WARNING!

この先、18歳以下の閲覧を禁止します。
描写はわりとぬる目ですが、それでも禁止
はん?18禁なんて全然OK、な方も以下の条件にあてはまるかご確認ください。

・夏生×龍也……と、聞いても別に平気だ。
・と言っておいて、『 blue 』みたいに緋咲さんが龍也兄さんに嫌がらせする話でも構わない。
・やっぱり二人はセフレだと思う。

ハイ、以上3点です。
いい加減にしなさい、という方の出口はコチラ

ドンと来い!、と言う方は↓へ進んでください。


注意!このSSは表・裏においてある他のSSとは別ものとしてお読みください!












lip service


- lip service -








第二理科準備室の存在が
乱校の生徒ばかりか教師にまで忘れられて、もう随分と久しかった。
出口も無く閉じ込められ、滞るひやりとした空気が薬臭い。
それが、さっきからずっと気になっていた。
「……窓開けたい」
そう呟く声に返事はない。
「なんだっけ、この匂い…俺嫌いなんだよ」
照明はつかず、カーテンも一つ残らず閉めきられていた。
厚く黒いカーテン越しに僅かな外光が差し込むだけ。
間近にいるはずの人間の姿でさえ影のように見える。
薄闇の中、響くのは
濡れた音と抑えた吐息。
「ッ…いいだろ?どうせ二階なんだし…」
囁きは熱を孕んで少し掠れた。
もう返事は期待せずに
脚の間で膝をつき座りこんでいる影から離れ
カーテンを開けたら、そこは
溶け合う、白と薄紅の光。



