口で何か言うより

眼球に見せ付けてよ

ねぇ?





『妄想シミュレーター』




<前提>

・やはり拘束といったら手錠が好きだ。
・土屋は泥酔いだ(バカクテル服用済み)
*バカクテル…作った奴 相賀。
ジンをベースにその場にあったもので適当に製造。大吟醸も混じっているらしいがありがたみは皆無。
バファ○ンを含む鎮痛剤が隠し味なので普通の人間は飲んではいけない。
・緋咲は素面だ  バカクテルは一口飲んで逃げたらしい。
・季節は冬  時間は夜 外で飲んだ後何故か緋咲んちへGO

<課題>
“土屋は拘束プレイをどこまで強いることが出来るのか その検証”

<目標>
いい加減、緋咲薫をガタガタ言わせ隊


『妄想シミュレーター』

第二回  純潔スレイブ



緋咲は自分の部屋のドアを緩慢に開けた。
「重い。さっさと退け土屋」
「……はぁ、すいません」
緋咲の肩にもたれてヨロヨロしていた土屋はフラフラした足取りで部屋に上がった。
そのままキッチンへ行き、ミネラルウォーターのボトルを取る。
腹の中でバカクテルが化学変化を起こしていた。
冷たい水を飲んで一息つくと、土屋は緋咲のところに戻った。
緋咲はまだ廊下に突っ立ている。
「うぇ……まだ口ん中にあの味が残ってる気がする…」
「なんか作りましょうか?」
「いらねーっつーの。また吐きそうになる」
顔をしかめて緋咲は気怠るそうにコートを脱ごうとした。
いつものようにそれを手伝おうとして後に回った土屋は、ひょいと緋咲の腕を取った。
「ん?」
次の瞬間響いた、金属質な音の意味が分らずに緋咲は小首を傾げる。
「…土屋?」
言われた本人は平気な顔でもう片方の腕を捕まえ、そちらも手錠をかける。
思わず緋咲は叫んだ。

「てめーは阿呆か!?いきなし何すんだよッ」

その発言は彼の人生の中でも指折りの真っ当さだ。
後ろ手にされた手錠が冷たい音で鳴くのを、緋咲は凶事の前兆のように聞く。
「いきなしっつーか前もしましたけど」
当の土屋はのほほんと笑って後から緋咲の腰を抱き寄せる。
「んなコト聞いてねぇよ!……てめぇ、まだ酔ってんな?」
「そうですねー、そういうコトにいておいてください」
緋咲は舌打ちしてバカクテルを作った相賀を呪った。
なんてしてるうちに土屋の手は緋咲の服の内側に入ってる。
脱がすの早ッ
とかツッコミしてる暇すら無さそうなので緋咲はきつく土屋を睨んだ。
「土屋……あんましふざけんなよ」
冷ややかな毒を孕んだ声。
けれど土屋の手が止まったのは一瞬。
「…ふざけてんのは、緋咲さんのほうでしょ?」
酔って力加減の出来ない手が緋咲の白い首を掴んだ。
小さく声が洩れる。
「あんた俺のコトなめてんでしょ……?
この前寝てるあんたにあんなコトした俺の前で、何でそんなに無防備になるんですか」

