「よう兄弟、調子はどうだ」
「なんだか頭が痛いんだ」
「つらいのか」
「それほどでもない。ただ、なんだかぼんやりして、いろんな声がしているみたいだ」
「目ぇ閉じてみな」

「聞こえるか、何か」

「よく、分からない。耳鳴りなのかもしれない。でも手が冷たくて気持ちいい」
「おまえ熱あるな。風邪だな、腹出して寝てるからだ」
「出してない。子供じゃない」
「ガキだよ、おまえなんか」
「そんなことない」
「さっさと寝ろ。明日になればきっと良くなるから」
「なあ」
「あん?」
「どこに行くんだ」
「上」
「教皇宮?」
「今日の日付のうちに済ませておきたいのがあんだよ」
「……教皇は」
「ん」
「教皇は、」

「女神の代行者としてこの聖域を治め、地上を守るに相応しい徳を持った御方なんだ」

「教皇は正しい御方なんだ」

「でも俺は日本で女神に会ったんだ」

「女神は俺に教えてくれたんだ。俺の兄さんは逆賊なんかじゃなかった」
「……そうだな」
「俺の兄さんは女神を守ろうとしたんだ、兄さんはやっぱり正しかったんだ、でも教皇は、俺は」
「おまえの兄貴は、逆賊なんかじゃなかったよ」
「……うん」
「おまえの兄貴は確かに正しかった」
「うん」
「だからおまえも、おまえが正しいと思ったことをすればいい」
「うん」
「俺はそれでいい」
「……ありがとう」
「いんや。いいからさ、もう寝ちまえ。頭痛いんだろ?」
「話をしていたら少し良くなったみたいだ」
「そりゃ良かった。じゃ、俺そろそろ行くぞ」
「今日はありがとう、おやすみ」
「ああ」


「また明日」










次の日、聖域に女神が帰ってきた。
明日になればと言ってくれた彼は死んだ。





















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幻朧魔皇拳80%の獅子と、通りすがりの蟹。
魔皇拳のおかげでちょっぴり錯乱と退行している模様。
こんな時ぐらい隣人に寄りかかってもいいと思う。

相手を間違っているが、それはそれで。


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