『真嶋屋湯煙殺人事件。若女将が謎を解く!』
(火曜サスペンス風にお届けします)
●注意
・特拓同盟夏チャットの際に出来たネタでございます。
・火サス風に話は進みますので、展開は速いです(なんせ2時間で全てを終わらせますので!)
・本来ならば女がやるであろう配役を男がやっていてもお気になさらず。
・舞台は『真嶋屋』:風光明媚な観光地にある、老舗の料理&温泉旅館。
・真嶋屋をとりしきる女将は夏生さん。若女将はアッちゃん。アッちゃんは女将の下で只今修行中です。
・チイが話をまとめたので、知らぬ間に…秋マー風味になっております(笑)
●登場人物
真嶋屋:女将−夏生さん
若女将(修行中)−アッちゃん
こだわりの板長:龍也
番頭さん−誠さんとか
雑用係−須王くんとか
観光客:マー坊(アッちゃんとは幼馴染。毎年真嶋屋にやってくる)
拓ちゃん(今回、マー坊に誘われて初めて真嶋屋へやってくる)
魍魎組:武丸(真嶋屋へ圧力をかけてくる)
久保島・エージ(武丸の部下)
刑事:鰐淵(捜査一課のニヒルな刑事)
萌子さん(鰐淵の同僚)
鎖島(鰐淵の忠実な部下。たたき上げの現場人間)
ユータ(派出所のおまわり)
●オープニング●(人物紹介もかねてます。かなりスピーディー。所要時間3分くらい)
チャララ〜〜ン(陽気な音楽に乗せて)
マー坊「キャハハハっ!!」
拓「あ、待ってよ〜マー坊くんvv」
おやつを食べながら観光地めぐりを楽しむマー坊と拓。
二人はキャピキャピと観光を……これでもかというくらい楽しんでます。
一方で真嶋屋。
朝の朝礼、取り仕切るのは女将の夏生。
みんなそれぞれの持ち場についていく。
若女将の秋生は夏生に呼ばれて、本日の打ち合わせ。
板長龍也はせっせと仕込みを開始するのでありました。
番頭さんは本日のお客様の確認やら、玄関のお掃除やらにいそしみます。
須王くんは鉢巻しながら露天風呂のお掃除さ!えんや〜とっと〜。
●真嶋屋。
拓「へ〜〜立派な旅館だねー。マー坊くん毎年来てるの?」
一通り観光を終えたマー坊と拓が本日のお宿、真嶋屋へと到着。
マー坊「そう、幼馴染がやってんだ〜vv」
ガラガラガラ。(中に入る音)
真嶋屋の一同玄関にてお出迎え。
夏生「本日は真嶋屋へようこそ。どうぞくつろいで行ってくださいませ。
女将の夏生でございます。」
秋生「若女将の、秋生でございます。」
マー坊「(ニッコリ)わ〜い、夏生さん、アッちゃん!久しぶり〜〜vv
今年も来ちゃった!会いたかったよ〜!」
秋生「ああ。(クス)マー坊、ゆっくりしてけよな」
マー坊「うん!!」
拓「どうぞ、よろしくお願いします〜」←とりあえず女将と若女将の迫力にビビッている。
夏生「何かあったらすぐ言えよ?とりあえず、メシは何時からにする…?」
(メシって言うか?!笑)
●お部屋●
拓「わ〜〜い!い部屋だね〜〜vv景色もサイコー」
マー坊「拓ちゃん、もうご飯だよーvvさきにメシ食ってから露天風呂行こ〜vv」
秋生「メシの準備するぜー」←マー坊の前なのでかなりフランク。
ここは料理旅館。こだわり板長もいるので、かなり豪華な食事が並べられます。
板長自らが部屋まで来てくれて、その場で料理・・・なんてサービスもあるのです。
龍也「オイ、マサト。てめー何、端によけてんだ?食え」
マー坊「……ヤダーー。オレ、サザエってキモイし苦いし…いらねェ」
龍也「(プチ)」
拓「あっ…こ、この白子なんてすごい美味しいですねっ」
マー坊「オレ白子とか見た目気持ちワリイからヤだ…」
龍也「(プチプチ)」
拓「マ…マー坊くん…!!」
マー坊「伊勢エビって伊勢エビ臭くね?オレ普通のエビでエビフライとか食いたい…。
そもそもアワビって肉厚シイタケとどう違うのかわかんねーー。」
龍也「(プッツン)…マサトーーっ!!テメーはァ…!!ファミレスにでも行きやがれ!!」
マー坊「んだよー?だってホントだもんっ」
龍也「はっ、せっかくいい食材が手に入ってもテメーに食わすと、食材が泣いてるぜ…!!
