パンッ




いっそ小気味良い破裂音で、俺の腸が飛び散った。
綺麗な青空を背景にして、悶えるように赤く脈打つ臓物や、飛沫。
そこら辺にぴしゃりとぶち撒けて、あー。
ツイてない。

(天罰もしくはアキレスと亀)
(定めし運命の如く不可避の矛盾、不条理、まるで呪いのように)
(こんな日に限って聖衣でない俺は、たかが音速そこそこの、最期の足掻きを、何故か)
(何故か、避けられずに、)


パンッ


「……すげー、なんだコレ」

真っ昼間、腹の中身かっさばいて晒しながら、言ってみる。
実際のところ声じゃなくて、ゴボゴボ湧き立つ血を吐いただけだが、
それはそれで。
言ったつもりだから、いいんだ。

青空 綿雲 風が流れて 光が差す 
血や臓腑、飛散した肉やそれら、静かに静かに 地面の下へ
沁み込んで、希釈され、少しずつ 少しずつ、透明な冷水となって


(あー。)

(もしかしたら、これは  )


死ぬかもしれない。


それが、どこまで来ているのかと
上手い具合に無事だった首を傾けて探す。
仰いだ空は、洗い流したような青だった。






深い淵の、澱みで

濾過された意識を

呼ぶ声は



「何だ、これは」

意識 ぶるり 震え
と、同時に頬を叩かれるもんだから、寝てもいられない。
目を明ければ、真上に黒い影。

「きゃっ」

また頬を打たれる。
その手で両の頬をぺちりと挟まれて、視界いっぱい占有される、その、目。

「何だ、おまえは」

怒ったような、いつもの シュラの声。
それを笑ってやろうとして、口の辺りがバリバリだ。 血が乾いてやがる。

「……何ってェ、おまえこそ 何だよ?」

もったいぶって舌を動かす。
むせてしまいそうで、そっと呼吸。
吐息の感じる近さを、緩く揺らす。

呼んだのか呼ばれたのか分からないが、
絡め合う舌の感触は、いやに神経に蕩ける。
(俺の腕は動かないし、肺は裂けてるし、第一に腹の中身を殆どこぼしてしまった)
頬を、首を撫で下りる手指を、その感触をどうすればいい。
針のように研ぎ澄ませた痛覚でなぞっても、まだ飽き足らない。


顔を上げたシュラは、口の周りが赤く汚れて
人喰いみたいなくせに。

「……とにかく、散らかした臓物をさっさと片付けろ」

今になって軽く惑うのは。
あー。 ややこしい奴。
(まずおまえの足が踏んでんだよ、はらわた)

「ガキの遊びの始末じゃないんだから、簡単にいくか、バカ」
「仕舞え」

それでも言い切るんだ、不貞腐れて。

「もしこのまま死んだら、冥府から引き摺り戻して、また殺す」

背筋を震わせちゃう声で、
ガキみたいなこと言っちゃって。
あー。
これが俺のお友達なんです。

壊れた身体、潰れた細胞を
震わすように込み上げる、親愛の
愉悦の笑み

たかがこれぐらいの事で、こいつより先に俺の方がいくなんて。
そんな簡単に終われるわけないのに、な?
あーァ、まったく。

「……かーわいいコト言っちゃうんだから」

























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何でとか、どうしてとか、その前に、
なんとなくラブいオチだから別にいんじゃね? とか思ってほしい。
たまにうっかり死にかけてたりする黄金聖闘士がいたっていいじゃない。

二人とも、人としてどうかと思うのはいつものことですね。


(07/08/29)


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