『中坊日記〜身体計測〜その2』


見上げれば、すべて桜。
廊下を歩く平蔵を覗き込むように、窓の向こうでは桜が花を揺らせていた。
ここまで桜の匂いがするよう、な。
けれどきっと錯覚だ。
風に揺れる枝花を見るともなく眺め、平蔵は歩く。
次の4限の授業はたしか“社会”
出ようか、サボろうか、どうしよう?
窓の向こう、桜はどうでもよさそうな顔で揺れていた。
「…あ」
廊下の向こうから見知った姿がやってくる。
「薫ちゃーんッ」
平蔵の声にぼんやり歩いていた緋咲が顔を上げる。
「今ガッコ来たの?」
すると緋咲は首を横に振った。
「違う。今から帰んだよ」
冷たい色の瞳がちらりと窓の向こうを見る。
その様子はどこか眠そうだ。
「…天気いいから」
つられるように平蔵も窓を見た。
柔らかな春光の下、桜色が溶けるように揺れている。
平蔵の横で緋咲が小さな欠伸をした。
「……帰る」
またぼんやり歩き出した緋咲に平蔵は慌てて声をかけた。
「忘れてた。薫ちゃんさ、呼び出しかかってるよ」
「呼び出し…?」
振り向いた瞳に冷ややかな光がちらついている。
剣呑な想像をした緋咲に、平蔵は頷いてみせた。
「そ。保健室から」
思わず緋咲は小首を傾げる。
「薫ちゃん、身体計測受けてないでしょ?だから。
あと受けてないの薫ちゃんだけだから保健室でやってくれるんだって。
薫ちゃんに会ったら言えって頼まれてたの忘れてた」
「……あー、あったな、そんなもんも」
「ねー、今から行こーよ。俺ヒマだからついていってあげるよ?」
緋咲は少し考え込んでいた。
どうせ、めんどくせーとか思ってるんだろう。
平蔵はおもむろに緋咲の肩に手を置き、間近に顔を覗きこんだ。
「薫ちゃんさ…ちょっと前から思ってたんだけど…」
冷たい色の瞳が小さく瞬く。
「なんだよ」
「俺より背が低くない?」
「あ……?」
緋咲の声が一段低くなる。
「平蔵…てめぇ何アホ言ってんだ?んなコトあるわけねーだろッ」
「だってさー、ホラ」
平蔵は緋咲の顔と頭をしっかり掴むと、目線の位置を確かめてみた。
すると、僅かではあるが平蔵の方が緋咲を見下ろす形になる。
「ね?」
笑顔で言った平蔵は、その瞬間殴られた。
「ふざけんな !! 絶対ぇ認めねーぞッ ! 今からちゃんと確かめてやるからな ?! ついてこい平蔵 !!」
有無を言わせぬ剣幕で緋咲は平蔵を引き摺る様に保健室に急いだ。

結果、その差 2cm。
小指の先程の差に世の不条理を嘆いたのは、やっぱり緋咲のほうで。

「……なんでだ……」






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自分より低いと思ってた奴に越されると凹みませんか?


お帰りはこちら。