他人の喧嘩を眺めるのも、たまには悪くない。





 『屠殺人の晩餐』










長い手足が動く。翻る。
伸びやかなそれが軌跡を描けば肉を打つ鈍い音。
あるいは砕けるような。
潰れるような。
鼓膜にへばりつく音と共に木偶が倒れる。
次々と、操り糸が切れたように。
その向こう側で白い面が小さく笑う。


罵声や、苦痛の呻きや、怯えのそれは、もう充分過ぎるほどここにあるが。
所詮他人のものだ。
空気がどろりと濁っているように、音はただ沈殿していく。
頭の上にあった日は陰った。
世界は灰色の何かで満たされている。

水銀の沼だ、ここは。
木偶は泳ぐことも出来ずに沈んでいく。
もがく手を、足をかいくぐり、蛇が牙を剥く。
そうして餌は腹の中。
蛇は水銀の沼を優雅に泳ぐ。

拳が綺麗な弧を描いて木偶を薙ぎ払う。
白い面にはいつのまにか点々と赤。
薄い唇が吊り上がる。
赤い舌がちらりと覗く。
目を細めて蛇は笑う。

「よぉ……ちっとは手伝ってやろうとか、思わねえのか」

嘲るように言った目の色は酷く冷たいくせに。
うっとりと蛇は笑う。

「バカか。てめえは何様のつもりだ」
「あ? 様付けで呼んでくれるんだ?」

バカが。
女王様ーと言ってやったら怒ると思ったのに、意外と平気な顔をしていた。
と思ったら木偶をこちらに向かって蹴り飛ばしてくる。

「危ねえな」

それを脇に払い除け、気づいた。
ここにはもう二人しか立っていない。

つまんねえなあ、やっぱり。
そう詰まらなそうに言って、転がる木偶を見下す蛇は。
あれだけ好き勝手に木偶を屠っても、それでもまだ飢えている。
どうしようもなく。

赤く染まった手を広げ、小首を傾げて。

「ほら、場所空けてやっただろ?」

蛇が待っているから。








秀人は銜えていた煙草を投げ捨て、足を踏み出した。

















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おやつは別腹。


今更言いますけど、このサイトは緋咲さんしかいませんよ。



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