時折、考えることはあったのですが、どうしても分かりませんでした。
おじいさんに会う前の事を、かぐや姫は何一つ思い出せません。
ただ、どうも自分は、堕とされたらしい、ということは知っていました。
けれどそれがどういう意味を持つのかは、
他のことを何も覚えていないので分かりませんでした。
知ろうという気もあまり起きませんでした。
あの二人といる時は、そんなことを考える必要はありませんでしたから。
だから、月の世界で生まれたのだと知らされても、余所事にしか思えませんでした。
時が来たから元の世界に帰ってよいと言われたところで、元の世界なんか知りません。
月から迎えが来た今でも、かぐや姫はそう思っているのです。




気付いた時、誰かに手を引かれて歩いていました。
目蓋を透ける光は茫として熱も無く、月光の類のように思えました。
瞑ったままの目を開けようとすると、その誰かが声をかけました。
そのまま目を瞑っていれば、この道を通って月へと帰る頃には、煩わしいことは全て消えてしまうと
教える声が何故か懐かしいようでした。
その言葉通り、頭の中にあるものから一つ一つ色が失せ、溶け消えていきました。
暫くすれば全て綺麗に澄み渡って、何にも思い煩うことは無くなるでしょう。
その時ふと、おじいさんを思い出しました。
月からの迎えが作り事でないと言えば、狼狽するに決まっているから折角言わないでおいたのに、
最後に見たその顔は、あんまり悲しげで、酷くて、
なんて顔をしているのかと笑ってやろうとして、出来ませんでした。
それを、このまま忘れてしまうのは惜しいと思い、
目を開けようとしました。
もし目を開けたら、また下の世界に堕とされると懐かしい声が教えます。
かぐや姫は目を開けました。
そこにあった緋色の瞳を見たとき、何か全てを理解したような気がして、
繋いだ手を離し、後ろを振り返りました。
底の見えない暗い奈落が口を開けました。
かぐや姫は一直線に闇の中へと堕ちていきました。
それでも上を向けば、緋色の瞳がいつかまた会おうと、笑っていました。















月の大きな夜でした。
かぐや姫はその大きな月を見上げていました。
見渡せば、辺りは確かに見覚えのある景色でした。
月明かりの差しこむ竹林は、虫の音と、風に揺れる葉の清らな戦ぎで溢れていました。
かぐや姫はゆっくりと歩きだしました。
慣れ親しんだ家路が青く浮かんで見えました。





























相賀は、そこでやっと息継ぎをした。
「で、終わり」
「……長ぇよ」
土屋は渋い表情で煙草を探した。
「朝一で叩き起こされたと思ったら、何か? おまえ、その妙な夢の事言いたかっただけか?」
「忘れる前に一番に教えてやったんだろ」
「バーカ、お願いだから静かに眠らせろ。だいたい話違ってるだろ。そういう話か? かぐや姫って」
「何か違う?」
「もっと儚げだろ。おまえが話すと全然違って聞こえる」
「……つーか、土屋がはかなげって言葉使うと、色々おかしいよ」
「うるせえ」












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←やっと終わったので、もう帰る。


竹取物語。
絵本と古典ではかなり違います。
特におじいさん。
絵本だと見せ場は最初の竹取の場面くらいですが、古典では
泣くわ喚くわマジギレするわ大変で、そちらの方が好きです。

最後に。
月の使いは時貞でした。
帝は……うん、まあ、最強外道の人?ですかね。