1 サガと蟹 『黒い花器』




黒い花器にいれたその枝は、彼が持ってきたものだ
瑞々しい桜の花
白く、ほのかに紅く、夜を咲いて


やがて

ほのかに ほのかに 陰っていく
よじれ、しおれていく 桜の花弁

私は、それを眺めていた
この部屋でずっと、待ちながら

そして、はらり はらりと 枝を離れ 落ちる



「もし、私が死んだら」

「私も おまえの傍においてくれるかな」



彼は眉を顰めて一言、

「俺が死んだ後の話なんて知らないよ」

私の額にキスしてくれた。




白は ほどけて 黒と混ざり
彼と私は目を閉じる






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春はぼんやりする季節。
なんとなくの気分でものを言う。






















2 山羊と蟹 『川向こう』




話が途切れたので、川向こうに目をやった。
明かりのない暗夜に、茫と浮かぶ影
夜目にも白い、群雲のような
あれは 何と言っていたか。

「桜だ」

先に答える、硬い声は
人の思考をいつものように解いてみたのか
それとも、問う声すら聞きたくなかったのか。
夜闇に浮かぶ仄白い影を、同じように睨んだその目が
こちらの顔は見ようとしないのは
実際、憎悪のせいだ。
物分りの良い、良すぎるこいつは、いつもどこかに上手く隠してみせる
元から無かったように笑う
けれど今は、薄めることすら忘れた、その殺意。


(誰のせいか分かっているから、酷く愉快な気分になる)






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怒らせるのも得意ですよ、お友達なので。





















3 魚と蟹 『季節と双生児』




声を聞いた
緑なす葉、葉、葉、葉に隠された
隠れ残った白一つ
咲きそこね、腐りゆく蕾一つ

戯れに、私は手を伸ばし
ふるりふるえて桜は咲き
戯れに、君は手を伸ばし
咲くままに花の散り落ちて
後はただ緑なす葉、葉、葉、葉の

風が吹く
葉裏もきらきらと照り踊る
雲を呼び、雲を連れ去る
春と夏とを貫き通し、駆け上がる

幾多の季節を、繰り返す昼と夜を
行くも帰るも二人次第
末は同じく続く道

万物一切滞りなくこの道に尽きる






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双子というより対。
実は人の寿命も左右できますよ、とか。








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