『膝を抱えて夢見るのは』




ノアの中、勇は膝を抱える。
感覚は、ぱんぱんに膨れ上がり
どこもかしこもノアで満たされている。
そうして、創世に至るまでの僅かな時間。
勇は、束の間の夢を見ている。
暗い夜の海を夢見る。
風と、波と、嵐と、月。
そして、海を渡る箱舟。
その中で、ノアは一人、夢を見ている。
優しいやさしい夢を見る。
箱舟には他に誰もいなくて。
ノアの眠りが覚まされることはない。
風が吹いて、海に波が立ち。
箱舟が揺れる。
ノアの揺り籠が、暗い海を渡っていく。

いつか嵐が止み。
水がひいて、大地が浮かび上がり。
箱舟は進むことを止める。
そうすれば。
たった一人のノアは、たった一人の世界に立ち

きっと、笑顔を空に向けるだろう。




それなのに、悪魔が一匹そこに立つ。




ぱんぱんに膨れ上がった自分の身体に、大きな穴を空けられて。
勇は咆哮する。
口をつく絶叫は、痛みというよりは。
寧ろ自分というものが次々と消えていく悲しみだ。
勇は咆哮する。
もう涙の存在すら忘れているというのに、それはまるで泣き声のようだ。

痛い。
悲しい。

寂しい。


赤子が大声で泣いている。





いつか、泣き声すら消えていた。
形の定まらぬ筈の胎児は、散々に切り裂かれた。
穴が、空く。
次々と穴が空く。
そこから自分が流れ出ていく。
勇はもうそれを止められなくて。
膝を抱え、ただ小さく吐息をついた。
その間にも、自分がどんどん流れ出ていく。
あんなにしっかりと、閉じられていた筈なのに。
いつのまにか、身体の中に見知らぬ冷たさが染み渡っている。
それを心地よいと感じることすら、もうどうでもよくなって。
もう、何も考えたくない。
もう、何も無い。

空っぽの身体の中が、柔らかな冷たさに満たされる。

――ああ、そうか。この冷たさは、俺が消えたのか。





膝を抱え、俯いて目を閉じた勇の前で
悪魔が一匹泣いている。














ノアが存在した場所に光が生じた。
それが一点に集まると、小さく澄んだ音を立てて床に落ちた。
清水はそれを拾い上げてまじまじと眺める。
「へー、これがヨミノタカラって奴?何か俺のマガタマとそんなに変わんない気がする」
ダンテを振り返り、にっと笑った。
「食べたらどうなるかな」
「……止めておけ」
剣を背中に仕舞ったダンテは眉を顰めた。
「えー、なんで」
「どうなっても俺は知らん」
「大丈夫大丈夫。今でもとっくに、どうにかなってんだし」
笑いながら言う清水の顔に、マガツヒが暗く赤い光を投げかける。
その目は、弄ぶ手の中のタカラを見詰めていた。
「……こいつは、勇っていってね。学校のクラスが同じなのよ。
で、いっつもバカなことに付き合ってくれてさ。
あ、違うかな。俺が付き合ってたのかな。
もう分かんねぇや。けど、だからさ、俺のお友達だったのね、ゆークンて。
あ、そうだ。“ゆークン”だ。
俺、勇のこと、ゆークンって呼んでたんだよ。思い出した。……ちょっと、忘れてた。
そう、そのゆークンはさ、イイ奴なのよ。
そんな風じゃないって見せてるくせに、実はすっごく周りに気をつかったりしてね……」
何も言わないダンテを見上げ、清水はただ笑っていた。
その頬に、マガツヒの光が伝う。
「だから本当に、イイ奴だったんだ」

























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マニアクスのノア戦、貫通+至高の魔弾は悲しい気分になりますね。
ものすごく、勇くんが脆く感じますから。
そしてマニアクスでもムスビのコトワリに味方できなかった管理人……(涙)
ごめん、ごめんよ。勇くん。

何気なーく、ダンテがいますが。
本当はノア戦にダンテはいりませんよね。が、面白いので連れていきました。
スティンガーで勇くんをチクチクチクチク、してました。
いやがらせ程度のダメージしかいかなくても気にしない!

……あれ?勇くんが持ってたのって、ヨミノタカラですよね……?


逃走加速。