視界に溢れた明るい光に、冷たい色の瞳が細められる。
窓を開けた緋咲の傍らを穏やかな風が吹きぬけた。
緋咲は小さく息をつく。
薄暗い場所にいるせいで、ずいぶんと外の光が眩しく感じられた。
窓の向こう側は、桜。
風に煽られ、花弁を散らせてゆらゆらと。
薄紅に漂う雲のよう。
手を伸ばせば、満開に花をつけた枝に届きそうだった。
「春だねぇ…龍也サン」
見事に咲き誇った桜を眺めている横顔に、床に座りこんだままの龍也は鼻で笑った。
「あんまし似合わねーコトしみじみ言うな、笑うから」
立ち上がり、膝についていた埃を払うと
先程まで緋咲が座っていた、古びたソファーに長身を沈めた。
薄紅の切片が舞いこむのを目で追い、緋咲は振り返る。
乱れた服から覗く肌の青白さは、桜のせいなのか
昼の日中に酷い違和感と艶かしさを漂わせていた。
「最近なんてずっと家ん中いたからさ……」
窓をそのままにして緋咲は龍也の隣に腰を下ろした。
「桜なんていつ咲いたんだよ?つーかこないだまで雪降ってなかったっけ」
「バーカ。たまには昼間外に出ろ」
「あんたは学校あるからいーけど、俺は別に昼間に用が無いんでね」
龍也の隣で夜行性の生き物が笑った。
「どーせ寝てるだけなんだろ…」
龍也は興味なさそうに言う。
緋咲も自分の昼間行動を教える気は特に無く、光の差しこむ理科準備室を改めて見回した。
ガラス瓶の並ぶ棚。
高く積まれたダンボール。
人体模型の影に転がっている白い頭蓋骨。
みんな埃の層に埋もれ、光の届かない薄闇を背景に淡く浮かんで見える。
「…いーね、ココ。他に誰も来ないだろ。こんなとこよく見つけたね。
前から知ってたの?」
もの悲しく床に転がる骨を、緋咲は目を細めて眺めた。
あれ欲しいな。
龍也の耳に唇を寄せて囁いてみるが、応えはどこか鈍い。
緋咲が指差す先を見もしないで
「…勝手にしろ」
短く呟くだけ。
火のついていない煙草を銜えた横顔は、何か別のことに気をとられているようだった。
双眸に宿る鋭利な光は影を潜め、握ったままのジッポをぼんやり眺めている。
「あんた、何ボケてんだよ」
緋咲が怪訝な声を出すと、龍也はようやく顔を上げた。
「ん、別に」
「……ふぅん?」
緋咲はきゅうと目を細めて、龍也の横顔を眺める。
そこに浮かぶ表情の小さな欠片さえ見逃さないように。
「ここは、見つけたっつーか…教えてもらったんだけどな」
その眼差しには
ほんのちっちゃな、上機嫌。
「…へー」
緋咲は唇を吊り上げる。
「その、夏生って人だろ」
思わず龍也は眉を顰めた。
「…俺、緋咲に言ったか?」
「やっぱりな」
軽くひっかけられて龍也は目付きを険しくする。
けれどこの、おっとこまえな兄さんが狼狽してるのは、よく分かっていて
緋咲は機嫌良く笑った。
酷薄な唇を軽く舐め、どこか不安を誘う微笑を浮かべる。
「なー、龍也サン」
「…何だよ」
「俺も会ってみてーなー、その人に」
「こんのバカッ!!絶対ぇダメだ!」
叫ぶ様に答えた龍也は嫌な予感がしていた。
緋咲がこんな笑い方をするときは、大抵ろくでもないコトしか考えてない時だ。
冷たい色の瞳がすぐ傍で危うい輝きをしている。
「何ムキになってんだよ?」
「ダメだッ」
「だってさー、あんた良く話しすんだろ?その人のコト。
そこまで男前に語られたらフツー見たくならねー?なー、ちょっとくらいいーだろ」
「てめぇだけは!絶対に…ダメだッ」
「何でだよ」
「……余計なコト言うだろ、てめぇは」
睨むような眼差しの中の、焦りと困惑が緋咲を楽しませる。
『夏生』という会ったことも無い人間は
龍也の慌てた顔を見せてくれる大切なカードだ。
「余計な、コト?」
だから、囁く声は慎重に。
その眼差しの、揺らぎも何も逃さぬように見詰めて。
「たとえば、その人が教えてくれたトコで俺の銜えてました、とか?」
「緋咲!!てめぇ…」
一瞬、龍也の瞳に走ったもの。
それに満足して、緋咲は喉の奥で笑った。
「うそ」
至極あっさりと、緋咲はそう言うと
唖然としている龍也の口から煙草を奪い、火をつけた。
「いくら俺でもやらねーよ、そんなめんどくせーコト。つーか、うぜぇし。
もしその人に会っても別に何もしないんで、どーか気にせずラブラブになってください」
細く吐かれた紫煙が龍也の顔の前を漂う。
「……おまえムカツク」
龍也は喉の奥から絞り出すように言うと、新しい煙草を銜えた。
薄く微笑している緋咲をしばらく睨んでいたが、やがて諦めたように身体から力を抜く。
「その性格、ホントどーにかしろッ」
眉根を寄せ憮然と煙草を吸っている仕草が楽しくて、緋咲はまた笑った。
「…分かってねーなぁ、龍也」
「何がッ」
「俺は、あんただから、こんなに苛めてんの。間違えんなよ」
「……はぁ?」
ちっとも訳がわかんねーって顔をしている龍也を引き寄せ
緋咲は冷たい色の瞳を煌かせる。
「あんただから、楽しいんだよ」
耳朶に唇が触れそうなほど間近で囁くのは、艶かしい悪意。
「楽しくて、好きだからしてんの。よかったね、あんた割と俺に愛されてる」
告白する声は背筋が粟立つほど淫らで
そして冷たい。

