『冬の味覚』

その日、秀人クンは今年一番のバカヅキだった。
学校終わらせて、そのまま家に帰るのも何なんで、ふらっと入ったパチンコ屋。
初めていくトコだったが…これがバカヅキ。
あたり過ぎて思わず本人が焦るくらいのバカッツキ。
(い、いいのか??こんな出て…オイオイ隣のおっちゃんビビってるよ)
結果、一時間で秀人クンはそこを出た。
戦利品、マルボロ1カートンとか現金×万円とか……まぁ、とにかく色々。
あと蟹。カニです。
赤くて脚が一杯ある例の奴。それ4杯。
パチンコ屋のなのでいまいち美味いのか信用が無い。
が、まぁよしとしよう。
久しぶりのカニだし。
帰り道をぷらぷら歩きながら秀人クンは考える。
このカニ、四杯のカニをどうしよう?
だんだんと、暮色から深い紺へと変わっていく空。
そんなのを眺めながらぼんやり考える。
一人で食うのもなんだし、吉岡とかオっくん呼んでみようか。
アパートの錆の浮いた階段を上がった秀人は小さく首を傾げた。
誰かが部屋の前に座りこんでる。
ドアに寄りかかって、脚を投げ出して。
「おまえ…またそんなトコで何してんだよ」
秀人に気付いたソイツが顔を上げた。
「別に…」
緋咲は不機嫌な声でそう言って、ぷいっと秀人から顔を背けた。
どこらへんが“別に”なんだろう。
まぁ、いつものことなんで秀人は気にせず部屋の鍵を開けた。
「そこにいっと、邪魔だから。中入れ」
冷たい色の瞳はじっと秀人を見上げる。
動こうとしない緋咲に、秀人は小首を傾げた。
「カニ食うか?」
緋咲は小さく瞳を瞬かせて、それから溜息ついて
「…どうせパチンコのだろ」
そして小さく笑った。




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えー、どうやら当時管理人はカニを食したかったようです。


お帰りはこちら。