いくつかの事実と
いくつかの真実を積み上げて
おれの師匠は、人間というものが如何に不出来か語ってみせた。

理路整然と、あくびまじりに。

「海には海皇、冥府には冥王、地上には女神がいるが、
聖域は、穴だらけの人間の歴史に介入しない。
聖闘士が人間に関わることはない。
第一義としては」

海沿いの、白く乾いた道はガタゴトと
赤い車は跳ねて揺れて
おれはちらりとミラーを覗いて、後ろに座る人を見る。

「それでも、冥府の連中が律儀に復活すれば迎え撃つし、
人間の手に負えない災厄は全て引き受ける。
そのために女神は地上に転生する。
何度でも」

「冥王が人を滅ぼそうとするのは、
人間という種が機能不全を起こしているから、なんですよね」

「そうだな」

「じゃあ、女神は何のために地上を守ってるんですか」

鏡の中、その人は、ひょいと視線をくれた。
色のないような師は、光に透けると、銀色だ。

「愛なんじゃねーのー?」

真顔で言った後、
くっだらねーとゲラゲラ笑った。











その人が死んだ二日後。
胃液も出なくなった真っさらな便器に向かって吐いた。
透明な唾液はやたら綺麗に流れ落ちていった。

おれの、あの人は、悪い人で
腹の底なんか見せてくれなくて
思い出せることなんて実際下らないことばかりで。

逆賊として討たれた、とか

「……くっだらねェ……」


真似して、笑ってみた。
唾液なんだか涙なんだか分からなかった。

























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愛と言わせたかっただけです。



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