「ヒマつぶしに、いいからだろ」

簡単に真実を言い当てた龍也は剣呑な笑みを浮かべた。
緋咲が唇を吊り上げる。
何も言わずに龍也の言葉を肯定し、緋咲は首を巡らせた。
指に挟んでいた煙草を床に落して踏み消し、またぼんやりと窓の方を眺める。
柔らかな風が花弁を運び、緋咲の髪を軽くなぶっていった。
龍也もソファーに深く身体を沈め、桜を眺める。
開けた窓は一つ。
薄暗い部屋で、そこだけ切り抜かれたみたいに、桜。
少し雲の湧いた空に薄紅色が溶けこんでいく。
きっと外に出てこの桜を見上げたら
もっときれいで恐ろしいのだろう。
視界の隅で花弁が螺旋を描いた。
「…あー」
龍也の肩に寄りかかって桜を眺めたまま、緋咲はポツリと呟いた。
「でもやっぱし心配かも…」
「何が」
「あんたのこと」
紫煙をくゆらせながら龍也は
どうせまたコイツはろくでもない事を考えているのだろうと思った。
冷たい色の瞳に桜を映しこんだまま緋咲は呟く。
「だって龍也サンて舐めんの下手だし」
「何の心配だよッ」
身構えていても龍也は叫ばずにいられなかった。
「ソコんとこ重要だろー?だって上手い奴と下手な奴ならどっち選ぶんだよ。
そのうち“夏生さん”に飽きられて捨てられるんじゃねーの……あー、心配だ」
すっ呆けた声に殺意が湧く。
「…てめぇ、いい加減に殴っぞッ」
龍也はあるだけの悪意を込めて、言った。
「てめぇみてーな、ド淫乱と比べんなよ」
龍也に寄りかかっていた緋咲は少し顔を上げ、目を瞬かせた。
「…普通、面と向かって言うか?“ド淫乱”って……うわ、なんか恥ずかしー。
そういうコト言う人の口にはもう入れねー」
なんとも妙な言い分を龍也は鼻で笑い飛ばした。
「バーカ、入れて欲しくねーよ」
ド淫乱が余程気に食わないらしく、緋咲は顔をしかめて悪態をつく。
「…あんたに口でしてもらうより自分でヌイた方が絶対早ぇな」
そして自分のものを取り出すと指を絡めた。
「さっきイってねーんだよ、俺」
龍也を見上げる瞳は随分と不機嫌。
龍也が言い返そうとすると、ふいっと顔を背けてまた桜を眺めだした。
白く長い指が動く。
青白い影を落す睫毛が時折震えた。
「……ッ」
小さく息が漏れる。
面白くもなさそうな顔が、次第に快感を追い始める。
柳眉は少し顰められ、酷薄な唇が赤く色付いて抑えた吐息を零していた。
それは、居心地悪く放って置かれた龍也の視線を絡めとるほど煽情的で。
身体の奥の暗い場所が疼きそうになる。
その煩わしさに龍也は深く紫煙を吸いこんだ。
視線を転じて、桜を眺めてみる。
けれど時折響く濡れた音や、耳をくすぐる吐息のせいで
満開の桜すら何か淫らなものを漂わせているようだった。
ばつが悪い。
フィルタ近くまでになった煙草を踏み消すと、
龍也は心のどこかに引っ掛かっていたものを呟こうとした。
「緋咲」
「……ん?」
「俺そんなに下手か」
思わず緋咲は吹き出した。
慌てて龍也を覗きこみ、その顔がふざけていないのを知ってしてしまうと
堪えきれなくなって笑い出した。
「ちょ…マジで止めてくれ!気が逸れてイケねー、つーか笑う!ダメだ笑えるッ
いきなり何言ってんだよ!?あんたもしかしてさっきので凹んでんの?!」
その態度は龍也に少なからず打撃を与えた。
「…うるせぇ」
不貞腐れた声で言うと、龍也は顔を背ける。
ほんの少しでも弱いところを洩らした代償が、この酷い後悔。
「…あー」
緋咲はそんな空気を敏感に感じ取り、ゆっくりと思考を巡らせる。
そして小さく笑ってみせる。
「うそ。下手じゃねーよ」
その微笑は、慰めのためと言うには、少し性質が悪かった。
「下手っつーか、ぬるいだけ」
「それ、フォローしてねーぞ…」
「気にすんな」
緋咲は龍也の肩を叩き、また笑い始める。
「あんたそのままで充分楽しいから、ホント気にすんな」
笑い過ぎて龍也の顔をまともに見れずに、緋咲は桜を眺めることにした。
気付いてみたら、窓の下に桜が降り積もっている。
「…お願いだから、あんまし面白いコトいきなり言わねーで。腹痛ぇよ。
さっさとぬくからちっと黙ってて」
褒めていても貶しているように聞こえる声に
龍也は反論する気すら失せて、新しい煙草を取り出した。
肩に軽い感触がして、緋咲がまた寄りかかってくる。
そしてじっと龍也を見上げていた。
「……何だよ」
こんどは何を言うつもりだ。
警戒する龍也を眺め、緋咲は艶然と微笑した。
「何でもねー…」
喉の奥で楽しそうに笑い、また桜を眺める瞳に微かな朱が走っている。
紅い唇をこじ開けた吐息は熱を孕み
たおやかな春の風に淫靡な悪意を垂れ流す。
唇を吊り上げ、緋咲はそっと目を閉じた。

「春だねぇ…龍也サン」


そんな、桜の日。














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『 blue 』と同じく某所に献上させていただいたものです。
階段の踊り場に続きまして理科準備室です。えぇ…そういうトコ大好きです。
人体模型って高いんですよね。全身骨のが欲しいですな。

注意書きでもありましたが、夏龍前提で。
これに加えて秀緋が前提とか言ったら、セフレっぷりが更に上がりますねな。
あー…龍也兄さんと緋咲さんはホント、束の間いちゃいちゃ、仮初まったり、ぐらいが好きです。
…裏では。





さー、帰っちゃうぞ!