『ハロウィン』
「あー」
10月も終わりの集会。
肝心の人間はまだ来ない。
「あ゛ー」
よくあることだ。
時間にルーズなわけではないが、他に気の向くことがあったなら、あっさりそちらを優先させるような人間だ。
今は何をしているのか、考える。
あの人の携帯が、きちんとその機能を果たすならば話は早いが。
それにしても。
「ああ゛ー」
「……おまえ、うるさいよ」
「うるさくしてんだから当たり前だろ!」
「わかってんならやんな、 バカ」
野良犬大将は拗ねたように口を閉じる。
10月も終わりの集会。
肝心の人間はまだ来ない。
あの人がいないのなら、これはただ、野良犬の群に過ぎない。
野良犬大将は拗ねたように 「遅い」 と何度も口にする。
遅れようが何だろうが来ると言ったら来る人なんだから、いい加減こういう状況に慣れるべきだ。
けれど野良犬大将は 「遅い」 と何度も口にする。
それはいつのまにか妙なリズムになっている。
「歌うなよ」
「だってさあ、悲しくなんだよ? ツライね。エサ目の前にしてオアズケ食らってる気分」
「そんなもんか」
「そーなんだよ、俺は。あー、胸がキュンキュンいってる」
「……きゅんきゅん」
「うん。キュンキュンね」
「おまえソレ、腹減ってんだろ」
「違ぇよ! 胸だって言ってんじゃん」
「何か棲んでんじゃねーか?」
野良犬大将の言うことは、時々わからない。
「あ゛ー」
「今度は何だよ」
「やっぱ腹減ってるかもしんない」
「俺は知らねーぞ」
「あー、せつねー。なんか今日せつねー。つーか、カボチャって何?」
「は?」
「今日のさ」
「……ああ」
切りぬいた中にはロウソクの火。
ハロウィンのカボチャ。
野良犬大将の話は軽やかに飛躍する。
「幼稚園の時やったけどさ、未だに意味わかんね。何スカあれ」
「カボチャ飾る祭だろ」
「だーかーら、その意味がわかんねーっての」
「……たしか……」
昔、ジャックという男がいた。
カボチャに顔を刻んで、町の子どもたちを笑わせた。
そして子どもたちを家に招待した。
子どもたちは一人も帰ってこなかった。
町の人間はジャックの家に火をつけた。
それから町の子どもたちの見る夢に、焼け死んだジャックが来るという。
町の人間は怖くなって、ジャックのカボチャに火を入れて弔った。
それが始まり。
「……とか、そんな話」
「…………あのさ」
「あ?」
「思いきりウソついてるだろ」
「んー、知らん。興味ねぇし、うろ覚えだし」
「何それ何なのソレ。怖ぇよ怖いよ、オレ嫌だよそんなのっ」
「嫌とか言われても」
「何でそんなんが祭になってんだよ! おかしいって!
絶対ウソだって!」
「理由なんざ大抵くだらねーもんだろ」
「……絶対おかしいって」
「じゃ、あの人に聞いてみな」
夜の底を轟かせるFX。
ようやくあの人がやって来る。
それだけで野良犬大将は喜色満面。
飛びつくように駆け寄って、早速カボチャの話をする。
あの人は煙草を銜え、黙って話を聞いている。
野良犬大将の話っぷりは実に楽しそうで、さっきまで少し本気でびびっていた姿とは大違い。
ゆっくりと、紫煙が漂う。
冷たい色をした瞳がこちらを向いた。
「おまえら、何やってんだ?」
「おまえらの 『ら』 が気になんですけどね、あんたが遅れたんでしょ」
「今日、朝起きたんだよ」
「いいじゃないですか」
「朝起きると、夕方までもたねぇ」
「はあ」
「だから少し寝てたら、夜になってた」
「……はあ」
言われてみると少し眠そうなあの人は、野良犬大将に向き直る。
「その話は、違うと思う」
「ですよねー。んな怖い話が祭になるなんてオカシーですよ」
「もとは、カボチャをくりぬいて」
「うんうん、くりぬいて」
「中に悪い子をいれて」
「悪い子を……い、いれて?」
「燃やした」
野良犬大将の顔がひきつる。
あの人はしげしげとそれを眺め、溜息とともに言った。
「おまえは多分ぎりぎりでダメだろう」
意味わかんねぇ。
「……ダメっすか……」
野良犬大将には意味が通じたらしく、がっくりと凹んだ。
どうやら自分が悪い子だという認識があるらしい。
どうでもいいが、こいつら変だ。
「いや、そんな話絶対無いですから! どう考えてもおかしいですから!」
「なんだよ」
「なんだよじゃないでしょ! 燃やしてどうすんですか!
それどこの国ですか! あんたまだ寝てんですか!」
「先に燃やすって言ったの、おまえなんだろ?」
「ウソに決まってんでしょうが!」
「なんだ、つまんねぇな」
「……だいたい、そこで凹んでる奴がダメなら、あんたは致命的にダメでしょ」
失言だったかどうか判断する前に、煙草を持ちかえる白い指に目がいった。
衝撃は次の瞬間。
何を食らったのかは脳が揺れているせいで分からないが、このまま意識を失うと、
悪い子を探して飛びまわるカボチャを夢に見そうで嫌だった。
堪えたのは数秒。
その後で目を開けた。
あの人は、なんだか面白そうに笑っていた。
揺れた脳に痺れが走る。
俺は精々得意げに見えるように、口の端を上げた。
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ゆっるい感じの麓沙亜鵺でした。
それぞれが誰かはお分かりいただけたと思いますが、相賀が野良犬大将なら他二人は何でしょう。
……おねむ大将とツッコミ大将かなあ……ゆるいなあ麓沙亜鵺。
あと、大ウソつきが二人いますね。
最初のジャックの話はエルム街です。
次の「悪い子燃やす〜」は秋田県男鹿のなまはげが混じってますかね。
……素でボケてたらどうしよう!
殴られることによって耐久値が上がるゲーム、昔なかったですかね?
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