テメーはコンビニ弁当でも食ってりゃいいんだよ!」
マー坊「何だとーーっ(プリプリ)」
秋生「まーまー、龍也。そうムキになんなって…」
そう言って、食後のアイスを取り出す若女将、秋生。
マー坊「ああーー!!vvやったvアイスだ〜」
秋生「オメーのためにちゃんと用意しといてやったぜ?」
マー坊「わーい、アッちゃんありがとう!vv」
秋生(龍也にささやく)「そりゃ−、オマエが怒りたくなる気持ちも分かっけどよ、
客のニーズに答えてこそ、本当の満足を与えられるってモンだぜ?(キラリ)」
若女将、そこらへんは女将からよく教育されているのであります。
手前勝手なサービスで満足してはならない。
お客様、一人一人に応じたきめ細かなサービス…それが女将の教えなのでした。
なるほどな…オレもまだまだだ…と一瞬思った龍也板長だったのですが、
普通に考えれば非常識なマー坊に納得いかないムカツク板長なのでした。
いや、むしろマー坊だからムカツクというか…(笑)
●いざ露天風呂へ〜!●(殺人事件への序章)
拓「マー坊くん、ご飯美味しかったね〜〜」
マー坊「うん!」
拓「(本当にそう思ってる・・・??)」
露天風呂へと廊下を歩く拓とマー坊。
廊下の角から出てきた男に拓がぶつかる。
ドンっ!!
拓「きゃっ!!」
思わず拓はよろめいて、尻餅をつく。
マー坊「拓ちゃん!大丈夫?!」
拓「いたたた…うん、でも大丈夫。……あ…えっとスイマセン…」
ぶつかった相手に詫びようと相手を見る。
大柄な体躯で、上から見下ろすその男は拓とマー坊を無言で見ている。
拓「あ、あの…」
男「……」
男は何事も無かったかのように言葉を発する事は無く、その場から立ち去った。
眼光が普通の者のソレでは無かった…。
拓「こ…こわい…」
マー坊「何アイツ…ムカツク…」
しかし、二人は気を取り直して露天風呂に向かうのでした。
●露天風呂●(とうとう殺人事件が!!一応ここまでの経過は20分くらいです)
乳白色の温泉につかるマー坊と拓。
露天の岩風呂にもたれて旅の疲れを癒している。
キャピキャピと温泉を楽しんでいる二人。きゃあきゃあ言いながらお湯を掛け合ったり…(笑)
(お決まりの温泉サービスシーンですが女子ではなくこの二人で……)
秋生「(まったく〜ガキか、アイツらはー)」
そんな二人を影ながら見守る秋生(←覗き?!…ではないと思いたい…笑)
マー坊「あ〜、気持ちいいv来てよかったね、拓ちゃん」
拓「うんvお湯白いんだね〜、あれ?」
拓が不審な声をあげます…。
拓「…なんかこっちから流れてくるお湯、…赤い?」(ここで効果音)
二人「……?!」
赤いのを辿っていくとそこには!!
岩風呂の影にみっともなく白目剥いて倒れている久保島がっ!(←被害者は久保島――!!)
