*ご注意*
以下は、土屋×緋咲のふりをして思いきりパラレルです。
あと完全に女の子になってる人がいます。
よし最初に謝ろうか、ごめんなさい。

了解だぜ! という方はドゾー↓


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『少女リビドー』















交差点、ぺかりと赤信号。
車は滑らかに白線で停止する。

土屋はちらりと時計を確かめた。
それは毎朝繰り返す習慣のようなもので、
朝礼に充分間に合う時間であることは分かっている。
目を上げると、横断歩道。
猫が、歩いている?

――ッ

不意に何かが聞こえた。
罵声だ。
車内で良く聞き取れないが、後ろの車列で叫んでいる男がいるらしい。
ざわつく空気を感じてサイドミラーを覗く。 車道に人影がある。
一瞥し、土屋はまた視線を前に戻した。
何があったにせよ、自分に係わり合いは無い。
その時、鈍い音がした。
後ろに並ぶ車のどれかが、堅いものにでも衝突したような。
背後でざわめいていた空気が、何故か、水を打ったように静まり返る。
土屋はもう一度ミラーを見ようとした。
そして、うっ、と 息を飲み込んだ。

ウィンドウの向こう。
車の隣に立っている、その姿を見た時。
一瞬、自分が何かとんでもない間違いをしたように思った。

まず視界に飛び込んだのは、その髪だ。
走ってきたのか、少し乱れたそれは、軽く揺らされてすんなりと直る。
派手な色に染めているはずが、全く自然のものであるように、
艶やかな光が毛先まで流れ落ち、小さく傾けた首が、真っ直ぐ前を向く。
切れ長の瞳が、真っ直ぐに、前を。

その瞳を見た瞬間、土屋は、違う と思った。
否、理解した。

ほっそりした首、白磁の肌、細い鼻梁。
"人形のように" 整った顔貌をしていながら、
その瞳は、凍えた焔のように世界の心臓を射貫く。
眼前の全てを貫き、突き崩し、隷属させる、青褪めた激情。
自分とはまるで違う世界を見据えた瞳。

なにか、愕然として。
その"少女"が、自分の務める高校の制服を着ていることすら、
土屋は暫く気づかなかった。
ただ、その華奢な肢体で、世界と対峙する凄絶な瞳に、目を奪われていた。

ふわりと、風が吹く。
少女は歩き出す。
その先は、赤信号。

土屋は口を開きかけた。 何か言おうとした。
だが 何を?
ウィンドウガラスの向こう。 少女。 交差点。
朝だ。 車の流れに途切れる気配は無い。 その先に向かって、少女は。
土屋は口を開いた。
周りの空気が分厚い壁に思えた。

その時、何を感じたのか。
声にならなかった言葉を聞いたのか。
ふっと 少女が振り返った。
その瞳で、土屋を見た。

形の良い唇が、ほんの微かに、弧を描いた。


「え……?」

と、いささか間の抜けた声を土屋が漏らした時、
少女の姿は車の前をくるりと回って、反対側のドアを開けていた。

「は?」

流れるような動作で中に滑り込み、そのまま土屋に身を寄せると、
唖然としている顔の間近で、微笑む。
それは、どこか酷薄で、
だからこそ、背筋がぞくりとするほど艶かしかった。

唇の端、滲むような赤。
まるで誰かに打たれたような。

土屋の脳裏に何かが閃いた。
だが、それを考える余裕はすぐに消し飛んだ。
ズンと背中がシートに押し付けられる。 タイヤが嫌な悲鳴を上げる。

「なんだッ !?」

咄嗟に言ったが車体は既に飛び出していた。
焦ってブレーキをかけようとした土屋は、気づいた。
自分の足が、アクセルにかかっている。
そしてその上に、白い脚が。
何故か靴を履いていない素足は、指の一本一本まで驚くほど白く、
たおやかに、そこにあった。
土屋の上からアクセルを踏んでいた。

「バカかッ!」

顔を跳ね上げる。
目の前。 右から左、流れてゆく走行車。 向こうの車線も。
そこに急加速で自分の車が突っ込んでいく。
傍らで、少女がくすりと笑った。








































水平線は、曇天の中に溶けていた。
或いは空の方が海に混じり込んでいるのかもしれない。
どこまでが、どうなのか。
鈍色の波音がする。


土屋は溜息をついて煙草を揉み消した。
今見ているこの風景が、三途の川でなくて良かったと、しみじみ思う。
気違いめいた勢いで交差点に突入した車は、偶然途切れた車の流れを、
衝突すれすれの僅かな間を引き裂くように突っ切り、しかしその後も止まることなく加速を続け、
好き勝手に角を曲がり、反対車線に入り、挙句逆走もし、流れ流れて、今、
奇跡的にも無傷で、土屋の後ろにある。
良く生きていられたと、思う。

