その音は、誰にでも聞こえるわけではない。
唇で伝えるのではない声。
光よりも速く世界中を駆け巡り、時間すらも飛び越えて、
思う人の胸にきっと響く言葉。


私はそっと耳を傾ける。
そして一つの音叉になる。





 " 本日の飲み会について "
  内勤のアフロくんが拗ね、代わりに留守番として召集しようとした君等もごちゃごちゃ五月蝿いので、
  全員で飲みに行くことに先ほど決めましたが、十二宮を空にするとは何事かと教皇様に怒られました。
  よって、場所を白羊宮に代え、黄金聖闘士は全員集合。時間はだいたいさっき言ったとおりで。

  追伸
  手ぶらで来ちゃうような人にはもれなくアテナエクスクラメーションを食らわせます。





無造作に世界へと解き放たれ、やがて消えていく。
その声を受け取り、私は、自分が微笑んでいることに気づいた。
それは随分と懐かしい響きだった。
「……シュラのお祝いと言ってましたけれど、彼が冬生まれということを、私が忘れていると思ったのでしょうか」
「行くのだろう?」
大瀑布の前に坐す老人が言う。
「ええ、まあ。場所を白羊宮と決められては、放っておくわけにもいきませんから」
「それなら行く前にわしの家に寄ってくれ。
酒の味もまともに分からん小僧には勿体無いが、秘蔵の甕があるんじゃ」
「老師のお言葉、そのままあの人に伝えますよ。きっと喜びます」
老人は目を細めるように笑った。


私はそっと耳を澄まし、空に消えた声を思う。
そうやって同じように声を受け取った彼等を思う。
私は音叉となり、一つの言葉を空に送った。
ただ今日が幸せな日であるように。

























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ここの羊さんは、どうにも蟹さんのことを放っておけないのです。

『瑠璃光』も、このおまけも、十二宮戦の前という設定ですが。
それでもたまにはこんな日があってもいいと思います。
じーちゃんにとって孫は永遠に孫です。


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