「いきなし手錠かけられるコト予測して生きてく奴がどこにいんだよ!!」

緋咲の真っ当な意見にも土屋はまったく拗ねていた。
酔っ払いはこれだからいかん。
「はぁ……俺ってすげぇなめられてる…そう思いません?」
「知らねーよッいいから離せ !!」
「これだもんな〜……いい加減俺もキレますよ?」
もうキレてんだろッ
そうツっこもうとした緋咲は首筋を舐められて小さく息を飲んだ。
土屋の唇はそのまま這い上がり、白い耳朶に触れる。
そのまま囁いた。
「あんまり…俺のコト誘わないでください」
何だそりゃ!俺のせいかよッそんなん知っかよッ
「……ッ」
耳の穴に濡れたものが入ってきた感触に緋咲は思わず肩を竦めた。
「ん……止めろバカ!」
服はもう前が全部開かれていた。
剥き出しになった白い肌を土屋の掌が伝い降りる。
「緋咲さんていつも冷たいですね」
それは性質のことを言っているのか、体温のことを言っているのか、いまいち分らなかった。
土屋の声はどこかのんびりしてる。
どこまでが酔っていて、どこまでが素面なのか分らない。
ただ緋咲は
土屋が酔っていようといまいと後で耳から脳味噌出てくるほど殴ってやろうと魂に誓った。
「土屋……今ならまだ優しく殴るだけで許してやっから、止めろ」
自分の肌を撫でていく土屋の手を冷たく睨みつける。
けれど
「嫌です」
土屋はあっさり言い、緋咲の胸の蕾に爪を立てた。
「つッ……」
「この前は緋咲さんの言う事聞いて酷い目にあいましたから、今日は何言われても止める気ありませんよ?」
「てめぇ…!」
緋咲は小さく舌打ちした。
学習してやがる。
んなコトしてるうちに、きつく爪を立てられたところを指の腹で撫でられた。
「ぅあッ……っちょっと待て!マジ嫌だって……ッ」
土屋は緋咲の白く感じやすい耳朶を軽く噛んだ。
腕の中で緋咲の身体がびくんと震える。
「だから、今日は止めないって言ったでしょ?それに……
こんな緋咲さん見せられて止められる人間がいるなら教えてくださいよ」
楽しげな声は熱に酔っている。
耳元で囁かれて緋咲は小さな吐息を洩らしかけた。
その唇が赤い。
這い寄る快楽が冷たい色の瞳を潤ませていた。
「…クソやろーがッ」
吐き捨てる悪態にすらどこか艶かしい響きが混じり始めていく。



そんな時だったが緋咲薫の脳味噌はいつもと変わらず稼動していた。
少なくとも彼にはそう思えた。
そして状況をもう一度把握しようとする。
・手は使えない
・土屋が加減しないで腰を抱いてるから動けない。
・その土屋はキレてて人の話を聞いてねー

ダメじゃねぇか!!つーかなんでコイツ手錠なんか持ってんだよ!

ついでに言うと
ここが廊下なのと、立ったままなのと、しかも後からなのは
通常の人より遥かに逸脱している彼の自尊心を傷つけるのに充分だった。
後ろ手にされた腕の調子を確かめる。
冷たい金属の感触にまた苛立つ。
ままならない状況が緋咲の双眸を冷たくさせる。
第一彼はそういうプレイは心底嫌いだった。
…土屋の分際でチョーシくれてんじゃねーよッ…
それは「のび太のくせに」と同レベルの考えだったが。

怒れる彼の魂が一つの答えを導き出すのに時間はかからなかった。



「はぁ……」
唇をこじあけた溜息は熱を孕んでいた。
緋咲は身体を捻るようにして土屋の手から離れようとする。
その身体を土屋は思いきり抱き締めた。
「逃げないでください…」
肩越しに土屋を睨む緋咲の双眸に雷光の鋭さがある。
目許を微かに朱に染めて、それでも土屋を射貫く、その瞳。
一瞬身体の奥が震えたのは恐怖のせいか
それとも性質の悪い征服欲なのか
土屋にはもうどちらでも良かった。
ただ、自分が手の中に捕らえている存在だけが心を占める。
緋咲が小さく息を飲む。
土屋の指がベルトに掛かろうとしていた。
「土屋……それ以上やったら殺すぞ」
囁かれる冷たい毒を味わって、土屋はそっと白い耳朶に唇を寄せた。
「いいですよ」
猛毒は恍惚に変わり土屋の脳味噌を麻痺させていく。

「…今なら緋咲さんに殺されてもいいです…」
冷たい色の眼差しはそんな土屋を見上げ、そして

嘲笑った。

「じゃあ…死ねよ」
死刑宣告はどこか艶かしくて、響きにひそむ毒すら蠱惑になる。
緋咲は土屋の身体に凭れて唇をねだった。
誘われるように侵入してきた舌に緩く自分のを絡める。
濡れた音が酷く淫らに響いた。