拓「きゃーーーーーっ!!!!」
マー坊「……っ!!」
秋生「どうしたっ?!」
そこに素早く駆けつける(近くで覗いてたからな)秋生。
秋生「これは……!!…死んでる……!!」
●事件です!!●
辺りには警察関係者が大勢詰め掛けて、現場検証なるものをやっている。
カシャカシャ!とか写真を撮ったり、鑑識の人が何やらかがんでやっている。
被害者の身元は久保島剛。
魍魎組の武丸の部下である。
本日は魍魎組の武丸について、同じく部下であるエージと3人でこの旅館に宿泊していた。
(ちなみに武丸一人部屋で、エージと久保島2人部屋です。)
同室であるエージの話によると食事の前から姿を見せなかったという。
エージは一人食事を済ませたそうだ。
武丸はというと、風呂に入っていて久保島がいない事とかまるでわれ関せずであったという。
鰐淵「こりゃー、殺人だな」
萌子「ええ、後ろからボクっといかれてるわね。滑って岩で頭打って死んだんじゃないわ」
鎖島「鰐淵さん!こんな証言が…」
ズボンの裾をまくり、しゃがみ込んで被害者を観察していた鰐淵達であったが、
鎖島に呼ばれて振り返る。
(鰐淵さん、スーツ刑事だけど、温泉なので上着は脱いで裾まくり腕巻くり。
でもグラサン←曇らないのかしら)
拓とマー坊は、露天風呂に来るまでにぶつかった男の話を刑事である鰐淵に言うのであった。
マー坊「アイツ、犯人じゃねー?何かいかにも人一人殺してきましたーってカンジだったぜ?」
拓「(コクコク)」
鰐淵「他に風呂に行くまでに出会った奴はいなかったのか?」
拓「誰にも会いませんでした」
鰐淵「なるほどな。露天風呂にあの時いたのは、お前ら二人だけ。
で、入れ違いざまに出て行った男。怪しいな」
(二人だけ…っていうか、二人をつけてきたアッちゃんもおりましたけど…)
秋生「たぶん、オマエらがぶつかったのって、魍魎組の武丸じゃねえか?
オレもオマエらの後にすれ違ったからな。」
拓「魍魎組って、殺された人と同じ組の…?」
マー坊「……」
秋生「自分の部下を…なんて事あり得るか?…わかんねーけど」
鰐淵「(ニヤリ)オイオイ、オメーら、何無い頭ひねってんだ。
捜査はオレ達警察にまかせときゃいーんだよ。民間人が出しゃばった事すんじゃねーゾ?」
秋生「(むっ)ここはウチの旅館なんだからな。アンタらこそ早く引き上げてくれよな!」
鰐淵「それは、事件が解決したらな」
秋生「げっ!長期滞在とかやめろよ?たく…」
秋生「それにしてもウチで殺人事件だなんて…」
秋生は、ふう、と頭を抱える。
秋生「……ったく、冗談じゃねーぜ!?…うち潰す気か?
よぉし、俺が犯人捕まえてやる!」
真嶋屋のため、事件解決に闘志を燃やす若女将・秋生なのでした。
●夜●
拓とマー坊は部屋でしんみりしています。
マー坊「それにしても殺人事件だなんて…アッちゃんや夏生さん大変だなァ…」
拓「だよね。それに殺人犯がいるって事だよね?怖いよ…」
マー坊「拓ちゃん……大丈夫だって!オレが何とかしてやるって!(キラリ)」
何故かここでも闘志を燃やすマー坊が…。
拓「(何とかって…遊びじゃないんだから…)」
皆の寝静まった静かな廊下。
そろそろとマー坊は歩きます。
露天風呂へと続く道を。
何か犯人の手がかりがないものかと…(いったい何があるってんだ)
床に何か落ちてたりしないかと、懐中電灯片手に、足元を探ります。
ドンっ!
マー坊「いてっ」
そんな事していると誰かとぶつかってしまいました。
秋生「マー坊!何してんだべ?こんな時間に…こんなトコで…」
あきれた様子の秋生は、今は私服でした。
マー坊「あーアッちゃん!…オレも犯人捕まえてやろうと思って!そういうアッちゃんは?」
秋生「……まあ、オレもそんなトコ。」
マー坊「何か手がかりあった??」
秋生「いや、今んとこナンも…」
この二人……探偵役にはとても頼りない気がします。バカっぽいので…。
そこへ、人の気配がします!
秋生「やばい!マー坊、誰か来る!隠れろ!」
小声で叫ぶと、秋生はマー坊を引っ張り、手近にあった部屋へと身を潜めます。
身を隠したのは布団部屋(布団やシーツが収納されている部屋です)
扉を薄く開けて、息を殺して外の様子を伺う二人。
そこにいたのは、魍魎組の武丸とエージでした。
エージ「武丸よォ…久保島の奴、いったい誰にやられちまったんだろう…?」
武丸「……」
エージ「うちの組に敵対する奴らか?」
武丸「……」
エージ「何とか言ってくれよ?!武丸よォ!……もしかして…武丸…オマエが…」
武丸「(ギラリと目が光る)」
ドゴッ!!
