『 ムラクモ 』




「あー」

口をつくのは空の色への感嘆だ。
高く、どこまでも昇りつめていく青。
深く、限りなく沈んでいく藍。
白い群雲、真横に流れた。
「あー」
喉がびりびり震えるのが分かる。
冴え渡る空へと駆け登るこの声は、いったいどこまで届くのだろうかとぼんやり考えた。
「ねー、アっちゃん」
「ん」
「気持ちいいね」
「ん」
寝転がった背中、屋上の熱がじんわり伝わる。
堅いアスファルトの床も制服越しなら格好の昼寝場所になった。
あと、必要なものは。
「アっちゃん」
「ん」
「腕、貸して」
伸ばされる腕を枕にする。
何だか、懐かしいような気持ちに包まれた。
この手が好きだ。
大きくて、無骨なこの手。
それに似合わず繊細な仕事をする指が好きだ。
頭を撫でて、髪を梳いてくれる指は、優しい。
「ありがと」
「ん」
「腕、痛くない?」
「ん」
「眠くなりそうだね」
「ん」
「次の時限もこのままサボろうか」
「マー坊」
「なに」
「もう寝る」
「えー?」
もう少し、声を聞いていたかったのに。
耳の傍で小さな相槌が聞こえたきり。
仕方なく、また空を見上げる。
青の一番深いところを流れていくのは白い群雲。
高層の風に乗ったあの群雲は、きっと海を、砂漠を渡っていくのだろう。
目蓋を閉じれば優しい日差しが血の色に透けた。
包み込む柔らかな陽気に身体も心も澄み渡り、いつか綺麗に溶け去って。
あの群雲に乗り、海を見た。






「……アっちゃん……」
「どうした?マー坊」
「……お花畑の、気分だね」

チャイムの音で一足早く目を覚ました秋生は、隣で眠る真里の寝言を耳にして
しばらく一人で笑っていた。
















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