの髪を指で柔らかく梳きながら、呟いた。

「……チャウチャウだな」
「おまえ、なんか失敬なこと考えてるだろ」








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おハルさん。
コーヒーは出かける前より、帰ってきた後にぼーっとしながら淹れる派。
ペーパードリップ。















29.ごめんなさい


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喪服の少年は
窓際に立ち、灰色の空を見上げている
冬空は雪の匂い
陰影の暗くおぼろな季節
物象を満たす玻璃のような孤独
サイレント映画は、カメラを静かに近づけ
少年の後ろには、初老の男性が控えている

 "アルフレッド "

音楽は途絶えたまま
少年の瞳は陰影の底

 "僕は、犬なんか 欲しくない "








そこで 夢は終わった。
夢だったと気付いたのは、目を覚ました後だ。
けれども。
どこなのか思い出せない部屋の、日暮れの天井を見上げながら、
ブルースは、それがいったい何の夢だったのか、忘れてしまった。
ぼんやりと、ただ、目を明けて。
その理由すら見失った哀切の、僅かばかりの残滓。
心象を満たす、無音の

「おい、生きてるか」

あるいは、その一瞬もまた、夢の続きだったのかもしれない。
唐突に聞こえた声に、ブルースはそんなことを思った。
視界をハルが覗き込む。
ものを答えるのが、億劫だった。
言葉にならないものは、ならないのだ。
目を、閉じる。
漠とした寂寥は、
いつのまにか忘れ果てるのだろう。
見知らぬ誰かのふりをして、両腕をハルの背中に回した。
ただ束の間の、人恋しさは、
訳のあるものでもない。

ふと、
幼い頃の小さな嘘を、何の拍子か思い出す。
今同様、益にもならない我を通そうとしていた。

「……チャウチャウだな」

あのクリスマス
私は本当は、子犬がほしかった。












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ていうかなんでチャウチャウ。

前のお話の、ぼっさま視点です。
ワンコ好きだけど、実際に飼ったのはディックがお家に来てからやっと、ぐらいでいい。






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