武丸に殴り倒されるエージ。
武丸「つまんねー事言ってる暇があったら、犯人捜してきなァ…」
エージ「…くっ…武丸…(オレは一言、オマエがやったんじゃないって言ってくれればそれで…)」
カクリ、とその場に力尽きるエージ(←別に死んでない)
秋生「激しいヤツらだな……」
マー坊「そもそも何なの?アイツらはー?温泉に旅するようなキャラじゃねーじゃん?!」
秋生「アイツらはこの辺の地上げしてる組の奴らなんだよ。ウチの旅館にも圧力かけてきてる…」
マー坊「え?!そなのーー?この旅館無くなっちゃうの?」
秋生「アニキがそんなコトはさせねーだろーけどヨ?でもしつこいんだよ。
偵察もかねてちょくちょく泊まりに来るし…。今だって、そうだったんだぜ?」
マー坊「ふ〜〜ん…」
秋生「でもあの若頭の武丸がそうとう荒っぽい奴で、自分の部下にも容赦ないらしいぜ?」
マー坊「今のも普通に酷かったね…(這いつくばってるエージに目をやる)」
秋生「ああ、アイツらはアレが日常茶飯事なんだよ」
マー坊「じゃあ、あの風呂で死んでた奴もウッカリあいつに殺されたんじゃねー?」
秋生「……う〜〜ん…でも、そんな。自分の部下だぜ?」
マー坊「だってアイツ、加減知らなさそうじゃん?」
秋生「確かに」
マー坊「明日、あのスかした刑事に教えてやろvv」
マー坊「ところでさ、アッちゃん」
実は密着して隠れてる二人。
モゾモゾ、ぴとっ。
マー坊、ますますアッちゃんにくっつきます。
秋生「?」
マー坊「会いたかったv」
秋生「///(テレながら)おお。オレもー…。」
で、アッちゃんもマー坊の背に手を回してギュっとな。
すりすり…。毎日、修行中のつらい日々を送るアッちゃんは、
久しぶりに感じるマー坊の温もりに癒されます。
久々に会ったというのに、こんな事件に巻き込まれて……気の休まる暇が無いというか…。
(しかし、すぐそこでエージが這いつくばってるにもかかわらず…この二人…)
(↑スンマセン、つい!!byチイ)
●翌日●
マー坊「……て訳でさ、ぜってーあの武丸ってやつ!あいつが犯人っぽい!」
鰐淵「まあ、ヨォ…オメーに言われなくても怪しい奴だからこっちから普通に調べるけどよ?」
マー坊「……そなの?」
鰐淵「おゥ。もともと、あいつは身内への暴力で結構有名な奴だからな。
行き過ぎて殺しちまってもオカシクねーってワケだ」
萌子「そうね、状況から言って、一番怪しいのもアイツね」
鎖島「でも、いくらなんでも、身内をやっちまいますかね…?」
(武丸を知るものなら「やりかねないだろ…」と思うに違いないのだが!笑)
鰐淵「ま、取り合えず、調べてみねーコトにはなんとも言えねー…(ふゥ)」
そう言って、タバコを煙を吐き出す鰐淵刑事なのでした。
鰐淵「おゥ!ユータ!取り合えず、事情聴取するからよ?武丸呼んでこい…」
ユータ「……はっハイ!!(…オ、オレぇ…?!)」
ユータ可哀想くね?(死ぬかも…?笑)
●ちなみにこの時点での事情聴取結果●
今まで、この旅館に居合わせた者達は全て簡単な事情聴取を受けています。
とりあえず、犯行時間前後の行動について。
発見者のマー坊と拓:この旅館に到着以来、犯行時間に至るまでずっと一緒にいてた。
若女将の秋生:旅館内の仕事にあちこちうろついていた。犯行時刻のアリバイ無し。
(しかし、だいたい行動的にはマー坊と拓と同じ←つけてたり覗いてたりするので)
女将の夏生:旅館の仕事をキビキビこなす。だいたいいつも仲居が誰かしら一緒にいてた。
番頭の誠:仕事中
板前龍也:仕事中+マー坊達の部屋
須王:その辺の掃除。露天風呂含む←事件発覚時の一時間前には死体は無かったとの証言
武丸:自室〜散歩。そして入浴。
エージ:ずっと部屋。
●露天風呂●
秋生は、事件現場である露天風呂に来ていた。ものものしくロープが巻かれている。
久保島が殺された位置から、露天風呂の端から端までを見回した。
武丸は現在事情聴取を受けている。
状況からすると、武丸が犯人だというのが、一番しっくりくる。
……しかし、秋生は思っていた。
