たいとる : 『昔々ある所に、性格の複雑に屈折したダークナイトと、やることがちょっと大博打なグリーンランタンがおりまして』
ながさ :短い×20-22
だいたいどのあたり :昔々のジャスティスリーグ。
どんなおはなし :GL/蝙蝠小ネタ集。 セフレがいいとこな二人です。
ちゅうい :腐女子向けだよ。 21は下半身のお話なので良い子の15歳以下は見ちゃいやん。




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20.性質

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「壊れてるな」
「だからアイスは買わないって言ったろ?」


こぢんまりした、どこか懐かしい白の冷蔵庫は。
アパートが建てられた年に製造されたもので、
ハルが二度目にドアを開けた時、その長い勤めを終えていたという。
空っぽの冷蔵庫のドアを ぱたんと閉じ、ブルースは肩越しにハルを一瞥した。

「先程も、私はアイスが食べたいなどとは一言も言わなかったはずだが」
「でもおまえ、酒飲めないだろ」
「飲まないんだ」
「ふーん?」

軽く流した返事に、ブルースは片眉を僅かに上げたが、
何も言わず、荷物を抱えたハルに場所を譲った。
キッチンは決して広くない。

「……言うほど困ってはいないな。 ビールと水だけ置いておくには丁度良い」
「おまえなー、自分んちの冷蔵庫ん中と比べんなよ」
「一般的な見解だ」

ブルースは腕組みして壁に背を凭れる。
ぐるり視線を巡らせば、日に褪せた壁紙と、冷蔵庫と同じく型の古いコンロ。
シンクは使っているとも思えない。

「いつからここに?」
「んー、今月の初めぐらいか」

袋から出したビールを適当に仕舞いながらハルは答える。
もともと料理はしないし、寝る場所になるなら住む家に頓着する性質でもない。
家に置いておくものといえば、あれかそれか。
キッチンにあるのが"元"冷蔵庫で、たしかに不自由はない。
ぱたん、と。
一缶だけ残してドアを閉める。
顔を上げたハルは、見下ろす藍色の視線と目が合った。
白茶けた壁を背にする、そのダークカラーのスーツ一着で、安アパートの家賃何年分かになる。
それをごく自然に着こなしながら、しかし、ブルースは、
まるで面白くもなさそうにハルを眺めている。

「何だ?」
「大したことはない。 どうせこの部屋にも長くはいないなと思っただけだ」

ハルは片頬で笑い、立ち上がる。

「街から街へ流れ流れて、の暮らしも気楽で、意外と悪かァないもんだ」

パキ、とプルタブは軽い音。
飲まないと言った友人の前、喉を鳴らして嚥下する昼下がり。
ブルースは僅かにも表情を動かさない。

蒼天の、深さも知らぬ遥か。
無限を超え広がりゆく暗黒に。
光はいったいどれほど眩めいているのか。
昔々、小さな星の地面に暮らす生き物は、宇宙の真理を究めようと、
夜空に振り撒かれた星屑を一粒一粒数えては、短い一生を終えた。
目眩するような那由他の綺羅星 セクター2814
ある日、ハルはコーストシティに帰らず、
そしてそのまま戻らない。

「お前のような我の強い跳ねっ返り、パイロットとして引き取るのはフェリス航空ぐらいだ」
「あそこの社長は人を見る目があるからな」
「残念なのは、彼女のその目が報われなかったことだが」

ハルはただ軽く肩をすくめる。

「具体的に言うなら、気侭に空を飛ぶことしか能が無いということすら自分で気づかないような
 莫迦な男を雇用したことが、全く彼女にとっては災難だった」

また一口含んで唇の端が、にっと。

「それ、キャロルはもっと優しく言ったぞ?
 『あなたがどこで野垂れ死にしても、私の知ったことじゃないわ』」
「清々しい意見だ」
「最高の女だろ」
「お前は碌で無しだがな」

言い切るその無表情の、仕立ての良いスーツとシャツと、首筋と。
片目を眇めてハルはビールを喉に流し込む。

「少なくとも、地上でぶらついている限りは」

カチンと、白い冷蔵庫の上。
空になったアルミ缶を直立させ、ハルはその手を壁についた。
叩くような右手は、ブルースの顔のすぐわきに。
藍色の瞳はじろりと無言で睨み、胸の前で組んだ両腕を崩さない。

「ろくでなし?」
「違うか」
「いや、だいたいそんなもんだから腹が立つ」

むすっとした声で答えたハルは、次の瞬間
いきなりブルースの顔を引き寄せ、唇を奪っている。
拒まれるとは端から考えてないし、その必要もない。
互いのそれを、互いの熱で貪り合いながら、
視線は正面からぶつかる。

