掌の話 (山羊と蟹) 手首の、その下。少し細くなるあたりを 掴んで壁に押し付けた。 擦れたコンクリートがざりりとした。 僅かに歪めた、笑わない唇。 何か言ったようだが、何も聞こえなかった。 俯く耳朶を舌でなぞった。 歯を当てれば、掴む手の中で、ひくりと。 腕、よりもその身体が、軋むように。 吐息を押し殺す合間、 泣き疲れた人の微かな声のような、それが乾いた喉で鳴る、 少し後。 掴んだ手の中、皮膚の下、ひくんと、また。 逃げるように小さく弾けた。 ほどけて、また結ばれ 指は、壁に縫い止められたまま、ゆるく不平を告げる。 全くの、惰性。 手をずらし、その掌、指に触れた。 冷たいものと思っていた、それはいつか温くなっていた。 絡めた、重ねた掌の、少し汗ばんだこの熱が、 どちらのものともつかない、この熱が、 薄皮を、きっと気づかぬほど、蕩けさせた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 手を握ってそれで終ってしまえばいいと思いつつ。 ←もどる |