秋生「……。(ナンかひっかかんだよなー…)」
マー坊「アッちゃんどうしたの?」
秋生「…ああ。あの武丸だけどよ…?嘘をつくようなタイプじゃねえよな?」
マー坊「…まー…」
秋生「アイツは自分はやってない、って言ってるらしい」
マー坊「そーなの?」
秋生「…ああ」
秋生は自分の抱える違和感をマー坊に告げる。
秋生「実はオレはよ…全てがアイツを怪しむように仕組まれてるように思えるんだ」
マー坊「どゆこと?!」
秋生「…他に真犯人がいて、武丸は嵌められてるだけなんじゃねえかって思うんだ」
マー坊「……!!」
沈黙する二人。
そこへいきなり現れる須王。
須王「おっ!オメーら、こんなトコで何やってんだ?」
マー坊「須王くんこそ!…どっから来たのさ?!」
どこから…?というのは、秋生とマー坊は露天風呂の出入り口を見ながら話をしていたので、
その入り口からではなく、突如自分の後ろから現れた須王に驚いたのだ。
須王「…どっからって…」
須王はキョトンとして、指で指し示す。
ちょうど、入り口とは反対方向の露天風呂の囲いに、一部低くなっている部分がある。
毎日掃除をする須王は、旅館の内側を通らなくてもすむこのルートからいつも来ているのだ。
知る人ぞ知る道である。
この道は旅館の裏口からすぐで、須王はこの低くなった囲いを乗り越えて来ていたのだ。
このルートで来ると、旅館の客とは途中で顔を合わせる事がない。
秋生「……」
(もしかすると、犯人はこのルートを使ったのかもしれない…)
秋生の頭にそんな思いが浮かび上がる。
それは同時に、このルートを知っている人間=旅館の従業員が真犯人なのではないか…
という答えが秋生の脳裏を掠めるのだった……。
マー坊「…アッちゃん…どしたの…??」
秋生「……」
腕組みをして無言で考え込む秋生…。
秋生は考えた。
もし犯人が…自分達の身内、つまりこの旅館の従業員だったら…と。
まず浮かぶのは女将、夏生の顔。
アニキ…どんな顔すんだべ…。怒り狂うかな…。
それに、旅館で殺人事件なんて、やっぱりイメージ悪いし、今後の経営に関わるだろうか…?
ずっと続いてきたこの旅館をオレ達の代で台無しにするなんて、あってはならない。
そして、従業員の面々を思い浮かべる。
…そもそも動機が分からない。それにみんな仕事中だった。
しかし、仕事中とはいえ、皆、それぞれ一人になるチャンスは有り得るのだ…。
秋生「う〜〜ん…」
秋生は頭を捻るのだった。
●真嶋兄弟●
夏生「よォ…秋生。オメー、事件の事調べてんのか…?」
ここは従業員の控え室。
女将の夏生と若女将の秋生は、ちょうど二人だけで休憩中でした。
秋生「ああ、ウチの旅館のためにも早くこの事件解決してやんねーとよォ…」
夏生「……。そーかよ。…捜査もいいけどよ、仕事に支障きたすんじゃねーゾ?」
秋生「ああ、それは分かってんべ、アニキ。」
秋生は、今までに自分が調べた事・分かった事を夏生に話します。
同時に今の容疑者である武丸に対する違和感、従業員が犯人である可能性も打ち明ける。
夏生「……!!」
夏生は秋生の考えに驚いたようです。しばらく言葉がありません。
秋生「アニキ…アニキはどう思う…?」
夏生「……実は…」
夏生は傍らからあるモノを取り出したのです……。
秋生「…アニキ…!!これは…」
秋生「マー坊、ちょっといいか?」
マー坊の部屋を訪れた秋生は真剣な表情でマー坊を呼びます。
マー坊「アッちゃん?どうしたの…?」
秋生「実はヨ…真犯人が分かっちまったんだよ…」
●ここは崖。断崖絶壁。下は海ですぜ(とうとう始まるよ!怒涛の犯人逮捕シーンが…)●
ピュ〜と風の吹く岩肌の上に、皆が集まっている。
刑事達、真嶋屋の従業員、魍魎組の二人、そして観光客であるマー坊と拓。
鰐淵「なんだ、どうした?みんなをこんなトコに呼び出して?」
萌子「ええ…いったい何の話があるっていうの?」
秋生とマー坊は、この場所に今回の事件の関係者を呼び出したのだった。
秋生「ああ…実はよ。…武丸は犯人じゃねえんだ。」
秋生は皆の顔を順番にゆっくり見つめて言う。
