俺は一つ、息をついた。
「その日は俺の誕生日だったんだ」
おめでとう、と言うあの人の声。
思い出すと口の辺りがむずむずする。 顔が熱くなりそうだ。
あの後気が緩んだ俺は師匠の前でぼろぼろ泣いてしまったんだ。 格好つかない。
シチリアで修行していた頃の話を人にするのは、どうも照れ臭くて仕方がない。
「……後で師匠から聞かされたんだけど、
月の引力は人体にとって雀の涙程度で、直接人間に影響を与えるほどじゃないらしい。
ああ、『雀の涙』はほんの僅かなもののたとえなんだ。 どうしてあの人は妙なトコ日本的だったんだろ?」
今でも分からないことの方が多い。
もっと色んなことを話したかった。
聞いて、あの人が全てを話してくれたとは限らないけれど、
「でも、あの日俺が生きて返れたのは、きっと月のせいじゃない。
師匠が俺を呼んでたんだ」
どういう人間だったとしても、俺の師匠はあの人だ。
「俺を呼んでくれたのは、あの人の小宇宙だ」
自然、唇が緩む。 むずむずが消える。
こんなことになった今も笑うことが出来る。 あの人を思い出している。
それはきっと、幸せだったということだろう。
「おまえに分かるか」
" 否 "
「だろうな」
" 吾こそ吾。 吾に他はいらぬ。 吾はギガス。 だが、何故汝は笑う "
「おまえを哀れんでいるのさ、"deus ex machina"」
" 泡沫の如き者が神を哀れむか。 汝など時の繭が滞らせた朧な影 "
滞る時の監獄。
百年か。 千年か。 万年か。
或いは虚ろなる五十六億七千万年。
繭の中で魔神と共に眠る俺はもう、人ではないのかもしれないけれど。
「俺は、哀れだと言った、テュポン」
" 何? "
「永遠に虚ろなおまえが、俺に勝てると思うなよ」
思い出す。
覚えている、あの呼び声を。
いつか俺が盟でなくなったとしても、永久に忘れない。
微笑んだ盟を、魔神は空の双眸に湛えていた。
世界の全てを貪り喰ったとしても尚満たされ得ぬ飢餓は今、
死した人の子が紡ぐ糸に絡み絡められ、ほんの束の間、共に微睡む。
なかなか明けぬ夜に繭が夢見るのは、遠い日々の欠片。
" 盟 "
「ん?」
" 次は何の話だ "
「えー、まだ喋らす気ィ? いい加減満足して大人しく寝ろよ!
……ホント仕方ねェ神様。 一人じゃ眠れないんだもんなー?」
" 次だ "
「はいはい、終わったら今度はおまえの番だからな」
「じゃあ 次は……」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
お誕生日な盟ちゃんでした。
最初の方で師匠が月がどーとかこーとか言ってますけど、師匠は結構適当ぶちかますので、
あまり真剣に取らないで頂きたいです。
つか、ちっちゃい子に何させてんですかな師匠ですが、きっと魔鈴さんの方がすごかったと見た。
ギガントマキアの最後にある盟ちゃんとテュポンの遣り取りが好きです。
が、書いてみたら暴風神が甘えたさんに。 あれ?
盟ちゃんは師匠から、はったりと根拠ナシな余裕を仕込まれていればいいなあ。
←もどる。