『黒蜜』








抉り出したい、ということは
すぐに分かった。


緩やかな温み。 吐息の感触。 冷たいと思っていた 舌。
眼窩に小さな水音響く。
(滲んで、溶け込む、脳髄の底)
俺の目玉を舐める この舌は、正直だ。
抉りたがって、熱い。

「……ムカつく」

そう言って離れた顔は、ひりりとする苛立ちの目。
濡れた舌が唇をなぞり、
光に潤んで、囁く。

「その目が、嫌いなんだよ」

研ぎ澄ませた刃を、心臓目掛けて滑らかに突き入れるような。
嫌悪は声に、唇に鮮やか。
俺は、とぼけたふりで、白い指をもう一度掴み直す。
引き寄せる身体。 逸れない視線。 逸らすはずが ない。
こいつの目なら、きっと氷砂糖。
甘く溶けて舌の上。

けれど、今は互いの口の中、内側の熱を混ぜ合って、絡んで。
舌は根元まで溶けそうなくらい甘い。


こいつが俺の目玉を奪って、嗤う
俺がその舌を噛み千切って、笑う

きっと、そんなことと同じくらい夢中になっている、今は
密閉した薄闇の底、二人の皮膚、触れたところから境目が消える。
在るのは、感じるのは、生き物の温み。

舐めて
噛んで
裂いて
裂いて
感じる、

脈打つ熱の、二つの心臓。 蕩けて、とろけて
黒い雫になる。


























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秀人くんの方。
対象がそこに在る一瞬こそが重要。




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