集まった者達は皆、以外な表情を浮かべ、ざわつく。
秋生「本当の犯人は…この中にいる!」
鰐淵「どーいうこった?!」
萌子「そうよ。犯人は武丸で決まりよ?」
秋生「…真犯人がいんだべ……真犯人は…オメーだ」
そう言って、秋生は一人を指差します。
秋生「龍也、本当の犯人は、…オメーだろ…?」
龍也「なっ?!」
秋生が指し示したのは、真嶋屋の板長、龍也だったのです。
鰐淵「何ィ?!榊が犯人だァ…?」
萌子「どういうこと?説明してよね?」
秋生「ああ。…マー坊!」
呼ばれたマー坊が一つの手ぬぐいを持ってきます。
夏生「…それは…」
秋生「ああ、これぁアニキがオレに渡した手ぬぐいだぜ。
コレが、犯行現場の途中に落ちてたってな」
夏生「ああ」
秋生「本当はアニキもコレが誰のモンかは分かってたんだろ?」
夏生「……」
秋生「この手ぬぐいは…龍也、オメーのだろ?」
……そう言って、秋生は龍也に手ぬぐいを差し出した。
龍也「……っ!!」
マー坊「龍也、オレ達分かったんだ。久保島が殺された時、
あの露天風呂に裏の通路から一人で行けたのは、オメーと須王くんと誠さんだけ。
そこに普段はほとんどあの通路を使うことのないオメーの持ち物が落ちてるなんて、変だろ…?」
秋生「アニキがコレを拾って、その後ずっと刑事達にも秘密にしてたんだ。」
マー坊「…そういえば、最近の龍也の様子が変だ…って夏生さんが言ってたぜ?
ちょっとした事でピリピリしたり、塞ぎ込んでたり…って」
龍也「何言ってんだ…?オレは知らねーぜ?その手ぬぐいだって、探してたんだぜ?」
龍也は明らかに狼狽しながら答えるのです。
マー坊「じゃあ、あん時、どこで何してたんだ?」
龍也「ンなの、テメーにカンケーねえだろ?!」
マー坊の無遠慮な質問に龍也がカッとして怒鳴ります。
夏生「龍也。本当の事、言えよ…」
夏生は悲しい表情で静かに、そして龍也を諭すように言いました。
龍也「夏生サン…」
●龍也の過去●
龍也は先代の頃、初めてこの真嶋屋へとやってきました。
当時、今の女将の夏生はまだ若女将で、修行中でありました。
そのころ、龍也はヤのつく稼業をしていたのですが、
龍也の属していた組が何者かによって潰されたのです。
(後にそれは魍魎組だというコトが分かる)
行く当ての無い龍也は、フラリとこの真嶋屋へと宿泊します。
疲れた心身を癒すために……。
そこにいたのが、真嶋屋の大女将。
実は龍也とは古い馴染でありました。龍也は思いがけず古い知り合いと再会するのです。
大女将は龍也の身の上を心配し、この真嶋屋で面倒を見る事に決めました。
龍也もその恩に報いようと、そもそもが真面目な性格なので、
真面目に修行をし、立派な板前になったのでありました…。
そして、大女将が引退し、夏生が女将を継ぐ事になります。
夏生はいきなり現れた龍也にも、他の従業員と変わりなく接してくれました。
板前歴のまだまだ短い龍也のコトを影で罵る輩もいましたが、
夏生は、敬意と親しみを持って接してくれました。
今まで、生きるか死ぬか…そして血なまぐさい世界で生きてきた龍也にとって、
この真嶋屋は始めて安らぎを感じられる場所だったのです。
龍也の中で、大切な場所となっていたのです。
そんな真嶋屋での幸せな生活……そこに黒い影を差し込んだのが魍魎組でした。
龍也は、昔自分の組を潰したのが魍魎組だというコトをこの時調べ上げてました。
しかしだからといって復讐しようなどという気は無く、係わり合いになる事を避けていました。
しかし、(龍也から言わすと)魍魎組の方から龍也の前にやってきたのでありました……。
魍魎組武丸は、一度ならず二度までも龍也の前に、龍也の大切なものを奪う形で現れたのです。
武丸は、真嶋屋のある土地を得ようと、圧力をかけてきました。
そして、客を装い何度も宿泊してきました。
その度、場違いな客に、他の客達は眉を顰めるのでした…。
先代から受け継いだ旅館を決して手放すまいと細腕で頑張る女将(ホントは筋肉隆々ですが)。
そんな女将の願いを砕こうとはっ!!
