言う気はない、その必要もない。


が、教皇としてのサガは、良く出来たシステムだ。
視野の違う、方法論も違う、二つの並行する意識は、絶えず競合しつつ、
結論はいつも一つしか出さない。
サガは、常に、有りとあらゆる存在に公平な、裁決を下す。
誰であろうと、何であろうと、等しく冷徹な祝福を与える。
破滅と均衡すら、同じ手の中で調和させる。

そんなことが可能なのは、言えばきっと怒るのだろうけれど、
どちらもやはり、サガだからだと思う。
意識の競合は、互いを打ち消し合うためでなく、寧ろ自律的分業に近い。
複雑に絡み合った、答えを出すことを躊躇うような選択も、
いつか必ず顔を上げ、その声で凛と、一つの決定を告げる。
僅かな脆さも有りはしない。
シオン様を殺そうが、アイオロスが死のうが、サガは相変わらず、神のような男だ。


俺はただ、積尸気にいて、気ままに死人と戯れながら、それを眺めている。
世界の支点に据えられた、一番大きな歯車が、
新しい恒常性で時間を動かしてゆく様を、眺めている。

全く、神のよう。



けれど、教皇として申し分のないサガは、

あの仮面を外してしまうと、

もう少し、なんだ、

学習したほうがいい。







「デス、話はまだ終わっていない。顔を上げなさい」

たとえば、このお説教。
深い綺麗な声も言葉も、阿呆相手じゃ全く益がない。
顔を上げさせてみても、ほら。
俺はサガの目を見た途端、ますます惚ける。

それはまったく、いったい何がどうしてこうなったんだと聞きたくなるような、青色で。
見るたびに、繁々と眺め、考えてはみるのだが、
何で出来ているのか見当もつかない、深い深い青。
眼球の構成物質を羅列してみたところで、どうにもならない。

長い睫毛は、透き通る翅の、静かに揺れて。
溜息。

「デス」
「ん」
「話を聞いていないね」
「ごめん」

聞いていないはずがない。
言葉や声、その呼吸。
一つ一つに皮膚はぴりぴりと痺れている、けれど、

「ごめん、もう少し簡単に言って。よくわからない」


ただ、阿呆なんです。





「……自分を大事にして生きろと言ったんだよ」



それなのに、サガはまた、難しいことを言う。
その言葉を俺はやっぱり理解できず、いやに真摯な青色に射貫かれて、
サガの目から逃げることもできなくて、俺はまた。
青色の構成原理に疑問を持つ。
鋭敏に揺り動かされる、阿呆の法悦を思索する。
その目の、熱病のような光に酔いながら。


「俺は、俺のことが一番大事だよ」





全く、神のような人。


























06 少しは学習しなよ
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きっと、説教というほどうるさくはない。

わりと一瞬一瞬が一目惚れ。でもおくびにも出さない。出せない。
そんな蟹でもいいじゃない。




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