「……どうせなら、もっと色気のある言葉で口説かれたいね」
「口説かれて人の話を聞くような可愛げのある人間か、お前は」
「あれ。 てっきりウェインエンタープライズがテストパイロットでも探してるのかと思った」
「生憎、既に我が社には優秀な人材が揃っている」
「ふぅん?」

ハルは両の掌でブルースの頬を包み、ゆるやかに睫毛を揺らす瞳を覗き込む。
そして、思案でもするような顔で、言った。

「その、たっかい給料もらってる連中、もちろん俺より腕は確かなんだろ?」

答えは、ブルースが眉間深く刻んだ、剣呑な。

「だからお前は碌で無しだと言うんだ」

吐き捨てるような言葉に、ハルはもう我慢出来なくなり、笑った。
その襟首をブルースがぞんざいに掴み、二人の位置をぐるりと入れ替えた拍子、
ハルは頭を壁に勢い良くぶつけたが、それでまた笑ってしまうのだから、仕方ない。

動かない冷蔵庫も、寝られれば良いだけの安アパートも。
ここがどこで、今がいつで、明日はどうなっているか。
全てが下らない意地か、そうでないのか。
まるで関係ない。
ただ、今目の前にいるのがブルースで、
しかも、とびきり苛立っているという "事実"が、無性に 楽しい。


そいつが、食い千切りそうなキスで人を黙らせるんだから、なおさら。
















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ぼっさまは乗り物好き系男子なので、パイロットのほうがお好きだそうです。
キャロル云々のあたりは妄想ですよ。
お春さんて、ふと目を離すとGL以外で何やってるか分かんないよねーという。


で、この後こうなった↓↓













21.ご立腹です。


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試されているのは、気力と体力と、精神力。
集中する。
宇宙最強の武器を任された者は、如何なる脅威を前にしても、決して屈してはならない。
たとえ、普段愛想なんか欠片も無い友人が、目の前で膝をついて、
露骨に卑猥な水音をさせて人のナニをしゃぶっていても。



初めは、ただラッキーだと思った。
プレイボーイの "ブルース・ウェイン"がどうかは知らないが、
少なくともブルースは、堅い時はもう坊さん並に堅い。
節制というか禁欲的というか、とにかくあれもダメこれもダメ。
うっかりキスしただけで、ブリザードみたいな声で地獄に落ちろと言われる。
何でそこまで言われなきゃならないかまるで分からない。

ただ、たまには、そうでもない日もあるけれど。
それは極々々稀な話だ。

そんな、常態として厳格方正、
お利口さんな頭ん中の99.9%がクライムファイトのために費やされているような友人が、
今日はやけに 情熱的で。
自分の服を脱ぐ間も惜しいみたいに人のを引っ張り出して、口でやり始めたんだから。
それでその気にならない奴は、バカか阿呆か勃たないカワイソーな奴かと真剣に同情する。

と、思ったのは。
あと少しってところで、こいつが ちゅるんと唇を離すまでで。

そこまでいって途中で止められるのがどんなに遣る瀬無いか、絶対に知ってるくせに。
ああくたびれた、と言いたげな溜め息をついて、それだけ。
こっちは溜め息どころじゃない。
弾みで暴発してその顔にぶっかけなかっただけでもありがたく思え、バカ野郎。
文句が出るのは当然で、
けれど、相手は涼しい顔で聞き流すと、何も言わない瞳が、じっと上目遣いに。
口から出かけた言葉は、どこかに消えた。
ただ胸の奥の鼓動が熱く、速く。
反り返って静まる気配のまるでないペニスを、ブルースがもう一度掴んで、
赤く濡れた舌を伸ばし、裏筋をねっとり舐め上げていく。

そんなコトされてまだガタガタ言う奴は(略。
普段が普段な分、視覚の威力だけで腰にクる。
おまけに、どこで仕込んだのか元々器用なせいか、イイとこを緩急つけて攻めてくる。
舐めてしゃぶってくわえて、追い詰めるだけ追い詰めて。
出るっと思った瞬間、またそこであっさりブルースは離れる。

だから、これは、恐ろしく性質の悪いゲームだ。

思わず、呻く。
荒い息で言葉を繋げてもブルースは全く聞かず、
人の大事な大事な器官で ちゅぱちゅぱ遊ぶのに夢中で。
そうやって煽るだけ煽った挙句、平気な顔でおあずけ食らわす。
どれだけ底意地が悪いんだか分からない。
なのに、今日のブルースは信じられないくらい、エロい。
顰めた眉も、熱の絡んだ吐息も。