やっと辿り着いた幸せ地(女将のいる旅館)まで奪おうとする武丸に、
殺気MAXになるのは龍也からして言わすと当然の事でした。
●断崖絶壁での龍也の告白●
龍也「オレは、正直驚いたんだ…。今更、どうしてアイツ等がオレの前に現れたのかってな。
オレの事を追ってきたのかとも思った。
だけど本当はアイツ等はオレの事なんてちっとも覚えて無かった。
目的はこの旅館だったんだ。魍魎組は今やヤクザというだけじゃなくて、
表の顔は普通の企業みたいになってる……。その普通ぶった企業ヅラして、
この辺りの土地を買占めて、新たな自分達の関連事業を興そうとしてるんだ。
そうして、取引に応じない土地の所有者には、
武丸達のような荒っぽい連中が直々に出向いて地上げ行為をするんだ。
武丸の顔を見た時、オレはブチキレそうになった。
一度だけでなく二度までも、オレの大切なものを取り上げようとしている武丸が憎かったんだ。
それに…女将のためにもこの旅館はぜったい明け渡したくなかった。
大女将の決めた事とはいえ、素性の知れねえオレを、何の含みも無く接して…
使ってくれた女将にオレは感謝してる。
オレは女将の大切にしているこの旅館を守りたかったし、オレもこの場所が好きだった……
だから…だから、この真嶋屋を守れて、その上で魍魎組を窮地に陥らすためにっ…
武丸の仕業に見せかけて、久保島を…殺ったんだ……!!」
と、(律儀にも)全ての告白が終わる。
土地を追われた龍也。
そんな彼がやっと見つけた幸せ地。
すべてはそれを守るための犯行だったのであります。
断崖絶壁に走る龍也。
夏生「……龍也…っ」
鰐淵「何する気だ、榊ィ…!!」
鰐淵刑事、以下刑事達は龍也を確保するために駆け寄ろうとします。
龍也「来るなーーーーっ!!」
夏生「龍也っ!テメー、なにやってんだ!!」
なんと、龍也は崖から飛び降りようとしています!
龍也「……夏生サン、オレ…良かれと思ってやったけどよ…やっぱ迷惑かけちまったスよ…
オレが死ねば……丸く収まる……だから来ないでくれ!!」
夏生「……バカヤロウ!何言ってんだっ」
龍也「……オレ、アンタのおかげで色々と救われたよ…感謝してる…」
秋生「龍也っ!!」
龍也「オゥ…秋生…、今まで言わなかったけどよ、
オメーもきっと夏生サンに負けねーくらいの良い女将になると思うぜ…
今まで世話ンなったな。ありがとよ…」
秋生「…バカヤロウっ!!」
もう、すっかりその気になってしまって、挨拶などする龍也に秋生は一喝します。
秋生「何、テメー、自分勝手な事ばっか言ってんだべっ?!」
秋生「アニキがどんな気持ちかっ…テメー分かってんのか?!」
龍也「……」
秋生「アニキはよ。ずっと悩んでたんだぜ?お前が犯人じゃねーのかってよ!
だけど、それを刑事達には言えずに、悩んでるお前を見ながら、
ずっとずっと…お前が何か打ち明けてくれるんじゃねーかって、待ってたんだぜ?!」
龍也「夏生サン…」
秋生「それをよ、何勝手言ってんだ?!テメーが死んで丸く収まるワケがねーだろ?!
