散らばった、青い小片。
一つ摘み取って、よく眺めてみる。

 " PALAU Koror "

パズルのピース。
それは青い海の欠片だが、さて母なる海は広く、そして地球は丸く。
世界の一片を摘み取る、節の張った、長い指は意外と器用に動くのだ、が。

残念、そこじゃあない。また外れ。
笑ってやれ。くははは。

「デス」
「なーに?」
「黙れ」
「気が散っちゃう? そりゃあおまえの修行不足ってもんだ。
いかんねえ、黄金聖闘士がそんなことでは」

勅命を完遂し、聖域に帰還したカプリコーンのお土産は、
綺麗な色した地球儀のパズル。
同じものは、前にも俺が買ったんだけれど、
その時は壊してしまった。

シュラは、意外とこういうのが好きだ。
時間のかかる、手間のかかるものを、
時間をかけてやり遂げるのが好きだ。
好き、というより、やらずにいられないのだと思う。

そんなわけで、磨羯宮の主は今日は朝から、これだけ、らしい。
向かい側に座って、それを眺めている俺は、
その後ろ頭のツンツンしたのが寝癖なのかどうか、少し迷っている。

ところで、このオモチャ。
この人はどこでどんな顔して買ってきたんでしょうか。
うはは。笑ってやれ。

「……いやん、そんな怖い顔しないで。つか指を揃えて手刀にしないで。
ハイハーイ、大人しくいい子にしてますよ」

聞き分けの良い俺は、もうただ、その指と、パズルのピース、
そして未だ形になってない地球儀を、眺めるのですが、
この人ときたら、

「デス、やめろ」
「なんだよ、喋ってないだろ」
「正しい位置を目で教えるのは止めろ。詰らん」
「俺の方見なきゃいいだろー」
「視界に入る。眼球を動かすな」
「無理言うな」

傍若無人な要求に堪え兼ねて、席を立つ。

「なんか食ってもいい?」

無言で顎が指した。
けれどキッチンを漁っても、まともなものがなかった。
冷凍庫の中には、何の肉なのか、ガチガチに凍りついた物体。
やめておこう。

「帰ったんならまず食料確保しとけよ。誰かに言えば済むことだろ」

親切心からの忠告を、まるで聞いちゃいねえ。
知ってるけどね。

「どうしようかな……」


取り敢えず、聖域を下りて市街地へ。
こんな時間じゃ中央まで行かないと市場はもうやってない。
肉でも野菜でも何を買おうが所詮他人の台所事情。
けれどまあ、人並みに食べていける分は買い揃えてやる。


磨羯宮に戻ってみると。
相変わらず青くて小さなのを睨みつけていた。
俺が、買ってきたものを整理して行ったり来たりしていたら、
視線も上げずに一言。

「腹が減った」
「うるせぇバカ!泣かすぞッ」

米のメシが食いたい今日はパエリア。
適当に作ったメシは適当にうまい。

「シュラくん、ハイ、あーん」

スプーン上に乗せた愛は、呆気に取られるほどあっさりと口の中へ。
俺は、時々、こいつが怖い。

「なんだおまえ、なんだその潔さはサムライか。
おまえは躊躇う心や恥じらいという素敵なものを内蔵してないのか、ないんだなこの野郎」

鼻先で笑われる。
ほめてなんかいない。

その、右腕が動いて、
スプーンが皿の中身を掬い、「ほら」 と。
人の眼前に突きつけてくる。
俺の考えでは、愛とはもっと優しげなものであるはずだ、けれど。

口を開けて、咀嚼して。
喉を撫で下りる、サフラン色。

これが愛の味なのねと二人してげらげら笑った。



ちらりと見たパズルは完成に程遠く、
また時間がかかるだろうなと思った。



























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休日はまったりめで。
壊したパズルはサガニ企画室08より。



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