「!?」
突然土屋が緋咲を離した。
口の中を鉄錆の匂いが溢れてくる。
脈動と共に痛みと血液が舌の上を広がっていった。
「噛み千切らなかっただけでもありがたく思えよ?」
土屋の顔を覗きこむ、緋咲は背筋が粟立つほど艶かしい微笑を浮かべている。
酷薄な唇を彩る土屋の血を赤い舌がゆっくり舐めた。

じわりと込み上げてくる恐怖すら食い散らかすのは
脳細胞を侵食する官能の眼差し。
それが充分致命傷。
心がさっさと白旗を上げる。

次の瞬間、土屋の視界から緋咲の脚が消える。
土屋が風切り音を聞くのと同時だった。

脳味噌を鈍い音が揺らす。

緋咲の蹴りは流麗な軌跡を描き、土屋の耳の上を正確に抉った。
全衝撃が脳味噌にかかる。
土屋がその場に踏みとどまることが出来たのは僥倖だ。
膝にはもうまったく力が入らなかったが。
神経連鎖が散々に食い千切られて、頭の中がからっぽになる。
土屋はただ緋咲を見ていた。
酷薄な唇が弧を描くのを眺めていた。

「てめーこそ、俺をなめてんだろ?土屋…
手ぇ使えねーぐらいで俺がてめーに負けるとホントに思ってたか?
だとしたら…」

緋咲の影が流れる。
一瞬で間近に現れた冷たい色の双眸。
土屋は自分の右腿に軽い衝撃を覚える。
次の瞬間、何が起こったのか分らぬまま土屋は吹っ飛ばされた。
網膜の裏側で閃光が破裂する。

「……甘すぎだな」

土屋の脚を踏み台にして、右ヒザでその顔を蹴り上げた緋咲は薄く笑う。
土屋はもう起きれなかった。
指の一本も自由に動かせなかった。
歪んでいく視界を小さな青白い火花が散っている。
極彩色の影が舞い踊る中に ふと緋咲の顔が浮かんだ。
冷たい色の瞳で睫毛が揺れている。
「…んな甘い奴が俺に殺されてーなんて軽く言うんじゃねーよ…」
何か言い返そうとして、そうして

唐突に意識は暗転する。
















「バーカ」





















夢を見た。

あんまり都合がいい夢で
 泣きそうになる



















泣くかよ



























土屋が目を開けると、先程と同じように緋咲が顔を覗きこんでいた。
腹の上に乗って、土屋を見下ろしている。
目を覚ました土屋に、ふと小首を傾げてみせた。
その顔がゆっくり降りてくる。
柔らかなものが唇を塞ぎ、舌が歯列を割入ってくる。
舌先で土屋のそれをそっと撫でると緋咲は顔を上げた。
「なんだ…大したコトねーよ。しばらく喋り辛いだけだろ」
舐められた個所が熱を持ったように痛む。
『もう少し別の心配もしてください』
と土屋は言おうとしたが、痛む舌のせいでその音は緋咲を笑わせるのに充分だった。


この後一週間、
土屋はどうして喋らないのかと聞かれるたびに相手を殴るはめになる。





『妄想シミュレータ』
第二回 純潔スレイブ 終了


<反省会>
・ありがとうバカクテル さようなら禁忌を厭う理性
・しかし油断大敵とはよく言った言葉だ。
・拘束プレイには俊敏な動作と情容赦無い心意気が必要であることを忘れた奴はああなる。
・やっぱりヨダレ玉…

<総評>
だいぶ惜しいところまで来ましたがまだまだですね。
ですがあなたの人間的な甘さはそのまま評価されて然るべきものです。
ぶっちゃけあなたが甘いんではなく緋咲が変なのです。

お疲れ土屋…!


<感想>
気に染まない相手の舌に噛みついて抵抗するなんて、いにしへの生娘か貴様!とか思った方は俺と同類だ!

つーか……轟沈!!
阿呆なオチつけるくせに肝心の目的が果たせてないヨ!(泣)
ガタガタ言わせたかったのに…だ、ダメですよね?ガタガタ言ってませんよね?!
はぁあ……・精進しますわ。
…てか誰か書いて…(嘆願)
でもなんかエロ小説書いてるみたいで楽しかったです。
特に土屋のイカレた台詞が…(笑)




とにかく帰ろうか。