『魚の骨』

焼き魚。
その食べ方一つで、その人間が今までどんな生活をしてきたのか分かるってもんである。
今、土屋は難しい顔をして、隣に座っている相賀を眺めていた。
相賀は目の前に置かれた皿と格闘していた。
焼き魚の骨が上手く取れずに箸で突付きまわすが、魚は益々無残な姿になっていく。
皿に盛られた時はあんな綺麗な姿をしていたのに…と
作った本人である土屋は恨めしく思った。
「おまえ、もう少しまともに魚食えないのか」
「違う。この魚なんか食いづらいんだよ。全然骨とれねーよ」
それはたぶん間違いだろう。
土屋がちらりと前を覗くと、緋咲はもう綺麗に骨を取った後だった。
「やっぱおまえが下手なんだよ」
「う、うるせぇな!」
「そのグチャグチャにした奴、ちゃんと食えよー。骨取れねーなら、そのまま飯と一緒に飲んじまえ」
「バカ!絶対死ぬッ!!だいたいなんで今日も魚なんだよ!昨日も魚食ったじゃねーか」
「人に作らせといて文句言うなッ!」
ちなみに、魚が食いたいと土屋に言ったのは緋咲だった。
が、我関せずと言った顔で行儀良く箸を動かし、時折テレビのニュースを眺めていた。
昨日も火事があったのかと思いながら、いつものことである二人の騒ぎを聞き流す。
しかしその声がニュースを聞き取れないほど煩く、ただのガキの言い争いに変わらなくなると、
おもむろに茶碗を置いた。
「うるさい」
それは決して大きな声ではなかったが、二人は慌てて口を噤んだ。
恐る恐る、機嫌悪そうな緋咲の顔を見る。
すると緋咲は相賀の皿を掴み、あっと言う間にあの無残な魚から骨を取ってしまった。
「ほら」
そして無造作に皿を返す。
その時の相賀の顔は、まるで好物をもらった犬コロのようだと土屋は思った。
「ア、アリガトウゴザイマス!!」
頬を紅潮させて言った礼はアクセントがお笑いだったが、緋咲は何でもないように答える。
土屋は思わず声を上げた。
「緋咲さんッ」
自分の皿を持つ手に力が入る。
緋咲はそれを一瞥すると
「あぁ、おまえは綺麗に骨取れているな」
味噌汁をすすった。
土屋の魚は、とっくに骨が取ってあった。
「えぇ…そうですね…」
自分の皿を見下ろし呟いた土屋は、緋咲から見えないところで床を殴り続けた……

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何事にも予期せぬ結果があることを心得なければいけません。


お帰りはこちら。