確かに、土屋はハンドルを握っていた。
だが、綺麗な爪をした白い指もまたそれを掴み、戯れに、気ままに、操る。
その細腕のどこに隠されているのかと叫びたくなる力で。
結局、土屋はブレーキを踏ませてもらえなかった。
しかし、直感していた。
踏めば、死ぬ。
それは狂気の支配する時間だった。
走り抜けるか地獄に転がり落ちるかは、刹那の紙一重でしかなく、
隣にいる人間は逡巡も躊躇も許さない。
ただ微笑んで、前を見ていた。
だから、土屋も前を向くしかなかった。

幸運、だったのか。
死神か悪霊にでも取り憑かれたような車は周りの方が避けたのか。
あれだけのことをした土屋は今、穏やかに一服していた。

砂浜へ下りれば波打ち際に、少女がいる。
長い髪を風が揺らす、その背中。

それだけを見るなら、たしかに "少女" だが。
中身は、そんな可愛らしいものとはまるで別物だ。
端的に言えばイカレている。 しかも、とてつもなく。
何を考えているのか全く分からない。
第一に、最初に会った状況だ。
あそこで何をしていた?
何があって、あの場所にいた?

当の本人は、どこかに靴を置き去りにした素足を、波に晒して。
スカートの端を指で摘み、水平線の方を眺めている。

聞けば早いのだろうが、ここに来るまで言葉らしい言葉を交わしていなかった。
何となく、言葉が通じないような気がしていた。
その瞳も、また。

切れ長の瞳は、冬の湖のようで。
長い睫毛が繊細な影を震わせる。
微笑めば、潤むような光が、揺れて。

けれども、少女の瞳に嵌めこまれているものは、
全く異質な存在の眼球に見えた。
同じ言葉を、感情を、解することなど無いような、別次元の生物の。

あながち間違った評ではないと、土屋は思う。


そんな想いなど、きっと知らないのだろう。
少女は海に立っている。
何が楽しいのか。
何が見えるのか。
こころもち顔を俯け、寄せては返す波の泡を眺め。

やがて。
雲は淡くなり、包まれていた太陽が光る。 光る。
真珠色の世界。


「……おい」

聞こえているのか分からない声を投げた。
名前は知らない。
言うべき言葉も浮かばない、が。
振り返ったその瞳は、土屋を見た。
土屋は柔らかな砂を踏んだ。
少女は波打ち際から歩き出す。
改めて眺めても、その姿はどこも華奢で、小さな顔は土屋の胸辺りにあった。
ほっそりした脚は波に濡れ、砂をまとわりつかせ、
それでもなお青白い足首が、壊れた人形のように退廃的だった。
その瞳が、土屋を見上げている。

『未成年連れ回し』

という言葉がさっと脳裏を掠め、土屋はそれを断固として否定した。
連れ回されたのは、逆だ。
もう一度溜息が出た。

「帰るぞ」

口をついて出た言葉が、何故 "帰る" なのか。
自分でも良くは分からなかった。
何でも良かったのかもしれない。
悪態でも、泣き言でも、伝われば。


少女は、瞳をぱちりとさせて。
それから 笑った。





土屋は時計を確かめる。
朝礼をすっぽかした弁明をどうするか頭が痛むが、
今からでも午後の授業には間に合うだろう。
ああ、その前に。
靴をどうにかしないと。




少女は。
土屋の後について車まで歩きながら、
その瞳をきゅうと細め、前を行く背中を見据めた。
赤く濡れた舌先が、花弁のような口許の、殴られた痕をぺろりと舐める。

躾は、口の利き方から な。

少女の囁きは波音に美しく調和し、土屋には届かなかった。






































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そして三日後にはサン付け敬語を仕込まれてる数学教師。 けどたまにキレる。

そもそも、車中でその体勢はどうなのか。
たぶんギアがハンドルのとこにあるんです。
んで足長いと思っておこう!

逃亡中の女子高生はたぶん妙なバイトしてたんだと思います。
そんなことしちゃダメ!



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