二月の終わり、ユーラシア大陸の黒土地帯に、流星が降った。
家路につく人々の宵空に、黄金の軌跡。
炎の流線は天空を裂き、大地へ。
彼等の集団農場に落下した。







 どこだろうか、赤子の声が
 孤児の泣いている声がする








農園は、大地が抉れ、
そこに突き刺さった影は、さて。
飛行機か、ミサイルか、ロケットか。
(そんなものを、どこかの国の科学者が)
(打ち上げようとして、騒ぎになった)
(あれは何年前の話だっただろう)
人工衛星の打ち上げも、人類の月到達も、まだまだ未来のことで。
宇宙は遥か茫漠とした真の闇。
星々だけが天上世界の彼方を知っていた。
しかし、"それ "は 前触れもなく闇を越え、地球に訪れた。







 父と、母を求め
 孤児が泣いている








そして月日は流れ、
誰もが忘れ得ぬ時がやって来る。
それが人類史の転換点だったと、誰もが認めざるを得ない時。

1953年、ヨシフ・スターリンが没し、
世界最大の共産主義国家が、若き最高指導者として新しく迎えたのは、
地球ではない星で産まれた青年だった。

遠い宇宙で、一つの星が消滅した。
その運命をたった一人脱した、最後の赤子を抱いた揺籃は、
流星となって地球に辿り着き、共産圏の集団農場の善良な夫婦が、赤子を見つけた。
夫婦は赤子を自分達の息子として慈しみ、育てた。
彼は、成長するにつれ、驚異的な能力を発現させるようになった。
それは人類を超越した力だ。

"神の奇跡 "と言っても良い。

助けを求める声で、彼に届かぬものは無く、
救いの手を差し伸べる彼にとって、一切の距離は無に帰す。
人類を大地に留める重力も枷とならず、太陽を背負い大空を飛翔する。
比類なき力を授かった者として、人々を一人でも多く助け、守るために。
ただそのためだけに。

彼にとって、それは全く特別なことではなかった。

そして、スターリン没後。
ソビエト社会主義共和国連邦の大統領として迎えられ、
同国最大の奉仕者となった。

彼は統治者であり、
正義と秩序そのものだった。

それから十数年を経た頃には、
彼の国は人類史に例を見ない版図になるまで成長した。
数多の人種、民族を内包しながら、社会には経済不安も階層差もない。
まさに、共産主義の理念、理想そのもののように、
人々は平等と平穏な生活を約束されていた。


にも関わらず。
やはり、地球という星は、否、人類は
一つになろうとしなかった。
















+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

次→


←もどる。