テメーはそれでいいだろうけどよ…お前の事考えてた人間はどうなるんだよ?!
……だいたい俺たち…真嶋屋はどーすんだよ?!板前は?!途中で止めんのかよ?!」
夏生「そうだぜ…龍也。もう、オメーが死んだってどうもならねーよ?!
それなら……待っててやるから、ちゃんと……いつになってもいいから…
…この旅館に戻って来い!!」
龍也「夏生サン…っ!!…うう」
龍也の瞳に、女将・夏生の言葉に今まで我慢していた涙が溢れます。
そして、その場に力が抜けたようにガックリと膝をつくのでした……。
龍也「うう…うあぁぁぁーー」
龍也、その場に崩れ落ちて号泣ーー。
秋生「オメーには、ちゃんと帰ってくるトコがあんだからよっ…」
若女将、秋生も涙が浮かんでくるのでした。
真犯人である龍也は大人しく刑事達に連れられて行きました。
そして、この断崖絶壁に集められた者たちは、一人、また一人とその場を後にするのでした。
刑事鰐淵は悲しい表情を浮かべる海を見ながら、傍らの萌子に言います。
鰐淵「大切なものを守りたいがために、犯す犯罪…。世の中皮肉なモンだぜ……」
萌子「ええ、…事件はいつも悲しいものよ…」
悲しい海に、波の砕ける音だけが響いていました。
(最後はしんみり悲しい音楽で)
●エンディング●
マー坊「拓ちゃん、ちゃんとお土産買ったーー?!」
拓「えー?こんだけじゃ足りない??!」
まるで事件なんて無かったかのような…最後の最後は妙に陽気な気分なのはお約束。
秋生「おい。オメーら忘れモンとかねーか?」
やれやれ、という風情で秋生は苦笑い。
マー坊「じゃあね!アッちゃんまた来るネvv夏生さんも元気で!」
夏生「オゥ。オメーこそ元気でな…ってオメーにはそんな気遣いいらねーか?」
そう言って笑う夏生。以下、真嶋屋の従業員の面々。
今から帰るマー坊と拓を見送るため、真嶋屋の面々はいつものように玄関に勢ぞろいしていた。
そこに板長龍也の姿は無い。
……それが寂しい。
秋生「……」
マー坊「何さー?ンな事より真嶋屋はダイジョーブなの?!来年もちゃんとあるよね?」
マー坊はプリプリと拗ねながら、夏生に向かって言う。
夏生「ああ」
マー坊「本当に?!」
夏生「心配すんな」
夏生や秋生、以下真嶋屋の面々は皆ニコニコしている。
実は先ほど、武丸が真嶋屋を後にしたのだ。
その際の話。
夏生「……オメーには迷惑かけちまったな…うちの従業員のした事だからヨ…」
武丸「ああ…」
夏生「…だからって、これまで通りだぜ。真嶋屋を手放す気はオレはねーからよ?」
武丸「……。オレはよォ…結構、気に入ってんだぜ?この旅館をよォ…」
ニヤリ、と笑って武丸は言うのです。
武丸「ここに泊まりに来んのはよォ…別に嫌がらせってワケじゃねんだぜ?好きで来てただけよ」
いるだけで迷惑なような武丸だが、実は真嶋屋の事は気に入っており、
ただこの旅館で休養を楽しんでいたのであった。
武丸「別にオレぁよォ…単なる客として来てっからよ…?」
夏生「ナンだよ……そうならそうと言えよナー…」
だったら今度からはもうちっと優しくしてやるべか…?とか
真嶋屋を後にする武丸の背中に小声で何やらつぶやく夏生なのでありました。
マー坊「あ!いっけなーい!アレ(この辺の名産品)食べてないや〜!
食べてから帰んないとね!」
拓「ははは、マー坊くんったら…」
秋生「…おいおい(苦笑)」
空は晴天。
青空の下、女将・夏生、そして若女将・秋生に見守られ、真嶋屋を後にする二人。
また来年。
何事も無かったかのように、またこの真嶋屋でお会いしましょう。
END
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(灰)まずみなさま叫びましょう。
統領かっこいい!
最後ニヤリと笑う武丸が、武丸が……!!
や、よく考えると結局全て武丸のせいなんですけどね(笑)
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