元ネタは特拓同盟様のお絵ビビにある、染井様の冬絵です。 特拓キャラが全員同じ学校だったら良かったのにねー、という願望を胸に秘めてお楽しみください。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 『12月22日』 その日、緋咲薫は朝から不機嫌極まりなかった。 確かに、切れ長の双眸や形良いけれど酷薄な唇のせいで、もともと冷たい印象を与えがちな顔立ちだが、 今日のは「冷たく見えがち」だとかそんな話じゃあない。 もう何だか見て分かるほど不機嫌だ。 偶々通りを向こうから歩いてきた人間は、その様子を見た途端そっと道を変える。 運悪く横に逃道が見つからない人間は、可哀相に俯いて視線を合わせないようにするしかない。 動物的本能が緋咲と目を合わせることを忌避させた。 そして緋咲が行くのと同じ方向に進みたい人間も、その後姿に漂うただならぬ鬼気を察して クルリと回れ右した。 だいたい、人間朝から好んで厄介事に巻きこまれたくはない。 結果、緋咲の周りは冬に似つかわしい荒涼とした風が流れていた。 が、緋咲自身はその事を気にしていなかった。 長い脚は殆ど律儀と言っていいほど規則正しい歩幅を保ちつつ歩いていたが、それすら自覚的でない。 思考のほぼ半分以上を占めていたのは、皮膚感覚による、ある種の刺激だけだ。 寒い。 何が寒いってとにかく寒い。 昨晩の空は凍りついた星月夜。 おかげで放射冷却が今日の朝を冷たく凝固させている。 葉を落とした街路樹が黒い腕で頼りなく支えている、その青空が却って寒々しい。 とはいえ、まさかバナナで釘が打てそうなほど冷えこんでいるわけではない。 まあ例年通りといった程度だ。 無論緋咲だってそんな事ぐらい分かっている。 が、そうじゃない。 寒さの程度が科学的にあるいは経験的にどれほどなのか、そんな事が問題なのではない。 問題は、今、寒いと感じていて、しかも学校に行くためにその寒空の下を歩いていることだ。 それだけの事だと言ってしまえばそれまでだが。 少なくとも一時間前に苦しみながらベッドから這い出した緋咲にとっては死活問題だった。 さっきから脳味噌の中で誰かと誰かが「寒い寒い」と大合唱している。 いっそ悲哀すら胸に迫りそうだ。 おかげで脳が茫として上手く働かない。 思考が直に混線してしまう。 こんがらがった思考が追ってるのは、自分がここにいる理由だ。 今日は12月22日。 二学期最終日、そして終業式。 学校でやるべきことといえば、教室行って鞄置いて、体育館に集められて、 その前に抜け出して、暖かい保健室に行って寝るくらい、だ。 そこでふと考える。 だったら、特別行く必要は無い。 緋咲は、何か色々と考え損ないをしているような気がほんの少しだけしたが、 この際どうでもよかった。 取敢えず、帰ろう。 そしてもう一度寝よう。 それから全て考えよう、と緋咲が足を止めた時、背中にどんと当たるものがあった。 誰かが背中に凭れかかっている。 緋咲相手にいきなりそんな事をする奴は、あまりいない。 「……何してんだよ、時貞」 肩越しに振返ると、緋い瞳が間近で眠そうに瞬きした。 「オハヨー」 「オハヨー、じゃねーだろ。重い、退け」 「……寒い」 背中に寄り掛っていた時貞は、退けと言った緋咲の首にもぞもぞと腕を回した。 「はー、背中暖けぇ……このまま学校行こう」 「行くか バカッ!!離せよ!重いっつってんだろッ」 「大丈夫大丈夫」 「大丈夫じゃねーよ。おまえの顔冷てぇんだよ!人の首にそんなもんくっつけんな!」 「じゃあ暖めてやるからさー」 時貞は緋咲の首に回した腕でぎゅっと抱き締めた。 途端に緋咲が妙な声を上げた。 「……おまえの腕、さっきからいいトコ入ってんだよ。絞まってんだよ! なにか?おまえわざとか?朝から落したいのか?そろそろ殴りたいんだけど、いいか?」 時貞は緋い瞳を猫のように細め、何だか楽しげに笑うだけだった。 緋咲は疲れきった溜息をつく。 その傍を一台の単車が駆けぬけた。 パールホワイトのFXに乗っていた人間は、ちらりと二人の様子を一瞥したが、特に何も言わなかった。 が。 「その可哀相な人を見る目付き止めろッ秀人!ちょっと待て!おまえホントむかつくんだよ!」 緋咲はその背中に思いきり怒鳴った。 しかし秀人の姿は見る間に小さくなっていき、 「ホントむかつく……あ、やべぇ、まじで悲しくなってきた」 緋咲の声は殆ど呻きに近くなり、しかも首が絞まったせいで咽ていた。 時貞はそんな緋咲の耳元で、やはり笑いながら慰めにもならないことを囁いて慰めようとする。 そんなのを聞きながら、緋咲の機嫌は更に悪化の一途を辿る。 そして、取敢えず学校に行ってこの不機嫌さを解消しようと心に決めた……。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ある意味学園こめでぃ。 そして三人とも学ランでお願いします。 学ラン万歳! はーい、お察しの通り管理人は2004年も腐ってます☆ お帰りはこちら。 |