あんまり子供が泣いているので
地獄の底では悪魔が二匹
算段をする。


「しかし、君の子供にしては随分と繊細じゃないか。 見たまえ、可愛いもんだ」
「あたしの産んだ子じゃないわ」
「君に似なくて良かった」
「そりゃ、まあ、ねえ?」


誰もいなくなった家で、ひとり
声を上げずに子供は泣く。
ぽろぽろぽろと



「ガキが」
「君を慕っている」
「ガキなんざほっといてもメシ食ってちゃんと寝れば勝手にデカくなんだよ。
メシ食わねェ奴は、アホだ」


もしも、呼ぶというのなら、その声は地獄に届く。
悪魔は耳を澄ましている。
嘆きは悪魔を招き寄せる。


「あのケツ蹴り上げに行ってやろうか」
「充分気にかけてるじゃないか」
「違いますー」


悲嘆の、怨嗟の、絶望の声に呼ばれて
悪魔は地上に現れる。


「見てな。 あいつ、そのうち キレる」


魂と引き替えに
悪魔は右手を差し伸べる。
望むなら
甘やかな声と
懐かしい姿を現して。


「ほら、ガキは家を飛び出すもんだ」


嚇怒の、熱情の、思慕の絶叫に答えて
悪魔の両手は差し出される。
望みどおり
抱えきれぬほどの愛を
溺れる魂に。


「あいつには もう、あそこは必要ない」


だから
悪魔に出会わぬよう
目をつむり、耳を塞ぎ、駆け続けねばならない。
闇夜から、暁の方角を目指し。
叫びは天を衝き、地を轟かせ
決して振り返らぬように。
駆けて。
駆け続けて。


「ちゃんとメシ食えよな……」




呼び声に応えて悪魔は現れる。
その時まで、悪魔は地獄の底で笑っている。







「どうでもいいが、貴様等さっさと自分の地獄に帰れ」
「えー」























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死んでも元気な師匠。
たぶん呼べばわりと来そうな気がする。
でも呼ばない。






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