焦れて腰を突き入れようとすると、その前に察して頭を退かれるし、
ネクタイ一つ解いてない姿をどうにかしてやろうと腕を伸ばせば、パシっと弾かれる。
勃起しっぱなしのナニがそろそろ全力でつらい。
だいたいそいつはデリケートに出来てるんだ。
本能の方に忠実で、誘惑に弱く、ちょっと形勢が悪くなるとすぐに降参したがる。
本気で、頭に来る。

だから、奥歯を噛み締めて。
余裕ぶってその黒髪を撫でる。

しなやかなそれに指を絡め、乱して、
ゆっくりと うなじへ。
ブルースは、何も言わない。
耳の辺りをくすぐって、頬へ下りると、
目を細くして、掌にちゅっと唇を寄せてくる。

(今、無理にでもどうにかしない限り、こいつが飽きるまで嬲られる。)

艶やかに色づいた唇を中指でなぞれば、柔らかな舌が顔を出して、
大好きなオモチャでももらったみたいに、舐めて絡めて丁寧に弄ぶ。
それが、いつもの顰め面が嘘のように熱心で、いやらしくて。
心の中で、後で絶対泣かすと固く誓う。
最初にくわえられた時点で、たぶん負けた。

「……おまえ、実は 本当に、怒ってる?」

ブルースは、根元まで飲み込んでいた指を、ゆっくりと引き出しながら顔を上げ、
目蓋を持ち上げる、玲瓏の藍。

「いいや、全く」

濡れた唇が、弧を描いた。










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ご立腹です。
あと、ぼっさまは今日だけじゃなくいつもえろいよ。














22.行く年来る年


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星は雫、
細雪は流れ、
天上に祈る、鈴の音。


「おまっ、何いきなり人のコト蹴倒そうとしやがった! しかも頭ッ」
「……これ見よがしに緑色のバットシグナルが空に現れたので来てみれば、
 チキンを食べるのに夢中になっているグリーンランタンがいたので、
 クレイフェイスがまた詰まらないことを企てていると思った。
 まさか本人だとは知らなかった」
「それ、嘘だろ」
「嘘だ」
「ヨシ、正直だ。 殴らせろ」


--- しばらくお待ちください ---


「……で、ゴッサムに何の用だ」
「めりー・くりすます」
「…………ハル、貴様の正気が今以上に疑われる事態になったら、
 私は真っ先に知人であることも止めるからな」
「うるせー! 久し振りに地球に帰ってきたと思ったらクリスマスが過ぎてた俺の衝撃を考えろッ
 というわけで、クリスマスパーティーinウォッチタワー。 JLAは強制参加な」
「そんな予定はなかったと思うが」
「さっき顔出したらもう決まってたぞ。
 まあ実際は、『今年もこのまま"何も起こらずに"年を越せるはずがないんだから
 今のうちに食えるだけ食っちゃおうぜ会』、だな。
 でもこれ、ワーカーホリックのグループセラピーじゃないのか?
 場所がウォッチタワーなんて完全に"仕事"のこと考えてんだろ」
「そして、お前は子供のように我慢出来ず、一人でさっさとチキンを食べていたと」
「いいだろッ!? ずっとまともなモン食えなくてホントに腹減ってたんだよ!
 人間皆おまえみたいにいつも良いモン食ってる奴ばかりだと思うなッ
 昨日一日何食べたか言ってみろ!」
「……昨日? 覚えてない」
「お、珍しい。 おまえが何か忘れるなんて」
「ああ、食べてなかった」
「食え。バカ!食えッ」
「何故私は罵られているんだ?」
「もういいや。 行くぞ」
「待て」
「ん?」
「戻る」
「はァ?!」
「アルフレッドなら、腕を振るうと言うだろう」
「まさか、 おまえが そんな、クリスマススピリッツ……!」
「ついて来るのか来ないのか」
「行く!」

その前に一つ、忘れずに。
驚きと感動とを、希釈せず伝えるため
唇から唇へ。


「……ハル、前にも言ったが、お前のそれは 脈絡がない」
「そりゃあ おまえが鈍いせいだな」









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おなか空くとカリカリするね。
ぼっさまは、単に常人よりツン値が高いだけの時と、本当に鈍い時がある。

なんか前にもこんな話を作ったような気がする。
雪が消えてくるとようやく冬を惜しむ。
雪割草も咲きました、二月末日。









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